通勤電車、いまこそ「有料座席」を増発すべきだ

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京王電鉄はクロスシートに転換できる「5000系」車両で有料座席指定の「京王ライナー」を運用している(筆者撮影)

JR東日本が9月3日、来年春のダイヤ改正で終電時刻の繰り上げなどを行うと発表した。新型コロナウイルス流行による利用者の行動様式の変化により、とくに深夜時間帯の利用が大きく減少していること、夜間の保守作業体制改善の2点を理由として挙げている。

終電繰り上げのニュースはこれが初めてではなく、8月26日にはJR西日本が同様の理由で、来年春のダイヤ改正で近畿エリアの主要線区を対象に、10分から30分程度終電を繰り上げるとしている。

飛行機やバスのような減便ではなく、終電繰り上げとしたのは、駅や線路などのインフラも鉄道事業者が保有するという独特の体制であることが大きいだろう。たとえ減便しても始発と終発が同時刻であれば、駅の営業時間は変わらない。しかし終電を早めるのであれば、多少の削減が期待できる。

鉄道の利用状況が大きく変化

JR東日本は、感染収束後も利用者の行動様式は元に戻ることはないと考えている。テレワークが定着すると見ているのだろう。たしかに親しい知人が勤める会社も、テレワークが一般的になったことを受けて来年度からオフィスの縮小を決めたという。

都心で働く人が減れば、勤め帰りに飲食店などに向かい、帰宅が深夜になる人が減るのは当然だ。長時間マスクをつけずに狭い場所で飲食するのは感染が心配と思う人もいるだろうし、会社側から飲み会禁止令を出しているところもあるはずだ。

こうした状況を見てJR東日本は、落ち込みの大きい終電付近の運行休止、つまり終電繰り上げを行うことで、収入減によるダメージを抑えようと判断したのかもしれないが、筆者はそれ以外にも収益改善の手法はあると考えている。その1つとして注目しているのが有料座席のいわゆる「通勤ライナー」だ。

通勤ライナーの定義にはいろいろあるが、本記事では通勤客向けとはいえ特急料金を支払う特急列車は除外することにする。

JR各社では国鉄時代から特急型車両の間合い運用として「ホームライナー」が続々登場していたが、1986年に運行開始したJR東日本「湘南ライナー」では、特急列車と普通列車の双方に使うことを想定した185系を起用。首都圏における通勤ライナーの代表格になった。

JR以外の首都圏の鉄道事業者では、1992年から京浜急行電鉄が運行を開始した「京急ウィング号」がパイオニアとなる。ただし車両は2ドアクロスシートの2000形や2100形に限定しており、湘南ライナーに近い位置付けである。

一方2008年に東武鉄道東上線に登場した「TJライナー」は、4ドアの通勤用車両50000型をベースに、ロングシートとクロスシートを切り替えできるデュアルシートを備えた50090型を起用し、TJライナー以外では特別料金不要のロングシートとして走らせた。

車両運用の効率化が図れ、きめ細かいサービスが提供でき、収益性向上も期待できるデュアルシートは、とりわけ首都圏の鉄道事業者に影響を与えた。

西武や京王にも登場

西武鉄道では新設計の40000系を使った「S-TRAIN」を2017年に導入。池袋線から西武有楽町線を経由して東京メトロなどに乗り入れている。同じ40000系は翌年には新宿線系統の「拝島ライナー」での運用も始まった。

拝島ライナーが走り始めた2018年には、京王電鉄が同社初の座席指定列車でもある「京王ライナー」を、専用設計の5000系とともに導入した。

1両だけオレンジ色の外観が目を引く東急電鉄の「Qシート」車両(筆者撮影)

S-TRAIN・京王ライナーともに休日は観光列車として、通勤列車では乗り入れない西武秩父や元町・中華街、高尾山口駅に乗り入れており、東武50090型はクロスシートのまま料金不要の「川越特急」としても走っている。

JR東日本普通列車グリーン車のように、列車の一部を座席指定のクロスシートとした事例もある。首都圏では東急電鉄が大井町線・田園都市線直通の急行列車にデュアルシート車両を1両組み込み、2018年12月から平日夜に大井町駅を発車する一部の急行長津田行きで有料座席指定サービス「Qシート」を始めた。

コロナ禍での感染防止という観点から言えば、転換クロスシートはもちろんデュアルシートでも、一部分を除き進行方向を向いて着席し移動するので安全性が高い。しかも利用者が減少しているので、乗車定員の少ない車両を入れても、混雑がひどくなるなどのデメリットは生まれにくい。ウィズコロナの時代に合ったサービスだと思っている。

このうちいくつかの鉄道事業者は、コロナ禍に対応して運用の修正を行っている。その中でも目立つのが京王電鉄の京王ライナーだ。

京王ライナーは、平日は新宿―京王八王子および橋本間の運行で、新宿―府中・京王永山間は無停車、以西は特急停車駅と同等とし、遠距離通勤者に快適な通勤を提供している。料金は410円均一で、ウェブあるいは駅の券売機で購入する。

休日は新宿と高尾山口を結ぶ観光列車も運行している。朝の高尾山口行きは途中無停車で、夕方の新宿行きは平日同様、府中までは特急停車駅に停まり、そこから新宿までは無停車になる。料金はやはり410円だ。

京王は朝時間帯に増発

ダイヤ改正を行ったのは平日のみで、6月1日から夕夜間の下り列車は0時台の2本を運休とし、京王八王子行き・橋本行きそれぞれ7本から6本に減便した一方で、朝は京王八王子発は5時台と8時台、橋本発は9時台の列車を増発し、合わせて3本増となっている。

京王ライナーに使用する5000系(筆者撮影)
ライナー使用時以外はロングシートで走らせる(筆者撮影)

京王電鉄広報部に話を聞くと、もちろん需要に合わせたもので、夜の減便はJRの終電繰り上げと同じ理由なのに対し、朝の増発はラッシュの混雑を避け着席通勤を望む利用者が多かったためであるといい、増発後も朝については座席がある程度埋まっているとのことだった。

京王ライナーに使われる5000系は現在は6編成が在籍しているが、このうち予備車を除く5編成すべてが稼働している状況だという。

京王電鉄全体での輸送人員は、5月は前年同月比で52.9%もの落ち込みを見せたが、6月は34.5%、7月は31.6%と回復基調にあり、朝だけ見ると緊急宣言後9割レベルまで回復したという。

筆者は先日、新宿18時発京王八王子行きの京王ライナー3号の状況を観察した。京王ライナーは全列車2番線から発車する。案内表示も多くわかりやすい。入線前はさほど並んでいなかったが、回送列車が到着してドアが開くと、乗客が次々に乗り込み、2人掛けの座席はほとんどが埋まった状態で発車していった。

京王電鉄以外では東武鉄道が積極的な姿勢を見せている。今年6月のダイヤ改正では、東上線のTJライナーに加えて伊勢崎線・東京メトロ日比谷線直通運転のTHライナーが予定どおり登場。伊勢崎線特急は朝の上りと夕夜間の下り列車が曳舟駅に停車し、特急アーバンパークライナーの増発やリバティりょうもうの運転区間拡大を行うなど、快適な通勤の提供に向けてさまざまなメニューを打ち出している。

「THライナー」で使用する東武70090型(筆者撮影)

東急電鉄は対照的な動きで、大井町線・田園都市線で平日夜に大井町駅を発車する一部の急行長津田行きで利用できる有料座席指定サービス「Qシート」を、4月27日から休止している。ただし翌月11日に発表した大井町線・田園都市線ダイヤ改正では、Qシートの提供本数を従来の2倍の10本に増やすとしており、再開後はサービスの充実が期待できる。

路線バスも運用に変化

路線バスでも各社が終バスの繰り上げや深夜バスの運休を行なっている。ここでも目立っているのは京王電鉄と同じグループに属する京王バスグループで、4月13日からターミナル駅と郊外を結ぶ深夜急行バスをすべて運休としている。

京王バスグループでは高速バスでも全便運休路線があるが、一方で一部運休にとどめている路線、全便運行の路線もある。都市部の深夜時間帯の移動が極端に減少していることがうかがえる。

京急電鉄の車両増結作業(編集部撮影)

鉄道に話を戻せば、深夜帯以外の時間帯は回復基調となっている。こうした中でいわゆる3密を避けるべく、たとえば京浜急行電鉄では、7月から朝ラッシュピーク時間帯後の快特上下各1本を8両から12両に増結するなどの対策を行っている。

しかし利用者が元に戻らない中での輸送力増強は、事業者にとって負担になる。その点通勤ライナーは座席指定料金を利用者から徴収できるので収入増につながり、利用者にとっては多少の出費はあるものの、通常の通勤電車に比べて密を避けた状態で座ったまま通勤できるという利点がある。

一部の会社では通勤ライナー料金を通勤手当として認めるところもあるという。感染防止対策費用として、多くの会社が通勤ライナー料金を手当てとして認めるようになれば、走らせる側にとっても乗る側にとっても好ましい状況になるだろう。

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1507914 0 東洋経済オンライン 2020/10/01 09:39:12 2020/10/01 09:39:12

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