自動運転ついに解禁、事故の責任は誰がとる?

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日本では4月からレベル3の自動運転が法的に解禁された(写真:マハロ/PIXTA)

世間が新型コロナウィルスの話で持ちきりだった4月1日、重要な意味を持つ改正道路交通法が国内で施行された。システムが運転を担う「自動運転」の実現に対応したもので、今回の改正でレベル3の自動運転が法的に解禁されたことになる。

自動運転関連で新たに加えられた主な条文は以下のようなものだ。

【第七十一条の四の二の2】
自動運行装置を備えている自動車の運転者が当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転する場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、当該運転者については、第七十一条第五号の五の規定(※前方注意義務、編集部注)は、適用しない。
(一) 当該自動車が整備不良車両に該当しないこと。
(二) 当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること。
(三) 当該運転者が、前二号のいずれかに該当しなくなった場合において、直ちに、そのことを認知するとともに、当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること。

自動運転中のスマホ操作は罰せず

一番のポイントは、自動運転中の前方注意義務が免除されている点だ。昨年12月の道路交通法改正で一般車両運転中のスマホ操作など(ながら運転)に対する罰則が大幅に強化されたが、自動運転車両の自動運転中には、そうした行為をしても罰せられない。ただ、安全運転義務は免除されておらず、寝るなどの行為は認められていない。

ここで気になるのが、自動運転中に事故が起きたときの責任だ。道路交通法はあくまでも行政上の責任(免許取り消し・停止など)を定めた法律だが、刑事責任(罰金や禁固・懲役など)や損害賠償などの民事責任の判断においても、道路交通法を順守していたかどうかが大きな判断基準になる。

今回の改正道路交通法施行によって、自動運転中の事故責任はどう解釈されるのか。自動運転関係の法律に詳しい明治大学自動運転社会総合研究所の中山幸二教授に聞いた。

――今回の改正道路交通法を見ると、自動運転中の前方注意義務は免除された一方で、安全運転配慮義務は課されています。事故時の刑事責任はどう判断されることになるのでしょうか。

自動車事故の場合の刑事責任で主なものは、自動運転過失致死傷(懲役七年以下、または罰金100万円以下)や危険運転致死傷(懲役15年以下または罰金100万円以下)など刑法上(自動車運転処罰法含む)決まっているものがある。

中山幸二(なかやま・こうじ)/明治大学法科大学院専任教授。2004年から現職。 経済産業省「自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究」有識者会議・顧問。主に民事訴訟法の観点から自動運転に関わる法整備に向けた活動を行っている(写真:明治大学)

いずれの場合でも、刑事責任の場合は運転手に過失、つまりミスや不注意がないと運転手の責任が問われることはない。この過失の判断に道路交通法を守っていたかが大きく関わってくる。安全運転義務が残った意味を私なりに考えると、整備不良への対応や、レベル3ならではの自動運転システムから(ドライバーへの)の運転引き継ぎに備えさせるためのものだろう。
 
つまり、整備不良、自動運転ソフトのアップデートをしていなかった、居眠りをしていたなどの場合には自動運転中でも運転手の過失が認められる可能性が高い。他には走っている途中に異音がしたのに放置した場合などが当てはまるだろう。逆に言えば、そうした条件に該当しない場合には責任を問われる可能性は極めて低いと考えられる。

レベル3特有の問題

――自動運転ならでは、の問題はありますか。

自動運転というよりも、レベル3ならではの問題がある。一部の研究者は「レベル3とは自動運転機能の使用中はレベル4の完全な自動運転、その先(自動運転機能を解除してドライバー自身が運転している時)はレベル2の普通の車。だからレベル3の概念は必要ない」という人もいる。だが、実際はそれほど単純ではない。

今回解禁されたレベル3は、自動運転機能の機能限界(設計上決まった走行条件外のとき)になれば、人間が運転を代わる必要がある。現実問題としてドライバーが瞬時に運転を引き継ぐのは難しく、その準備に必要な時間を考えると、引継ぎまで10秒はないと厳しいというのが一般的な認識になっている。

10秒といえば高速道路ならかなりの距離を進む。この間に事故が起きたら誰が責任を負うのか曖昧だ。運転手はすぐに運転を代われる状態で待機している必要があり、すぐに対応できずに事故が起きた場合には、運転手が責任を問われる可能性があるとみている。

――運転手に過失がない場合は、車を造った自動車メーカーの責任に?

そうではない。まず、法人は刑事罰の対象ではないので、実質的には社長や開発担当者などが対象になる。だが、品質に問題があった、というだけでは難しい。

過去の事例を挙げると、三菱ふそうのトラックでタイヤ事故が起きた時、メーカーの人間に刑事責任が問われた。不具合そのものではなく、リコール隠しを理由に関係者が刑事責任を負った。複数の同種の事故が起きているのに放置した責任を問われたわけで、そうした明確な過失や故意がなければ、刑事責任は問えない。

さらにいうなら、自動運転に使われる電子工学の分野にはバグが付き物だ。バグには再現ができないものもある。そうした再現不能なバグによって事故が起きた場合、メーカー、運転手含めて誰にも過失がないことになる。ほかの法律でも起こることだが、刑事責任を誰も問われない、という状況が起こることもありうる。

テスラの自動運転機能使用中に事故

――メーカーの責任を問うような議論はないのですか。

動きはある。実は3月31日に横浜地裁で、日本国内でテスラの自動運転機能使用中に居眠りをして事故を起こした事件の判決が出た。今回はあくまで運転支援機能付きの車で自動運転車ではないが、事故を起こした運転手側は「眠気を起こすような設計をしたテスラ側に責任がある」として無罪を主張した。裁判所は執行猶予付きの有罪判決を下したものの、運転手の主張も一応、論理としては成り立っている。これは重要な論点だ。

アメリカでも似たような事例があり、アメリカの事故調査委員会も問題視している。人間は自動運転機能が快適なほど油断する。設計上、集中を切らさないようにする必要がある。メーカーにこうした責任を求める動きが今後強まってくるだろう。

――民事責任は何が違うのですか。

対人についてはもともと自賠法という法律がある。被害者の救済をすぐに行うために、運行供用者に過失、つまり不注意やミスがなくても賠償の責任を負わせている。運行供用者とは自動車の運行を支配し、運行からの利益を得ている者のこと。一般的には所有者を指す。

この法律を適用すると、自動運転使用中だった場合、所有者が一旦は保険などを使って支払いをする。その後、車に欠陥があれば所有者や保険会社などが自動車メーカーに支払いを求める流れになるだろう。政府の有識者会議もこの方向だ。

対物については自賠法が適用されない。なので、刑事責任とほぼ同じ判断になるだろう。立証の責任を負うのが被害者側になるのでハードルが高い。ドイツなどでは自賠法に似た法律で対物事故までカバーしている。日本でも検討する必要がある。

完全自動運転時代にはAIを罰する?

――今回の改正道路交通法が想定している自動運転はレベル3ですが、いずれは完全な自動運転車が登場します。

今はあくまで過渡期。完全な自動運転になる際には新しい制度が必要だと考える。実際、刑法学会ではAIの処罰についても議論が出ている。今後機械学習が進み、発売後にも車が自ら学んで自動運転を進化させていくようになるだろう。そうなれば、その車が起こす事故はメーカーの責任とも言いがたい。

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現状、アメリカなどではプログラムを消したり車を破壊したりすることがAIに対する刑事罰になる、との意見などが出ている。被害者感情を落ち着かせるための報復的な刑罰の考え方だ。この考え方はやや乱暴で私は反対。再発防止の観点から見ると意味がない。

とはいえ、議論は必要。今後はこうした法律の新しい形についての議論が盛んになってくるだろう。

無断転載禁止
1214728 0 東洋経済オンライン 2020/05/14 14:26:02 2020/05/14 14:26:02

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