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    社会

    日大・危険タックル問題はなぜ「大炎上」したか

    コミュニケーション・ストラテジスト 岡本純子
     日本のアメリカンフットボールの競技人口は約2万人。数百万人規模とされる野球やサッカーには遠く及ばず、試合がテレビ中継される機会も多くない。にもかかわらず、日大アメフト部の選手による危険タックルはスポーツの枠を超えて社会問題となり、大学そのものをも揺るがす事態にまで発展した。なぜ、ここまで話は大きくなったのか。企業などへの情報戦略アドバイスを専門とするコミュニケーション・ストラテジストの岡本純子さんが解説する。

    「炎上」要素を全て備えていた日大問題

    • 危険タックルをめぐる記者会見で頭を下げる日大アメフト部の内田正人前監督(手前)と井上奨前コーチ(5月23日)
      危険タックルをめぐる記者会見で頭を下げる日大アメフト部の内田正人前監督(手前)と井上奨前コーチ(5月23日)

     史上最悪レベルの危機管理事例として、歴史に名を残すことになった日本大学アメリカンフットボール部の危険タックル問題。発端となった事案そのものは、学生による試合中の反則であり、被害に遭った選手は幸い大事に至らずに済んだ。戦後、最も多くの食中毒被害者を出した雪印乳業や、長年の不適切会計で会社の名声を地に落とした東芝などのケースと比べれば、実際に被害を受けた人の数ははるかに少なく、直接的な影響範囲も限定的なはずだった。このレベルの事案がここまで多くの人々の感情を揺さぶるのは極めて異例だ。なぜ、これほどまでに国民の怒りをかき立てたのだろうか。

     モノを燃やすには「点火源」と「可燃物」、「空気」(酸素)の3つの要素が必要とされる。つまり、マッチの火などの「点火源」に、紙などの「可燃物」、そこに「酸素」があれば、燃焼するということだ。さらに、ガソリンなどの「燃料」が加われば、いっそう勢いよく燃え上がる。今回の事案には、これらすべてが備わっていた。すなわち、悪質な反則と、その映像という「点火源」、巨大組織・日大という「可燃物」、その日大のお粗末な危機管理対応という「燃料」、そして、世の中の「空気」だ。選手の反則プレーで火のついたボヤが、枯草だらけの野原で、次々とガソリンを投下され、空気を送り込まれて、まるで燎原(りょうげん)の炎のように燃え広がっていった。

    引火しやすい「体育会」体質

    • 危険タックルについて「私からの指示ではない」と話した内田前監督(右)。井上前コーチも相手選手を負傷させる意図はなかったと釈明した
      危険タックルについて「私からの指示ではない」と話した内田前監督(右)。井上前コーチも相手選手を負傷させる意図はなかったと釈明した

     もちろん反則プレーそのものは、悪質なものではあったが、ほかの3つの「延焼要因」がなければ、ここまで批判を集めることにはならなかっただろう。

     一つ一つ見ていこう。まず一つ目が、日大の「可燃」体質だ。上層部の言動が体現したのは、体育会的なヒエラルキーに基づくきわめて封建的、前時代的な価値観だった。そこに巣食ったのが、絶望的に言語不明瞭な「コミュニケーション不全文化」である。

     反則した選手の証言などによれば、「監督→コーチ→選手」への命令・指示というシャンパンタワーのような一方通行の「上意下達」「絶対服従」の風土の中で、監督と選手の間でまっとうな対話がなされた形跡はない。「恐怖」「恫喝(どうかつ)」「威圧」で選手を支配するスポ魂手法はパワハラにも通じるものだ。「闘志が足りない」「思い切って行け」「必死にやれ」といったように、それ自体は意味を成さず、具体的な行動の喚起に結びつくことのないスパルタ的抽象語を多用するのもこうした組織の特徴だ。そこに共感や思いやりと言った「潤い」は見られない。乾いた枯れ草のように、意思疎通を欠いた人の集まりは、瞬く間に有事の“炎”に()み込まれていった。

     大量生産、安定雇用の「工業化社会」から、先の見通しが立たない「知識基盤社会」への移行を前提に、教育現場には今、変革の波が押し寄せている。すなわち、「1人の強力なリーダーと多数のフォロワー」から「個々人がリーダーシップを発揮」する集団へ、「同一文化の中での暗黙の理解」から「異文化の中での多様性の許容」へと、価値観の大胆な転換が求められている。そんな中で、「絶対権力者とその追従者」たちが、「画一的な環境における暗黙知」に基づいて物事を決めているように見える日大のやり方は、完全に時代から取り残されていると言わざるを得ない。今回の事案によって、そうした時代遅れの教育姿勢を続ける日大アメフト部の体質が白日の下にさらされたのである。

    2018年06月20日 12時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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