タイトル100期か無冠か、羽生が越えねばならぬ壁

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広瀬八段…周囲をほっこりさせた自虐コメント

今年2月、朝日杯将棋オープン戦の決勝戦の終局後、優勝した藤井聡太五段(当時、右)とともに対局を振り返る広瀬八段。ユーモラスなコメントが会場をなごませた
今年2月、朝日杯将棋オープン戦の決勝戦の終局後、優勝した藤井聡太五段(当時、右)とともに対局を振り返る広瀬八段。ユーモラスなコメントが会場をなごませた

 広瀬は1987年生まれで、永世竜王と永世棋王の資格を持つ渡辺明棋王の3歳下、佐藤天彦名人や中村太地王座の1歳上に当たる。竜王戦は1組、順位戦はA級と、いずれも最高クラスに所属。今期は竜王戦1組で優勝し、挑戦者決定三番勝負で深浦九段を破って、竜王戦初挑戦を決めた。

 タイトル戦に初めて登場したのは、2010年の第51期王位戦七番勝負で、23歳の時だった。挑戦者決定戦では、公式戦初手合いながら羽生に勝ち、七番勝負は深浦王位(当時)を4勝2敗で破った。原動力になったのは、当時は少数派だった四間飛車穴熊(攻撃の主力である飛車を左から4番目の筋に移動させ、穴熊と呼ばれる堅陣で戦う)という戦法だ。爽やかな青年の快進撃に「振り穴王子」のニックネームがついた。

 だが、タイトル保持者となればマークされ、対戦相手の四間飛車穴熊の対策が進む。翌年、挑戦者に名乗りをあげたのは羽生。フルセットの末に、広瀬を下した。

 これ以降、広瀬の将棋は変わった。四間飛車穴熊の採用はめっきり減り、多くのトップ棋士と同じように相居飛車(双方が飛車をそのままの位置で戦う)の最新形を主戦場にしている。15年の第56期王位戦で羽生王位(当時)に挑戦した時は、すでにスタイルを変更していたが、羽生の緩急自在な指し回しの前に1勝4敗で涙をのんだ。

 広瀬のタイトル戦登場は、その時の王位戦以来、4回目となる。王位戦は、竜王戦と同じ2日制、持ち時間8時間で行われているので、長丁場の対局には慣れているはずだ。初戦からいつも通りの力を発揮してくるだろう。

 広瀬は早稲田大学教育学部理学科を卒業した経歴を持つ。人柄は穏やか。今年2月、藤井聡太五段(当時)が第11回朝日杯将棋オープン戦で優勝、全棋士参加の棋戦で最年少優勝記録(15歳6か月)を塗り替えて話題となったが、その決勝戦の相手が広瀬だった。

 世間が注目する中、藤井聡は得意の角換わり(序盤で大駒の角を交換し、お互いに角を手持ちにして戦う)から守りの薄い広瀬の玉を寄せきることに成功する。終局後、大勢のファンの前で一局を振り返った広瀬は、「王様(広瀬八段の王将)がひとりぼっちですからね。藤井さんを応援している皆さんと、ひとりぼっちの……ふふ」

 盤上の攻防で広瀬の王様が孤立無援の状態になったことと、会場に詰めかけたファンの多くが藤井聡の記録達成を期待していて自分がひとりぼっちのように感じたことを表現した自虐的なコメントに場内は沸き、横でマイクを持っていた藤井聡も控えめに笑っていた。

勝率7割超、勢いに乗る広瀬

タイトル通算100期の偉業に挑む羽生
タイトル通算100期の偉業に挑む羽生

 これまでの両者の対戦成績は、羽生15勝、広瀬8勝。羽生が9連勝と圧倒したこともあったが、直近は広瀬が2連勝している。今年8月の王将戦は相居飛車の力戦、9月の棋王戦は角換わりの最新形になった。

 4月からの今年度成績は、羽生が14勝14敗(勝率0.500)、広瀬が18勝5敗(同0.783)。トップ棋士となると予選はシードが多く、当たる相手も格上や若手強豪が多くなる。そうした条件にもかかわらず広瀬が勝率7割を超えているのは驚異的で、8月18日からは公式戦9連勝と勢いを増している。

 だが、昨年の羽生は竜王戦七番勝負開幕直前に王位、王座を失冠しても、シリーズは緩急自在な指し回しで渡辺を圧倒した。今期も七番勝負に向けてコンディションを整えてくるに違いない。

 七番勝負の戦型は、ともに居飛車党なので相居飛車の最新形が最有力。ポイントになるのが後手番の時の作戦だ。将棋のタイトル戦は、基本的に第1局の先後を振り駒で決定し、以降は1局ごとに先手と後手を入れ替えながら戦い、最終局では改めて振り駒が行われることになっている。先手と後手では、先手のほうが主導権を握りやすいため、先手の勝率がやや高い。

 羽生は現在、後手番4連勝中ながら、先の名人戦と棋聖戦の番勝負で、後手番は5戦全敗だった。もし最新形で後手に自信を持てなければ、先の棋聖戦で見せたように袖飛車(飛車を右から3番目の筋に移動させて戦う。あまり実戦例はない)の変化球、または広瀬が熟知していない古風な作戦を投入するかもしれない。広瀬もかつての十八番であった四間飛車穴熊をリバイバル採用し、羽生の研究をはずす可能性がある。

 羽生がタイトル獲得100期を達成するのか。それとも広瀬が竜王を奪取して2期目のタイトルを獲得し、羽生が1991年以来27年ぶりの無冠になるのか。注目の七番勝負第1局は10月11、12日に東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で行われる。

 

プロフィル
小島 渉(こじま・わたる)
 将棋ライター。1988年4月生まれ。中学1年の時から将棋を始めた。故・升田幸三実力制第四代名人の「将棋とは我慢」の言葉に感銘を受けてのめり込み、故・米長邦雄永世棋聖の『米長の将棋』を読んで強くなる。2012年春から将棋ライターとして活動を始める。現在は、公益社団法人・日本将棋連盟のインターネット中継を担当し、予選やタイトル戦の模様をインターネットで配信中。また、NHK杯将棋トーナメントや朝日杯将棋オープン戦などの観戦記を執筆している。

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44200 0 深読み 2018/10/01 16:16:00 2018/10/01 16:16:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181001-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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