ドローン、「学校」乱立であらわになった弊害
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ドローンの操縦方法などを教えるドローンスクールが急増している。
講習内容や講習時間などが一定の要件を満たすとして、国土交通省航空局が公表している「講習団体」は、2020年4月時点で全国で735団体にのぼる。初公表した2017年の43団体からわずか3年間で17倍に急増した。
増えるドローン操縦士の需要
ドローンスクールが急増している要因は、ドローンの利用拡大によって操縦士の需要も増えるとみられていることだ。
ドローンは2010年台半ばに空撮用のホビー商品として国内でブームになった後、2017年ごろから産業分野での活用に注目が集まった。近年はインフラや構造物の点検、農薬散布や精密農業、物流、災害調査など幅広い分野での実証実験が行われ、一部では実用化も始まっている。
インプレス総合研究所によると、機体販売やドローンを活用したサービスなど、国内のドローンビジネス市場は2019年度の1409億円から2025年度には6427億円と急拡大が見込まれている。経済産業省は2022年度までに、高い安全性の確保が必要になる都市部での目視外飛行を行うことを目標に、技術開発と運航ルールなどの検討を進めている。
現在、ドローンの操縦に関する免許制度は存在せず、ドローン関連の企業や研究者、大学などでつくる「日本UAS産業振興協議会」(JUIDA)などいくつかの民間団体が、ドローンの操縦技能の独自証明書である「ドローン操縦士資格」を発行している。国土交通省は2017年4月から、一定の要件を満たすドローンスクールを「講習団体」として、またそれらに指導・監督などを行うJUIDAなどの団体を「管理団体」として公開し、講習の受講を奨励している。
講習団体が発行する操縦士資格を得ると、ドローンを飛行させるたびに必要な飛行許可・承認手続きが簡略化されるほか、企業に自分の飛行技術を証明しやすいメリットがある。2017年以前の資格取得者は趣味の空撮や映像関係の仕事を持つ人に限られていたが、現在は建設やIT、コンサルティングなど仕事として使いたい人に広がっている。
その一方で、ドローンスクールの乱立による弊害が生まれている。ドローン活用のコンサルティングを行うドローン・ジャパンの春原久徳会長は「ドローンスクールは、ドローンを飛ばせる講師と飛ばす場所さえあれば事業ができ、参入障壁が低い」と話す。そのため、スクールの質は玉石混淆になりがちだという。
多いのは、2~4日間で受講料20万~40万円程度というコースだ。航空法などの講習と飛行訓練がセットになっているが、飛行訓練の場所や講習1回あたりの指導人数などにばらつきがある。
あるドローンスクールの管理団体の経営者は、「空間の限られた体育館の中で10時間飛ばすのか、風のある屋外で数百メートル先のドローンを操縦するのかで必要な能力は異なるが、受講者は区別できていない」と話す。
ドローン学校を出ても仕事がない
神奈川県内に住む元自動車整備士の男性は、体調不良で会社を早期退職。「ドローン操縦士が足りていない」というドローンスクールの広告を見て、ドローン関係の仕事をしてみたいという思いから申し込んだのが始まりだ。
男性は、講習と屋内での飛行訓練のコースを受講して認定資格を取得。ドローンも購入し、講習料と合計で80万円近くを支払った。しかし、新たに始めたドローンによる測量では、風のある、高い高度飛行の経験が必要になり、屋外で飛行訓練を行う別のドローンスクールに通い直した。追加のスクール授業料に約30万円かかったという。
だが、この男性のようにスクールを卒業しても容易に仕事を得られるわけではない。ドローンの産業利用が注目されて以降、スクール受講生の目的は趣味から業務用へ変化したが、前出の春原氏は「2017年以降、ドローンスクールを出ても仕事がないという状況になっている」と指摘する。
空撮や農業の分野では従来からドローンを使う仕事は存在した。しかし、点検や物流などの分野では2019年まで実証実験としての利用が中心で、収益を継続的にもたらすような仕事はわずかだ。ある講習団体の運営者は「もっと早くドローンの実用化が進むと思っていたが、大手企業がドローンへの投資を足踏みしている」と漏らす。
ドローンを積極的に活用したい企業からは、操縦士が不足しているという声もあがる。ドローンスクールが急増しているのにもかかわらず、操縦士が不足しているのは、ドローンスクールが育てる人材と企業が求める人材の間にギャップがあるからだ。
「企業が求めるのは、より正確に安くデータをとることだ。ドローンはそのための道具にすぎず、他の手段がある場合もある」(春原氏)。ドローン操縦士に求められるのは、安全にドローンを飛ばすことだけではなく、ドローンを活用したソリューションの提供に役立つことだ。
そのためには、飛行計画や機体トラブル時の対応に加え、用途に合わせた専門知識も必要だ。例えば、インフラ点検にドローンを使う場合、カメラなどを使って正確にデータを取る能力や、取得したデータをレポートにまとめる能力が求められる。
「操縦ライセンス制度」もスタート
一方、多くのドローンスクールは基本的な飛行訓練に終始しており、ドローンを使ったサービスを提供している企業の関係者は「ドローンスクールの出身者にそのまま仕事を依頼することはできない。自社で実用的なOJTを行い、ドローンの操縦士を育成している」と話す。
国交省は2022年に、学科や実技試験によって操縦者の技能を審査する「操縦ライセンス制度」を自動車免許のような国家資格として創設する予定だ。それと同時に民間の講習団体に対して厳格な指導監督を行うことも検討している。だが、用途ごとに必要とされる能力が異なるのに、どの程度まで資格の対象を細分化するのかは今後の検討課題だ。
ドローンは今後、本格的に実際の運用の段階に入っていく。ドローンの自動航行技術の普及も期待されているが、操縦できる人材は不可欠だと見られている。市場で求められる人材の育成に向けて、ドローンスクールのあり方が変わっていく必要がありそうだ。