憲法制定のナゾに迫る…発掘された元外交官の証言録

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証言2:「芦田修正案にGHQは余り異議をさしはさまなかった」

日本国憲法の原本と9条部分(左)
日本国憲法の原本と9条部分(左)

 自衛隊の前身である警察予備隊が、GHQのマッカーサー元帥の命により急きょ設置されたのは、憲法公布から3年9か月を経た1950年8月だった。ところがGHQは、これに先立つ46年、それも憲法が公布される前の時点で、日本の自衛力の保持をすでに認めようとしていたのではないか――そんなことをうかがわせるくだりも、藤崎証言にはある。

 あらためて現行憲法の第9条を見てみよう。

第9条

〈1〉日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

〈2〉前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 2項の冒頭にある「前項の目的を達するため」の文言は46年7月29日、帝国憲法改正小委員会の芦田均委員長(後に首相)が、憲法をめぐる審議を行っていた帝国議会で主張して加えられたものだ。

 この追記は、後年物議を醸すことになる。読みようによっては、「1項は国際紛争解決手段としての戦争、つまり侵略戦争を否定したもので、自衛のための戦争は許容する趣旨だ。従って戦力保持に関しても、1項が許容する自衛権のためならば、認められる」とも解釈できるからだ。いわゆる「芦田修正論」問題である。

 議論の火種を抱える修正については、厳密な戦力不保持を求める側から「待った」がかかってもおかしくない。ところが、GHQはこの加筆をあっさりと認めたというのだ。

 「第九条、戦争放棄の条文、これは衆議院の芦田さんがやっておられた憲法小委員会で第一項に目的を示し、そうして第二項を『前項の目的を達するため、』ということで起したのであります。これについては司令部側は修正案を出しましたときにそれは当然のことだということで別に余り異議をさしはさまなかったのであります」

 では、なぜGHQは、こうした解釈拡大の余地がある表現を入れることをすんなり認めたのだろう。

 46年2月初めにGHQが憲法草案を起草した時点では、マッカーサー元帥は自衛戦争すらも否定していた。ところが後にGHQ内では、「それは現実的ではない」という意見が急速に勢いを増し、自衛戦争を認め、自衛のための実力組織を持つことを許容する声が強まったと見られるのだ。

 「芦田修正が行われたころには、GHQでは日本の自衛軍保持を容認する雰囲気になっていた。藤崎証言は、こうした事情を裏付けるものだ」。西さんはそう解説する。

 この芦田修正に敏感に反応したのが、極東委員会だった。前述したように連合国による対日占領管理の最高機関である極東委員会は、文民条項の導入をめぐって攻勢に出る。

 西さんの研究によれば、芦田修正を受けて極東委員会は、「日本軍が復活するのではないか」と考え、第66条2項の文民条項「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」を加えることを、GHQに強硬に主張。GHQもこれを受け入れたことが判明している。

 時の日本政府は、軍隊は金輪際持たないものと思い込んでいた。終戦の年に日本軍が解体された日本に「軍人」はおらず、「文民」以外は存在していなかった。こうした中で、極東委員会が固執した文民条項。藤崎氏は、極東委員会の要求について、次のように証言している。

 「ワシントンからの命令だからこの憲法でこういう条文を入れるのは意味をなさないと思うけれどもとにかく入れてくれということで入れたのです」

 終戦翌年の46年当時、日本国内は平和ムードと厭戦(えんせん)気分に満ちていた。だが同じ時期、すでに米国やソ連、中国など国際社会は日本の再軍備を想定し、それに対する備えまで議論していたことになる。

 日本政府は、極東委員会での大国間のやり取りは知らされなかったから、文民条項が必要とされる真の理由を理解せぬまま、受け入れた。もし、こうした国際社会の議論を早くから日本政府も理解していれば、戦後の自衛隊をめぐる不毛な神学論争も、少しは現実的なものになっていたのではないか――。藤崎証言を読むと、そう思わずにはいられない。

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