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    教育

    国語力が大事!スゴ腕外科医が求める新時代の医師像

    読売新聞教育ネットワーク事務局 小川祐二朗、土井毅
     医学部志望の高校生が大学病院の心臓手術などに立ち会う「早期医療体験プログラム」がこの夏も、東京と大阪で開かれた。異例の体験を通じて、生徒たちに医師としての自画像を描いてもらうのが目的だ。プログラムは「天皇陛下の執刀医」として知られる順天堂大学の天野篤教授が読売新聞東京本社とともに2015年から始めた。昨年からは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)による世界初の心臓病治療に挑む大阪大学の澤芳樹教授も生徒の受け入れを開始した。プログラムにかける両教授の熱い思いをインタビューでたどる。(聞き手・読売新聞教育ネットワーク事務局 小川祐二朗、土井毅)

    「天皇の執刀医」が高校生に伝えたいこと

    • 天野篤・順天堂大学教授…「天皇陛下の執刀医」として知られる。手掛けた手術は通算8000例以上。2016年から同大医学部附属順天堂医院院長を務める。62歳
      天野篤・順天堂大学教授…「天皇陛下の執刀医」として知られる。手掛けた手術は通算8000例以上。2016年から同大医学部附属順天堂医院院長を務める。62歳

     Q:プロジェクトはどういう思いで始めたのでしょう?

     天野教授(以下、敬称略):今の医療はプライマリー・ケア※の部分が非常に強調されます。けれども、実際の医療現場では、先進医療※が特に高齢者などに対して行われています。その実態は医学部の学生にもなかなか教えづらいところがあって、この領域で活躍しようという志は、医学部の非常にタイトなカリキュラムの中では形成していくのが難しいわけです。

     その一方で、今の医学部志望の高校生の志望動機を見てみると、9割近くが身の回りの医療体験がきっかけになっている。ということは、先進医療をはじめとする医療の最前線を早い段階から彼らに見せることも必要でないか。つまり、患者としての医療体験ではなく、医療従事者が実際に見ている医療導線の中での体験を早い段階でさせることも役立つのではないかと考えたわけです。そうすることで、「医師になるんだ」という生徒たちの志が形になってくるのではと思って、このプログラムを始めたんです。

     Q:医師になりたい高校生は18歳たらずで、将来の職業を医師と決めて医学部入試に臨まなくてはいけません。他学部の学生とは異なるところですが、この点もプログラムの背景にはあるのでしょうか。

     天野:そう。試験の準備もそうですし、将来の職業に対する心構えも、早い段階から作ってほしい。もうひとつ、高校2~3年生ぐらいの時に、「医師になるんだ」という強い気持ちで勉強してほしいわけです。加えて、大学入学後は授業がきついのですが、リベラル・アーツ(一般教養)の授業も少しありますから、きちんと身につけてもらいたいですね。このプログラムは「社会人として通用する医師にならなくてはいけないよ」ということを教える場にもしているのです。

     

     プライマリー・ケア(Primary care)=国民のさまざまな病気や健康上の問題にかかりつけ医などが対応する初期診療。地域の保健医療福祉機能の基盤となることが期待されている。

     先進医療=保険診療としてはまだ認められていないが、安全性や有効性がある程度確認された新たな医療技術や治療法のこと。公的医療保険制度では、保険診療と保険がきかない自由診療を組み合わせる「混合診療」を原則禁止しているが、先進医療については例外的に混合診療が認められている。

    医師に求められる資質が変わった

     Q:昔から、数学・理科がよくできるから医学部を受験する生徒が多いと言われますが、こうした「受験エリート」に必ずしも医師の資質があるわけではないという話も聞きます。

     天野:いや実はですね、2000年以降、社会に定着してきた医療安全※という考え方であるとか、エビデンス・ベースド・メディスン※という考え方を反映して、今は国語力がものすごく大事になっています。

     Q:医者に国語力が求められているとは初耳です。

     天野:医師に求められる資質は、変わってきたと思うんですね。特に「医療安全」の考え方が強くなってきたから、医師は物事の論理的な展開を自分の言葉で文章にするということができないと、患者さんへの説明が難しくなってきた。患者さん側も今やインターネットの普及で医療情報は豊富ですから、従来のような説明の仕方では信頼が得られないわけです。つまり、言葉巧みに診療を誘導したり、自分の側に有利な説明をしたりといったことはできない時代になっています。

     これからの医師は文章を自分の言葉で作れて、かつ数学的・論理的な考え方と、外国とも交渉していける国際能力・語学力が問われる。物理・化学・生物については、それらのプラス・アルファという考え方。高校の先生方はまだ、こういった医療界の変化をご存じないので、プログラムではこの点も伝えていきたいと考えています。

     

     医療安全=医療事故・紛争を未然に防ぐため、医療事故事例やヒヤリ・ハット事例の収集・分析など国が行った一連の対応策。1999年の手術患者取り違え事故や消毒液の誤投与などが契機になった。

     エビデンス・ベースド・メディスン(Evidence based medicine)=臨床試験などで明らかになった科学的証拠(エビデンス)に基づく医療。

    2018年09月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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