トランプ流「福音派ファースト」が招く中東危機

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「自政権・支持層ファースト」の外交戦略

中東政策でも「米国第一主義」を貫くトランプ大統領(ロイター)
中東政策でも「米国第一主義」を貫くトランプ大統領(ロイター)

 直接には、前述したように、公約は必ず守る実行力のある大統領であることを示し、米国内の福音派の支持を固めるためだ。しかし、より原則論的に言えば、トランプ政権は、中東地域の安定や復興、平和構築に超大国・米国がどう関与していくかという観点を決定的に欠いていると指摘できる。そして、もっぱら米国第一主義、より正確には「自政権・支持層」第一主義の立場から、中東での施策を、その影響や反作用、過去の経緯や国際的な共通認識などを深慮せずに、その場その場の損得勘定に即して打ち出しているということだろう。

 これは、トランプ政権の外交戦略全般にほぼ共通する。まして、この政権は発足当初から、大統領選へのロシア介入疑惑という重い足かせをはめられることを余儀なくされ、モラー特別検察官の捜査も進んでいる。必然的に外交も、政策より政権本位にならざるを得ないのだ。

 結局、こうした行動原理から導かれる中東での「政策」は、自分の政権を支え、次の選挙に勝つために必要なキリスト教福音派の支持層を固め、ユダヤ系ロビーや支援者を確保するには何が最善か――という判断を最優先することになる。それゆえ、現実に展開される政策は当然、親イスラエル路線であり、イスラエルの宿敵で米国の仇敵(きゅうてき)でもあるイランを敵視し、米国とイスラエル共通の脅威であるイスラム過激派テロを撲滅するということになっていく。その結実が今回の大使館移転であり、5月8日に行われたイラン核合意からの一方的な離脱表明なのだ。

危険すぎる「親イスラエル・反イラン」一辺倒

 しかし、この親イスラエル・反イラン一辺倒のトランプ流中東政策は、あまりに危険と言わざるを得ない。

 イランが核開発を15年にわたり制限する見返りに、経済制裁を解除した核合意(包括的共同行動計画)は、オバマ前政権時代の2015年7月、米英仏露中に独を加えた6か国がイランと結んだ国際合意で、国連安保理も承認している。さらには、国際原子力機関(IAEA)もイランの合意順守を認めていたにもかかわらず、トランプ大統領は<イランの核兵器製造への道を閉ざしておらず、イランを中東でのさばらせただけの『最悪の合意』だ>と決めつけ、欧州同盟国の懸命の説得もはねつけて一方的に離脱を表明し、経済制裁の再発動を命じた。

 トランプ政権による核合意離脱は、オバマ前政権のイラン関与政策を否定することにほかならない。それはまた、イランをナチと同一視し、合意の破棄を一貫して求めてきたイスラエルに同調し、シーア派イランとの勢力圏争いに血道を上げるサウジアラビアの意向とも軌を一にするものだ。トランプ政権の決定を支持した主要国も、この2国だけだ。

 イスラエルはトランプ氏が合意離脱を表明した前後から、シリアのアサド政権支援のために同国内に駐留するイラン部隊の拠点を標的に空爆を強化している。これに対して、ゴラン高原のイスラエル軍拠点に対するロケット弾攻撃などイラン側からの限定的な報復行動も伝えられており、核合意で一度は避けられたはずの「イラン・イスラエル直接戦争」が現実味を帯びてきている。

 仮にそうした最悪の事態になれば、トランプ政権もイスラエル側に立って軍事介入せざるを得なくなり、中東は未曽有の大戦乱に陥ることになる。この動きにスンニ派の盟主であるサウジアラビアが呼応すれば、中東全体を巻き込む宗派戦争になろう。

 これまで見てきたように中東の現状は、トランプ政権の核合意離脱で高まった緊迫状況に、エルサレムへの米大使館移転、ガザでの衝突という新たな大きな火種が加わり、より危険なものとなった。今後、パレスチナ人の犠牲者が増え、その報復によってイスラエル側にも犠牲が出れば、流血の連鎖というかつての悪循環に逆戻りする恐れもある。

 米国やイスラエルを標的としたイスラム過激派のテロも懸念される。大使館移転前日の13日には、国際テロ組織アル・カーイダ指導者のアイマン・ザワヒリ容疑者が、トランプ大統領は「現代十字軍の真の顔を露呈した」と糾弾し、イスラム教徒に対米ジハード(聖戦)を呼びかけるビデオメッセージを流したことが確認されている。

 負のスパイラルが止まらず、「火薬庫」化が進む中東――。今や世界で孤立化の道を突き進むようにも見えてきたトランプ政権にとって、中東が最大の「負のレガシー(遺産)」になる可能性は否定できない。

プロフィル
岡本 道郎( おかもと・みちろう
 読売新聞調査研究本部主任研究員。国際部、政治部記者、テヘラン、カイロ、ワシントン各特派員。中東イスラム世界、米国をウォッチしながら、世界と日本について考え続けている。著書に『ブッシュvsフセイン』(中公新書ラクレ)。

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