“受難”再び…地図から消された「あの2県」

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官軍側の大藩、なのに…鳥取の屈辱

 徳島県は他県を併合したりされたりしたが、鳥取県は一方的に島根県に呑み込まれた。島根県令代理の布告で併合を知らされた鳥取県民は「誰一人として信ずることはできない位であった。特に因幡人士の驚愕は言語に絶した」(『鳥取県郷土史』)という。

 「風俗人情が異なる」だけではない。鳥取藩は因幡・伯耆32万石、約38万人の人口を持つ山陰の大藩だったが、松江藩は18万6000石で人口は約30万人。鳥取藩は鳥羽伏見の戦いでいち早く官軍に加わり、あいまいな態度をとった松江藩が新政府に追及された際に寛大な措置を求めている。鳥取県民にとっては「維新の当時、我が藩の尽力によって救われた松江に併合される事は、この上もない屈辱」(同)だった。

 特に松江から遠い県東部の因幡には士族が多く、不満は大きかった。県都でなくなった鳥取の町は「火が消えた如く」さびれ、禄を失った士族が新たな職に就くことも難しくなった。

 士族らは他地方への米の移送を止める強硬手段に出て鳥取県の復活を求めた。治安は悪化し、鳥取に来た島根県令代理が襲撃を恐れて早々と帰途につき、倉吉で泊まろうとしたが誰も宿を貸さず、徹夜で松江に逃げ帰ったという記録もある。


県復活へ、山県有朋を動かした熱意

 徳島県が高知県から独立したことも士族らを勢いづけ、島根県側からも鳥取県の分離を求める声が高まった。度重なる陳情を受け、参議だった山県有朋(1838~1922)の一行が鳥取・島根を視察することになった。

 山県に随行した官僚らは「一部の士族の要求に応じていたらきりがなくなる」とそろって鳥取県の復活に反対し、伯耆を島根県に残して因幡は東隣の兵庫県に併合するよう進言した。だが、山県は「復活を求める有志には開化や自治の精神がある」とこれを一蹴したという。

山県有朋
山県有朋

 県西部の伯耆では因幡への反発が強く、米子や倉吉では鳥取県の復活に反対する運動も起きていた。だが、山県は士族の熱意と活力を信じたのだろう。尊王攘夷(じょうい)派の志士だった山県は、因幡士族に幕末に暴れ回った自分の姿を見たのかもしれない。

 伊藤と山県はプロイセン(ドイツ)の中央集権体制を手本とし、政党政治や自由民権運動を嫌った。しかし、2人が地方自治の意義を認め、民衆の声に耳を傾けたことも間違いない。

 徳島県と鳥取県の再置を見た他県でも分県運動が広がり、福井、富山、宮崎、佐賀、奈良の各県が復活した。徳島県から分離した後、愛媛県に併合されていた香川県が1888年(明治21年)に復活し、沖縄と北海道を除く今の都道府県の原型が確定した。

鳥取・島根の因縁…9月の自民総裁選にも

 「明治の行政区の再編と今の参院の選挙区を一緒にするな」という方もいるだろう。だが、人口で規模をそろえ「格差」をなくす考え方は同じだし、地方ごとにある「風俗人情」の違いは、今でも国政に影響する。

 9月の自民党総裁選では3選をめざす安倍首相に対し、参院竹下派が石破茂元幹事長を推すという。「参院のドン」青木幹雄氏と竹下派会長の竹下亘氏の地元はいずれも島根県で、石破氏の地元は鳥取県。青木氏の息子の一彦氏は、前回の参院選では鳥取で石破氏の支援を受けて当選している。

 つけ加えれば、安倍首相は祖父が首相、石破氏の父は自治相・鳥取県知事。総裁選で両候補を推す派閥の長もみな世襲議員だ。首相も鹿児島で行った出馬表明で「薩長同盟」を口にしたくらいだから、自分は長州出身と意識しているのだろう。

 生まれながらに「風俗人情」などの地盤を持つ“殿様“が国の“殿様”を決める総裁選を、下級武士から首相になった伊藤と山県はどう見ているだろう。もっとも、2人とも長州閥があってこそ首相になり、長らく政界に君臨できたのだから、苦虫をかみつぶしているとは限らないが。


プロフィル
丸山 淳一(まるやま・じゅんいち)
 読売新聞東京本社経済部、論説委員、経済部長などを経て、熊本県民テレビ報道局長から読売新聞編集委員・BS日テレ「深層NEWS」キャスターに。経済部では金融、通商、自動車業界などを担当。東日本大震災と熊本地震で災害報道の最前線も経験した。1962年5月生まれ。小学5年生で大河ドラマ「国盗り物語」で高橋英樹さん演じる織田信長を見て大好きになり、城や寺社、古戦場巡りや歴史書を読みあさり続けている。

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39501 0 深読み 2018/08/31 13:20:00 2018/08/31 13:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180821-OYT8I50050-T.jpg?type=thumbnail

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