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履くか、履かないか。一つのシューズが、マラソンや駅伝などの陸上長距離界に旋風を巻き起こしている。このシューズを履いた選手が各地の大会で次々と好記録をたたき出したことから、“魔法のシューズ”との声まで出始めた。来年正月の箱根駅伝、3月の東京マラソンといった大会では、例年以上に選手の足元に注目が集まりそうだ。このシューズの秘密はどこにあるのか。スポーツライターの酒井政人さんに寄稿してもらった。
世界各地で旋風、ナイキの厚底

マラソン界に革命をもたらしているのは、ナイキの厚底シューズ「ズーム ヴェイパーフライ 4%」だ。昨年12月の福岡国際で大迫
この現象は日本だけでなく、世界各地で起きている。男子でいえば、昨年4月のボストンで1~3位を独占するなど、メジャーレースでナイキの厚底シューズを履く選手の活躍が目立つようになった。クライマックスは今年9月のベルリンだ。エリウド・キプチョゲ(ケニア)が従来の世界記録を1分18秒も短縮する2時間1分39秒という驚異的なタイムをたたき出している。
発想の転換、薄底から厚底へ
「ズーム ヴェイパーフライ 4%」は、従来のレース用シューズとはコンセプトが異なる。これまでは、トレーニングを積んだ上級者ほどソール(靴底)の薄いシューズを選ぶという流れがあった。特に日本人ランナーの頭の中には「薄底軽量」こそが、速く走るための武器だと刷り込まれていたように思う。
一方、「ズーム ヴェイパーフライ 4%」は世界記録保持者となったキプチョゲらから、「クッショニングがしっかり装備されているシューズがほしい」という要請を受けて開発が始まった。
ケニアやエチオピアの選手たちは、主に未舗装の道でトレーニングを積んでおり、路面の硬いロード(アスファルト)を嫌う傾向がある。フルマラソンを2時間3~4分台で走る世界トップクラスの選手でも、30キロメートル以降は脚に大きなダメージを負うことがわかり、クッション性を重視しつつも、反発力があり、推進力を発揮できる“新発想”のシューズが生まれた。