フェイクニュース信じ「安政の大獄」…操られた直弼
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平清盛、石田三成、そして明智光秀。近年のNHK大河ドラマは、悪役、敵 役として名を残した人物の再評価を定番としている。にもかかわらず、現在放送中の『西郷どん』で幕末の大老・井伊直弼 は徹底的に悪者として描かれ、「いい直弼」の顔を見せぬまま死んでしまった。史実をたどると、そのワケと「影の分身」の存在が見えてくる。
最後まで消された「いい直弼」像

NHK大河ドラマ『西郷どん』の第20回目(5月27日放送)で、佐野史郎さん演じる江戸幕府の大老・井伊
直弼が指揮した安政の大獄は死罪8人、遠島・追放・蟄居閉門などの処分者は100人以上にのぼる江戸時代最大の政治弾圧だったから、悪役となるのは仕方ない。だが、ドラマの中で直弼は、西郷吉之助(隆盛)(1828~77)の寝返りを誘い、13代将軍徳川家定(1824~58)の遺言をねじ曲げ、次期将軍候補の一橋
これまでの大河ドラマには、日本の未来を見据えて開国を決断し、批判にも信念を曲げずに幕府に忠誠を尽くす「いい直弼」像がどこかにあった。なぜ『西郷どん』は“定石”を取り入れなかったのか。
それは幕末の動乱を描く対立軸を、これまでの定石だった「開国か
賄賂、接待、怪文書…国難そっちのけの“仁義なき戦い”

幕末の動乱は1858年(安政5年)、朝廷が日米修好通商条約の締結を事前に了承(勅許)しなかったあたりから本格化する。だが、当事者たちが実際に条約勅許問題に割いたエネルギーは決して大きくなかった。条約を軽視していたわけではなく、外国人が大嫌いな孝明天皇(1831~67)が条約を了承するわけがないと思っていたからだ。
朝廷を説得するため入京した幕府の交渉団は、江戸から3万両の賄賂を持参したとされるが、天皇は先手を打って関白の九条尚忠(1798~1871)に「今回の条約は大変重要なので、関東からの賄賂は受け取らず、安易に言い分を受け入れないよう」とクギを刺していた。それでも一部の公家は賄賂を懐に入れたが、条約締結には反対し続けた。
朝廷工作の主眼は早々に家定の後継問題へと移り、慶喜を推す一橋派と紀州藩の徳川
賄賂や接待、密書、密告、怪文書が飛び交う朝廷工作は一橋派が優勢だったが、主膳は一発逆転の手を打つ。一橋派がばらまいた怪文書を利用して、ありもしない陰謀話をでっち上げたのだ。