コロナ禍の「自宅DIY」に立ちはだかる意外な壁
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新型コロナウイルスの感染拡大でステイホーム時間が増えて、住宅をメンテナンス・リフォームする需要が増えている。時間に余裕ができて自宅の修繕をDIYで行う人も多いだろう。筆者も古くなって水漏れするようになった自宅の洗面所水栓金具の交換にDIYで挑戦してみた。
作業時間は30分程度で済んだのだが、予想外に苦労したのが交換部品を調達することだった。住宅の点検・修繕では、設計図面や部材表などの「住宅履歴」の管理が重要だと言われるが、その必要性を実体験を通じて考えてみた。
水栓金具の交換部品がわからない
自宅の洗面所の水栓金具(シングルレバー混合栓)が水漏れするようになった。取り付けから20年以上が経過したので、耐用年数が過ぎたのだろう。昔ながらの構造が簡単な水栓であればシリコンパッキンなどを交換すれば水漏れなどを直すことができるが、混合栓は部品ごと交換するしかない。

過去にキッチンのシングルレバー混合栓と、風呂場のシャワー付き混合水栓の2つはホームセンターで新しい部品を購入して交換した経験がある。今回もホームセンターで交換部品を購入して自分で交換しようと思って出かけたが、類似した水栓金具が見つからない。
自宅の水栓金具は、排水口のフタを開閉するポップアップが付いているタイプ。売り場のスタッフに聞くと「ポップアップ棒を通す穴がある水栓金具は在庫を置いていないので取り寄せになる」というので、一度、帰宅して取替品を調べることにした。
新築引き渡しの時に、工務店から住宅に取り付けた設備機器や金物類の取扱説明書や保証書のファイルをもらっていたので引っ張り出した。
保証書には、TOTO製品の品番「TLP31型」と記載されていた。インターネットでTOTOのホームページを調べると、販売終了で1件もヒットせずにTOTO製洗面所用水栓金具のカタログが表示された。
しかし、いろいろな種類があって取替品としてどれを選べば良いのかがわからない。取扱説明書のウラに書いてあったお客様相談室に電話してみた。
オペレーターに品番を伝えて「水栓を交換したいので取替品を教えてほしい」と要件を伝えると「TLP31だけで60種類以上あるので枝番を教えてほしい」と聞かれた。
「保証書にも取扱説明書にもTLP31としか書かれていない。どうやって調べれば良いのか」と聞くと「混合栓の本体に書いてある」というので、改めて調べたが「TOTO」という文字しか確認できない。
「正式な品番が分からないと取替品をお調べできないので、専門業者を呼んで調べてもらってください」と言われたので驚いた。「品番を調べてもらうだけで専門業者は呼べませんよ。ネットで調べられる詳しい商品カタログはないんですか」と聞くと、少し待たされて「“コメット”で検索すると、専門業者向けのカタログサイトが出てきます」と言われ、電話を切った。
交換作業が困難だったワケ
建築専門家向けサイト「TOTO:COM-ET」はすぐに見つかった。このサイトでTLP31と入力すると、34件がヒットした。すべてが「販売終了」となっていて8割の商品に写真が付いていない。うち24件には取替品が表示されていたが、確かに枝番を含めた品番がわからないと、どの取替品を選べば良いのかがわからない。
自宅近くにある専門業者が利用している金物店に相談しに行くと、管工機材・空調関連資材の総合卸商社「ムサシノ機設」を紹介してくれた。スマホで水漏れした混合水栓の写真を撮り、保証書などの書類を持っていくと、親切な対応で取替品を探してくれた。翌日には新しい水栓金具を取り寄せ、無事にDIYで交換作業を終えることができた。
今回の経緯をTOTOの広報部に問い合わせると、次のことが判明した。
- ①正式な品番は水栓金具の見えるところにシールで貼り付けているが、20年以上経過していたのでシールが剥がれ落ちたと考えられる。
- ②部品の種類が非常に多いので、保証書・取扱説明書は兼用で、枝番ごとには作成しておらず、品番は保証書にも記載していない。
- ③お客様相談室では、品番がわからない旧型部品は写真を撮ってメールで送ってもらえば調べて回答するように対応している。
今回は何らかの手違いで③の対応がなかったため、TOTOの広報部からはお詫びの言葉があったが、実は筆者の方も重大なミスを犯していた。
新築引き渡し時に渡された竣工図面を調べてみると、設備機器・部品表に正式な品番「TLP31 AX#N1C」が明記されていたからだ。この品番でTOTO:COMETを検索すると、取替品「TLHG31AEFR」がヒットし、カタログ価格は3万4600円(税別)とわかった。
建材や設備機器の実勢価格は、カタログ価格とは大きな開きがあるのは建築業界の常識だ。ムサシノ機設からは35%引きの2万2490円で購入したが、品番さえ判ればネット通販でも簡単に調べられる。工業資材ネット通販最大手のMonotaRO(モノタロウ)では約2割引の2万8900円で売られていたが、Amazonでは何と約6割引の1万4400円だった(2020年10月15日調べ)。
竣工図面など「住宅履歴」管理の必要性
自動車には定期点検や車検制度があり、その履歴は整備手帳に残されていく。中古車の売買ではメンテナンス情報が反映されて査定が行われている。一方で、既存住宅では、木造戸建ての場合は約20年で価値がほぼゼロと査定されて売買されてきた。
こうした状況を打開しようと、国土交通省では2009年に長期優良住宅認定制度を創設し、性能用件のほか維持保全計画の策定を認定条件とした。さらに竣工図面、建築確認書類、点検・修繕などの住宅履歴情報を蓄積・活用する「いえかるて」制度の普及を図ってきた。自動車の定期点検と整備手帳に相当する仕組みを整えてきたわけだ。
過去10年間に認定された長期優良住宅は113万戸で、住宅ストック全体の2%に過ぎない。住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会が発行する「いえかるて」の共通IDは約12万件にとどまっている。
既存住宅の流通促進に向けて、2017年には安心R住宅制度(特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度)が導入され、点検・修繕の記録保管・開示が必須項目となっているが、安心R住宅の認定件数は2690件(2020年3月末)と低迷したままだ。
国交省では、2020年10月に既存住宅流通小委員会を立ち上げて、長期優良住宅と安心R住宅のテコ入れを検討しているが、制度ばかりを見直しても長年続いてきた商習慣を変えるのは簡単ではないだろう。
コロナ禍を契機に住宅への関心が高まるなか、所有者が住宅をきちんと管理・メンテナンスして、記録に残していく行動を定着させることが必要ではないだろうか。
長期優良住宅が導入された10年前に比べて、デジタルテクノロジーは飛躍的に進歩したが、住宅業界ではデジタル化の取り組みが大きく遅れていた。
ここに来て顧客とのコミュニケーションをスマホで行い、クラウド上に情報を蓄積できるアプリが登場。これまで面倒だった住宅履歴の管理が簡単にできる環境が整ってきている。
クラウド上に住宅情報を記録
住宅ITベンチャーのSOUSEI Technology(東京都港区)では、マイホームアプリ「knot(ノット)」を2017年から工務店やビルダー向けに提供。これまでに800社が導入して3万件以上の住宅が登録されている。
顧客と事業者とのやり取りや見積書、契約書、図面類や取扱説明書などがクラウド上に記録されて、住宅の引き渡し後も顧客はマイホームに関する情報をまとめて見ることができる。
「利用者が使いやすいようにスマホアプリの操作性の改善には力を入れている。最近では顧客管理ツールとして導入する企業が増えてきた」という。2021年には、knotに登録されている顧客が別の会社に修繕を依頼した場合でも情報を追加できる機能を加えるほか、住宅所有者が直接申し込んでknotを利用できるサービスも提供する予定だ。
世界で4000万人以上が利用する住宅コミュニティサイト「Houzz」の日本法人Houzz Japan(東京都港区)では、建築専門家向けに顧客とのコミュニケーションアプリ「Houzz Pro」日本語版を2020年11月にリリースした。
Houzz上でマッチングした顧客とのコミュニケーション履歴がクラウド上に記録され、見積・契約、図面などの情報も蓄積されていく。顧客からもこれらの情報を閲覧できる。
住宅のメンテナンスも、記録さえあればネットでさまざまな情報を調べることができるし、アプリやサイトを通じて施工会社や専門家に気楽に問い合わせることもできる。
最近も水道修理工事の高額請求問題がニュースになるなど、悪質業者のトラブルは後を絶たない。こうした問題を回避するためにも「住宅履歴」の管理は重要であり、引いては長期優良住宅や安心R住宅の普及にも寄与することが期待できる。