トランプ流「福音派ファースト」が招く中東危機

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中間選挙控え、福音派支持固めが狙い

 トランプ氏がエルサレムへ大使館を移転した背景には、キリスト教福音派の大きな存在がある。

 米人口の4分の1を占め、その8割が2016年の大統領選でトランプ氏に投票したとされる米国最大宗派の福音派。聖書の記述を「神の言葉」(福音)として信じ、イスラエル建国もその実現であるとして、米国の親イスラエル政策を「宗教上の義務」と考える傾向があるとされる。今年11月に中間選挙を控え、さらに20年の大統領選で再選を目指すトランプ氏が大使館移転の公約実現に固執したのは、ユダヤロビーやユダヤ系富豪の支持や資金確保とあいまって、やはり自らの「地盤」である福音派の支持固めのためと見られている。

 エルサレム祝典と同じ日、ワシントンのイスラエル大使館で行われた建国70年祝賀式典では、熱心な福音派信徒であるペンス副大統領が熱弁を振るった。

 「私がユダヤ国家にとって史上最も偉大な擁護者だと信じるトランプ大統領は、ダビデ王から今に至るエルサレムの不滅の歴史にその名前を刻んだ」。そう言ってペンス氏は、大使館移転の意義を仰々しく強調した上で、「我々はイスラエルと共に立つ。イスラエルの大義、価値観、戦いは我々の大義、価値観、戦いだからだ」と連呼した。

 米大使館がエルサレムに居を構えた2018年5月14日は、イスラエル建国以来、最高潮に達した米国とイスラエルの「蜜月」と「一体化」を象徴する日として記憶されるだろう。

ガザで怒り爆発、流血の惨事で60人死亡

ガザで、イスラエル軍の発砲による負傷者を運ぶパレスチナ側のデモ参加者ら(5月14日)=AP
ガザで、イスラエル軍の発砲による負傷者を運ぶパレスチナ側のデモ参加者ら(5月14日)=AP

 だが、その同じ日、祝賀ムードに包まれたエルサレムの米大使館から南西に約80キロ・メートル離れたパレスチナ自治区ガザでは、あまりにも対照的な惨劇が繰り広げられた。大使館移転に抗議するパレスチナ人のデモが4万人にふくれあがり、その一部はイスラエルとの境界線にあるフェンスに殺到。これにイスラエル軍が実弾やゴム弾、催涙弾で対抗し、14日だけで乳児や子供を含む少なくとも60人が死亡、約2800人が負傷したのだ。

 ガザでのデモは3月30日から続いていた。ガザ地区を実効支配し、武装闘争路線を堅持するイスラム主義組織ハマスもデモを「平和的抗議行動」として支持していた。そもそもは、イスラエル建国翌日の1948年5月15日、第1次中東戦争の勃発で約70万人が土地を追われ、難民となったパレスチナ人の帰還を求めるものだ。だが、今年はイスラエル建国70年と米大使館移転が5月14日に重なったことに加え、翌15日は、多数の人々が難民となってパレスチナ人が「ナクバ」(大破局、大惨事)と呼ぶ日から70年に当たり、当初からデモの規模拡大は予想されてはいた。それが、イスラエル軍の強硬な実弾による鎮圧行動で人的被害が予想を超えて甚大なものとなった。

 14日のデモ現場は、大混乱だったようだ。

 現地からの映像では、燃やされた古タイヤが黒煙を上げる中、パレスチナ人の若者たちがイスラエル軍側に、石を投げたり、火焔瓶を付けた(たこ)を飛ばしたりしているのが見て取れた。一方で、その彼らがイスラエル軍から応戦され、昼の礼拝で聖地メッカに向け地面にひれ伏すムスリム信徒たちの背中の列の上を飛び越えて逃げ回る異様な光景も見られた。イスラエル軍報道官は多数の死傷者が出たことについて、「境界フェンスに対して、かつてないレベルの暴力が向けられた。群衆の中に爆発物を持ったテロ部隊やイスラエルへの侵入を図るハマス兵士が混じっていた」と主張し、イスラエル軍の対応を「自衛のための正当な措置」と弁明した。

 報道官発言の真否は検証できないが、少なくとも、現場のイスラエル軍兵士が脅威を感じるほどにパレスチナ人たちが猛烈な勢いで境界に向けて押し寄せたことを物語る。そうでなければ、発砲の説明はつかない。

 約200万人の人口を抱えながら、2007年のハマスによる実権掌握以来、イスラエルと隣国エジプトによる封鎖が続き、「天井なき牢獄」と言われ、経済的な困窮にあえぐガザ。政治状況を見ても、和平強硬派のネタニヤフ首相に相対すべきパレスチナ政治指導者は、ヨルダン川西岸の自治政府とガザのハマスに分かれ、一体的な行動を取れないままで、パレスチナ国家樹立による「2国家解決」の道は遠のくばかり。そして今、本来、和平交渉の誠実な仲介者であるはずの米国にトランプ政権が誕生し、エルサレムを首都と認めて米大使館を移転させ、東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家樹立を目指すパレスチナ側の主張を完全に無視した――。そんな終わりの見えない絶望的な状況の中で、外の世界を知らないガザの若者たちの激情が、節目の日のデモで(せき)を切ったかのように爆発し、封鎖の「壁」であるフェンスに向けられたことは想像に難くない。

 イスラエル軍の過剰対応は国際的非難を浴びている。だが、パレスチナ人の憤怒の行動と、そこに脅威を感じたイスラエル軍の激しい応戦という「負の連鎖」の契機を作ったという意味で、トランプ政権も糾弾されるべきだろう。

 ホワイトハウスは、<首相府や議会などイスラエル政治の中枢が置かれて久しいエルサレムが同国の首都であるという現実を認めることがイスラエル・パレスチナ和平への必要な条件であり、米国は今後も公正で包括的な和平達成に深く関与する>と主張する。ただ、この考えは欧州も含め国際社会の理解を得られていない。

 中東でシーア派イランが影響力を強める中、共通の敵であるイランに対してイスラエルと戦略的な共闘関係を構築しつつあるとされるスンニ派のアラブ諸国にしても、事がメッカ、メディナに次ぐイスラム教第3の聖地であるエルサレムをめぐる問題で、さらにムスリム同胞が多数死傷したとなれば、イスラエルを非難せざるを得ない。

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22694 0 深読み 2018/05/22 05:20:00 2018/05/22 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180521-OYT8I50080-T.jpg?type=thumbnail

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