トイレ先進国・日本 23億の“トイレ難民”救え!

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トイレのため遅刻するカメルーンの女子学生

 JICAの担当者・八木令子さんに、首都にあるヤウンデ第一大学のトイレの写真を見せてもらった。

 まったくもって目を覆いたくなるような状態で、普通の日本人ならば、使うどころか、足を踏み入れることさえ躊躇(ちゅうちょ)してしまうだろう。同大でも、特に女子学生は長時間トイレを我慢したり、トイレのために遅刻・早退したりすることが恒常化していた。

日本の技術で、カメルーンの首都ヤウンデ市内に設置された公共トイレ(TMTジャパン提供)
日本の技術で、カメルーンの首都ヤウンデ市内に設置された公共トイレ(TMTジャパン提供)

 こうした惨状の改革に、大分県の中小企業3社による合同会社TMTジャパンが乗り出した。JICAなどの支援を受けて2016年、カメルーンに進出した。

 TMTのトイレ「バイオミカレット」は木片チップを中に敷いて大小便の水分を吸収し、さらに攪拌(かくはん)して酸素を取り込むことで、排せつ物を水と二酸化炭素などに分解する。余分な水分は、攪拌層の下にある貯留槽に自動的に移るため、下水道が未整備でも利用可能だ。使用できる回数は1日あたり40回。水や()み取りが不要で、中のチップの交換は1~2年に1度で済む。

 TMTはバイオミカレットを市内とヤウンデ第一大学に各8台の計16台を実験的に設置するとともに、トイレを管理する人の育成も担う。汚れるにまかせず、長く使えるようにするには、管理人の存在が不可欠だからだ。

水洗トイレの普及、64年の東京五輪が転換点

 トイレ先進国となり、きれいなトイレが当たり前となった日本でも、一昔前までは、「公共のトイレは汚く、臭く、よほどの非常時でなければ使いたくない」というイメージがあった。日本のトイレはどのように改善されていったのだろうか。

 トイレ文化を研究している日本トイレ協会の高橋志保彦会長は、「『恥の文化』がある日本では、古くから排せつ時の音や臭いを気にし、これが逆に便所へのこだわりにつながった」と見る。このこだわりがトイレ技術を磨く土壌になったと言える。

 日本で浄化槽や下水道の整備が進み始めたのは1920年代になってから。さらに水洗トイレの普及が本格化するのは、第2次世界大戦を経た60年代以降で、特に64年の東京五輪が一つの転換点となった。今や「これなしでは生活できない」と言う人も多い、お尻を洗浄するタイプのトイレは、TOTOがこの年、初めて米国から輸入している。元々は、戦争などで負傷し、自分でお尻をふけない人のために開発されたものだという。

 ちなみに2010年には、「トイレをきれいにすると美人になる」と話してくれた祖母の思い出を歌った曲「トイレの神様」が大ヒットした。日本の神話にも、「はにやまひめ」など2人の「トイレの女神」が出てくるという。

 神の()まうトイレはきれいにしなくてはならない――。自分や家族、あるいは江戸時代の長屋で一般的だった共同便所のように、誰が利用しているかがわかるような場所では、後で使う人に配慮して、なるべくきれいにすることが求められた。一方で、利用者が不特定多数になると、汚れるに任せて当然という傾向もあった。

 「汚い」が通り相場だった日本の公共トイレがきれいになったのは案外遅く、世紀の変わり目あたりからのようだ。高橋さんは、「不思議なもので、一度きれいが当たり前になると、使う人のお行儀も俄然(がぜん)良くなり、きれいが継続する」と話す。

 2020年の東京五輪を前に、日本のトイレは一層、進化する。多くの外国人観光客にとって玄関口となる成田空港では、昨年から約50億円をかけて各ターミナルのトイレを改修中だ。特に到着ロビーには最新鋭型を導入し、日本の技術力を誇示する予定だ。

 そんな日本でも、「きれいが当たり前」が定着するには長い時間がかかった。途上国のトイレ改革を後押しする上では、技術的なサポートのみならず、相手国の文化や歴史にも目配りした、息の長い支援が求められる。

※この記事は、2018年10月発行の「読売クオータリー2018秋号」に掲載の論文を再編集しました。調査研究本部のオピニオン誌「読売クオータリー」のページはこちら

プロフィル
大内 佐紀( おおうち・さき
 読売新聞調査研究本部主任研究員。1986年入社。主に国際報道に携わり、ワシントン、ジュネーブ、ロンドン各特派員。英字紙ジャパン・ニューズ編集長、編集局次長などを経て2017年6月から現職。

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