文字サイズ
    国際

    トランプ政権揺るがす「暴露本」の破壊力

    読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀
     米国で最も信頼されるジャーナリストの一人、ボブ・ウッドワード氏が、トランプ政権の内幕を描いた著書『恐怖(FEAR)』が9月11日に米国で刊行されてから約半月。数多くの政権高官とのインタビューなどを基にして執筆されたこの本の波紋は広がり、トランプ氏の支持率は一部の世論調査で下がり始めた。本書の内容を詳しく紹介するとともに、「異例ずくめ」を自認するトランプ政権のこれまでの歩みを改めて振り返る。

    「米国が貿易赤字相手国を守る意味ない」

    • ニューヨークの書店に並んだボブ・ウッドワード氏の新著『恐怖(FEAR)』(ロイター)
      ニューヨークの書店に並んだボブ・ウッドワード氏の新著『恐怖(FEAR)』(ロイター)

     『FEAR』は1972年、ニクソン大統領を後に辞任に追い込むことになる「ウォーターゲート事件」の歴史的な大スクープを放ったワシントン・ポスト紙の看板記者の手になる力作だ。

     357ページにわたる本文の記述は、トランプ氏が2010年、後に大統領選での勝利の立役者となる右派の政治活動家スティーブン・バノン氏と出会うところから始まり、2017年1月の大統領就任を経て今年春までの間、トランプ政権の主要政策の背景をほぼ時系列で描いている。

     本稿では以下、事実関係の検証には立ち入らず、『FEAR』に書かれた記述のみに基づいて、トランプ氏の言動や政権内部の動きを追いかけいく(人物の肩書は、当時)。

     『FEAR』で繰り返し描かれているのが、政策や政府の役割についての基本的な知識を欠いたトランプ氏が、勝手な思い込みで物事を決めようとし、しかも何かを学習しようという意欲がないことを示す場面だ。

     トランプ氏の選挙スローガンは「米国第一」だが、実際にトランプ氏は、「貿易で米国が赤字を抱えている国を守るために、米軍を駐留させるのはバカげた話だ」と思い込んでいる。この強い思いが、同盟関係や集団安全保障体制をないがしろにしていく。

     トランプ氏が特に“敵視”するのは在韓米軍の存在で、2012年に発効した米韓自由貿易協定(FTA)からの離脱と在韓米軍の撤退を求め続ける。

     例えば、2017年3月、米韓FTAからの離脱を急ぐよう指示する大統領に、マティス国防長官ら政府高官がこぞって「北朝鮮情勢が緊迫する中、韓国との関係を緊張させることは、あらゆる意味で好ましくない」と進言した。だが、トランプ氏は「彼ら(韓国)が我々に守ってほしいと思っているなら、それこそディール(取引)の好機だ。テコを握るのは我々だ」と耳を貸そうとしなかった。

     一方でトランプ氏は、ダンフォード統合参謀本部議長に、対北朝鮮先制攻撃の新しい作戦計画を策定するよう求めている。これは、同年1月の大統領就任直後のことだ。

     大統領があまりに米国の外交政策を理解しようとしないことに危機感を強め、安保、経済政策に関与する側近らは同年7月、国防総省に大統領を連れ出し、一大会議を開き、大統領の思い込みを正そうと試みる。

     一番手で発言したマティス氏は「ルールに基づく民主主義を主軸とした国際秩序の大切さ」を説き、ティラーソン国務長官が「この秩序が過去70年間の平和を守ってきた」と続いた。さらにコーン国家経済会議(NEC)委員長は「メキシコ、カナダ、日本、欧州、韓国との自由貿易は本当に重要で、米国経済のためにもなっている」と説く。すると、トランプ氏は「そんなのはクソだ。聞きたくない」と逆上し、会議は険悪な雰囲気に包まれていく。

     結局、トランプ氏は「韓国に米兵を駐留させるために米国は35億ドルも支払っている。なんであそこに駐留させているのか、まったくわからない。全員、即刻撤退させろ」との捨てぜりふを残して席を立つ。

     この会議の終了後、ティラーソン氏が思わず本音を漏らしている。「(トランプ氏は)低能(moron)だ」――後にティラーソン氏が国務長官を辞任する引き金になったとされる発言だ。

    2018年09月27日 12時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP