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「救いの神」の廃止が象徴する夜行列車の衰退

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185系快速「ムーンライトながら」(写真:Maxはやて / PIXTA)

年度末である3月は毎年、高速道路の新規区間開通のニュースが多く聞かれる時期である。2021年は、三陸道の未開通部分が大きく延伸されるなど、地域にとって重要な開業も含まれている。鉄道のほうも、年に一度の大規模なダイヤ改正がJR各社を中心に行われて、ニュースがにぎやかになる頃合いだ。

今年のダイヤ改正で注目されているのは、各社の終電時間の繰り上げ(首都圏ではすでに1月20日から、緊急事態宣言に合わせて先行して実施)であるが、鉄道ファンの間で大きな関心がもたれているのが、快速列車「ムーンライトながら」の運行停止、つまり廃止のニュースだ。

格安で東海道を移動する「救いの神」

東京駅と東海道線の大垣駅(岐阜県)を結ぶこの夜行列車は、すでに2009年時点で定時運行は終わっており、春休みや夏休みなどの臨時列車に格下げされているうえ、華々しい特急列車でもなく、なぜ関心が持たれているのかと不思議に思われる向きもあるかもしれない。

しかし、この列車は「青春18きっぷ」に代表されるような安い鉄道旅を指向する旅行者にとって、格安で東海道を移動できる、「救いの神」のような存在の特別な列車であった。

深夜、東京駅を出発したこの列車は早朝、大垣駅に着くと、特別料金の要らない快速列車や普通列車を乗り継ぐことで、その日のうちに山陽路から九州方面まで足を延ばすことができる。

「ムーンライトながら」大垣ゆきの方向幕(写真:たろうくん / PIXTA)

日単位で使う「青春18きっぷ」であれば、2000円少々にわずかの追加料金(日付が変わるまでの前日分の短い区間の運賃と指定席料金)で東京から九州まで移動できてしまうという、破格の節約旅を提供してくれていたのだ。

最盛期、全席指定ではなく自由席だったこともあり、この下り列車に席を確保するため、列車がホームに入線するはるか前から、東京駅に乗車のための行列ができるほどの人気であった。

JRが発表した「ムーンライトながら」廃止の理由には、「お客さまの行動様式の変化により列車の使命が薄れてきた……」とある。たしかに、新幹線網が全国に広がり航空路線も充実したうえ、LCCの台頭で運賃も下がっているなど、夜行列車のニーズが減っているのは間違いない。

しかし、人々が“夜間の移動”をしなくなったのかというと、そうではない。深夜、高速道路を疾走し、都市と都市を結ぶ夜行高速バスは「花盛り」といってよい盛況だ。

早朝5時半の東名高速道路、東京料金所。

私は以前、東名川崎インターチェンジ近くに住んでいて、徹夜明けで高速を使ってタクシーで帰宅する機会が数知れずあったが、そのおり上りの料金所付近を覗くと、中部・関西・中四国方面から走ってきた高速バスが数珠つなぎといってよいほどの密度で料金所を抜け、東京方面に出ていく様子に圧倒された記憶がある。

高速バスの時刻表をめくってみると、東名・新東名(一部中央道)を主に使う中部地方・西日本と東京を結ぶ夜行高速バスは、曜日限定の運行や季節運行もあって厳密に数えるのは難しいが、1日100便あまりに上る。

時刻表上は1便でも、乗客が多ければ追加でバスが増発されることもあるので、実際に走っているバスの台数はもっと多いだろう。

大きく向上した快適性と利便性

かつて夜行バスといえば、フルフラットで眠ることができる鉄道の寝台車と比べると「狭い」「寝られない」「疲れる」といったマイナスイメージが強かったが、「独立3列シート」「女性専用車」「深いリクライニングシート」に、半個室仕様の豪華車両も登場するなど進化を続け、若い女性1人でも気軽に利用できるようになった。

筆者の教え子である関西の女子大学生たちも、「東京ディズニーリゾートに行ってきました」と報告してくれた際に、「どんな乗り物で?」と尋ねると、かなりの割合で、「夜行バス」という答えが返ってくる。「ムーンライトながらで」という答えは決して聞くことはない。

奈良駅前を発車する東京行の夜行高速バス(筆者撮影)

目的地のバラエティの豊かさも、バスは鉄道の比ではない。東京からの関西便だけとっても、京田辺(京都府)、枚方、東大阪、和泉(以上、大阪府)、王寺、五條(以上、奈良県)などに直行で運んでくれる。鉄道であれば、2度以上乗り換えなくてはいけない都市へ乗り換えなしで行けるのも、夜行バスの強みである。

さらに、鉄道の深夜運行には保守作業への影響があるほか、乗降駅で駅員の対応も必要になるなど、多くのコストがかかる。一方、高速バスは、当たり前だが高速道路も一般道路も24時間いつでも走れるので、乗務員以外には人的なコスト、インフラへのコストはほとんどかからない。

高速バスは現在、すべてネットで予約できて、スマホで予約済の画面を見せれば乗車できるため、予約や乗車の簡便性も鉄道に勝っている。こうしたこともあって、バスでも安い会社や時期を選べば、東京・大阪間でも数千円で移動可能となるのだ。

夜行列車の衰退は、「お客さまの行動様式の変化」というよりも、「高速バスの利便性に負けて……」といったほうが実態に近いといえそうだ。

「ムーンライトながら」の廃止に限らず、そもそも現在、JRで定期的に運行されている夜行列車は、現在、東京駅を夜10時に出発し、高松と出雲市に向かう特急「サンライズ瀬戸・出雲」(岡山駅で2方向に分割)のみという衰退ぶりである。

しかも、優等列車ゆえ、10時ちょうどという覚えやすい時間に出発しているこの列車は、きたる3月の改正で、東京駅発が10分繰り上がり、9時50分発になる。長距離列車のステータスともいえるキリのよい「10時ちょうど発」を、新設される通勤者向けの短距離特急に譲るのである。

そういう意図ではないだろうが、夜行列車の地位の凋落ぶりを象徴するような時刻改正だ。

夜間の移動は「ほぼバスだけ」に

世界的に見ても、夜行列車は高速鉄道網の伸長や航空路線の発達で後退傾向にあるが、それでもアジアにせよヨーロッパにせよ、一定の存在感はある。

ヴェネツィア サンタ・ルチア駅の夜行寝台列車「セロ」(筆者撮影)

この写真は、3年ほど前にヴェネツィアの陸の玄関であるサンタ・ルチア駅で撮影した、ミラノ・パリへ向かう夜行列車であるが、ヨーロッパの国際長距離列車には、まだまだ夜行列車は珍しくない。

もちろん、夜行の高速バスも安く移動できる手段として欧米でも多数の路線が運行されている。例えば、パリからは老舗のユーロラインや近年路線網を伸ばしているフリックスなどがあり、ロンドン、マドリード、ベルリンなど欧州の主要都市には、たいてい夜行バスで行ける。

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こうしてみると、夜行便に関して鉄道とバスが役割分担により並立している各国の状況と、今春のダイヤ改正に象徴される夜行列車の一方的な退潮が顕著な日本の状況は、かなり異なっていると考えられる。

夜行列車に限らず、高速道路の伸長が昼間の都市間移動についても各地でJRの客を奪っている状況がみられるが、日本列島を夜移動して朝、遠く離れた都市で1日の活動を始めるという生活や旅のパターンを支える公共交通機関は、ほぼ夜行高速バスだけであることが、あらためて鮮明になった今春のダイヤ改正であった。

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1843080 0 東洋経済オンライン 2021/02/18 05:05:01 2021/02/18 05:05:01 2021/02/18 05:05:01

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