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    国際

    トランプ流「福音派ファースト」が招く中東危機

    読売新聞調査研究本部主任研究員 岡本道郎
     トランプ米政権がイスラエル建国70周年にあたる5月14日、商都テルアビブに置いてきた在イスラエル米大使館を聖都エルサレムに移転した。昨年12月、米大統領として初めて、エルサレムを「イスラエルの首都」と認定してからわずか半年で、トランプ氏は選挙公約の大使館移転を断行した。しかし、パレスチナ自治区ガザでは、大使館移転に抗議するパレスチナ人のデモ参加者とイスラエル軍が衝突し、市民60人以上が死亡、3000人以上が負傷する惨事に発展している。親イスラエル一辺倒路線を突き進むトランプ政権が、混迷の中東をさらに危険な「負のスパイラル」に追い込んでいる構図を読み解いた。

    建国70年、エルサレムに米大使館移転を強行

     「ちょうど70年前、トルーマン大統領の米国は、イスラエル国家を承認した最初の国となった。今日、我々は公式にエルサレムに米大使館を開設する。おめでとう」

     東西エルサレムの境界、つまり、1948年の第1次中東戦争後の停戦ライン(グリーンライン)上に位置する米大使館で14日に行われた開館式典に、トランプ大統領が寄せたビデオメッセージだ。

     式典の日付は意識的に選ばれた。イスラエル建国の父ベングリオンがユダヤ国家の独立を宣言したのが1948年5月14日。その11分後に当時のトルーマン米大統領が世界に先駆けて承認を通告、イスラエル始動に決定的な役割を果たした史実を想起させながら、トランプ氏は、イスラエルが「永遠不可分の首都」とするエルサレムへ、70年の時を経て大使館の移転を実現させた米大統領としての自負を示して見せた。

     その気概は、「長年にわたり、我々はイスラエルの首都はエルサレムという明白な現実を認めてこなかった。それが(私がエルサレムを首都と認定した)昨年12月6日、変わった」との言葉に如実に表れている。ホワイトハウスが大使館移転に際して流した報道資料も、「過去の大統領は選挙戦中には公約にしながら、当選してホワイトハウスに入ると約束を破ってきた。そうした数十年を経てトランプ大統領は、米国にとって最大の同盟国を支持する約束を果たした」とことさら明記。大使館移転を定めた95年成立の「エルサレム大使館法」の施行を、歴代政権が中東和平への悪影響などを考慮していずれも先送りしてきた経緯を際立たせ、トランプ氏の「公約履行」を繰り返し強調した。

     記念式典でイスラエルのネタニヤフ首相は、喜色満面だった。

     「何という輝かしい日だ。トランプ大統領、あなたは歴史を作った。ありがとう!」と返礼。子供の頃、東西エルサレムの境界付近で、母親に「それ以上遠く(アラブ側)へ行かないように」と言われた自身の経験を披露しながら、「今日、世界最強国家である米国が、このエルサレムに大使館を作ったのだ」と興奮気味に叫んだ。

    • 米大使館移転の歓迎レセプションに参加するイバンカ大統領補佐官(右端)と夫のクシュナー大統領上級顧問(右から2人目)ら。左端がイスラエルのネタニヤフ首相(5月13日、エルサレムで)=金子靖志撮影
      米大使館移転の歓迎レセプションに参加するイバンカ大統領補佐官(右端)と夫のクシュナー大統領上級顧問(右から2人目)ら。左端がイスラエルのネタニヤフ首相(5月13日、エルサレムで)=金子靖志撮影

     式典には、開館セレモニーのテープカットに参加した大統領の長女イバンカ大統領補佐官をはじめ、正統派ユダヤ教徒の夫で中東和平を担当するクシュナー大統領上級顧問らトランプ政権の要人が顔をそろえたほか、米国内で影響力を持つキリスト教福音派の牧師2人も特別に招かれ、開閉会の祝祷(しゅくとう)を行った。招待された80か国以上の駐イスラエル大使のうち、エルサレムを首都と認めていない欧州諸国や日本を含む半数以上が欠席しただけに、式典は米イスラエル「ユダヤ・キリスト教連合」による“エルサレム祝典”の色合いが一層際立った。

    2018年05月22日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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