「異界」描いた岩波文庫、ベストセラーの「怪」

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 約200年前の 天狗(てんぐ) の世界や少年の生まれ変わりを記録した岩波文庫『仙境異聞・勝五郎再生記聞』が、異例の売れ行きを見せている。ツイッターの書き込みをきっかけにして、今年2月、約6年ぶりに“復刊”したところ、ブレイク。3か月の間に約1万2000部を増刷し、現在10刷、累計3万部に達している。著者は江戸時代後期の国学者・平田 篤胤(あつたね) だが、なぜ今、この文庫本が注目されているのか。

浅草観音堂の前に現れた「天狗小僧」

手描きの天狗の絵と宣伝文の帯を付けた『仙境異聞・勝五郎再生記聞』
手描きの天狗の絵と宣伝文の帯を付けた『仙境異聞・勝五郎再生記聞』

 明治維新の約50年前、文政3年(1820年)の3月、浅草観音堂(浅草寺本堂)の前に、不思議な少年が現れた。天狗の世界で修行してきたと話す15歳の少年で、名前を寅吉(とらきち)といった。

 寅吉は、江戸下谷七軒町の越中屋与惣次郎の次男として生まれた。寅吉によると、天狗と初めて出会ったのは7歳のときだった。東叡山(寛永寺がある上野の山)へ遊びに行き、五条天神のあたりを見ていたとき、旅装束をした50歳ぐらいの丸薬売りの老人がいた。老人は、持っていた小さな(つぼ)の中に片足を踏み入れたとたん、壺の中に体が吸い込まれた。壺は大空に飛びあがり、どこへ行ったのかわからなくなった。

 寅吉が、その後また五条天神に行ってみると、老人の方から声をかけてきた。「お前は(ぼく)(ぜい)(占い)のことが知りたいんだろ。それが知りたければこの壺に入って自分とともに行こう。教えてやる」と誘われ、その気になった瞬間、ある山の頂にいた。その山とは、常陸国の南台丈(なんたいだけ)という山だった、という。

 その後、寅吉は、岩間山(愛宕(あたご)山)など天狗の住む筑波山周辺の山と江戸を往来しながら修行を重ね、祈りやまじないの方法、薬や武器の製法などさまざまな術を身に付けた。師匠の大天狗とともに、空を飛んで太陽の近くに行ったり、日本から400里(約1600キロ)ほど東の海上にある女ばかりの国・女島に行ったりもした、という。

 「天狗小僧」と呼ばれた寅吉は、博学な随筆家として知られる山崎美成(よししげ)に見いだされ、山崎の自宅に身を寄せていた。これを知った平田篤胤の親友で幕府の右筆(文書係)を務める屋代(やしろ)弘賢(ひろかた)が篤胤を誘って山崎の自宅を訪れ、篤胤が寅吉を半ば強引に自宅へと連れ帰った。自宅に居候していた寅吉から篤胤らが聞き取り、まとめた記録がこの『仙境異聞』である。

 本居宣長らとともに「国学の四大人」とも呼ばれた大学者・平田篤胤(1776~1843)の著作の中では異色であり、荒唐無稽とも言える天狗少年の記録だが、それが今、なぜ注目されるようになったのか。

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33608 0 深読み 2018/07/24 05:20:00 2018/07/24 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180723-OYT8I50012-T.jpg?type=thumbnail

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