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家の前が線路、住民たちの「勝手踏切」が招く危険

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「勝手踏切」の危険を周知させるために設置されたバリカー(筆者撮影)

江ノ島電鉄で4月26日午前7時50分ごろ、自宅のゴミを集積場へ持っていくお手伝いをしていた小学生の女の子が、電車にはねられ意識不明の重体となる痛ましい事故が起きた。

現場は稲村ヶ崎駅―極楽寺駅間で、「勝手踏切」と呼ばれる軌道敷を渡って、集積場へ向かった帰りだった。多くのマスコミに取り上げられたので、ご記憶の方も多いだろう。

小学生の女の子が線路に立ち入って起きた事故であり、通常であれば過失は女の子にあると思われる。しかし江ノ電には、踏切なのかそうでないのか区別がつかない場所が非常に多く存在する。

禁じられた線路立ち入りが常態化

現在、日本の鉄道では高架化や地下化などによって、踏切(正式には踏切道)が減少している。それでも都内には約1200カ所(東京都調べ)の踏切があり、日本全国では約3万3000カ所(交通安全白書)もの踏切がある。

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これら踏切は法令により種類が決められており、警報機と遮断機を有する第1種、掛員が手動で遮断機を操作する第2種、遮断機はなく警報機だけが建植されている第3種、そして警報機も遮断機もない第4種というすみ分けである。このうち一部工場などの専用踏切を除き、第2種は現在の日本には存在しないと言われている。

法規のうえでは以上の4種類に分類されているが、このほかにもう1つ公式ではない踏切も存在する。それが、今回の事故の原因となった勝手踏切と称するものだ。

運輸省(現・国土交通省)の古い資料などには「作場道(さくばみち)」と記されているものだが、要は赤道(あかみち)と呼ばれる古くから道路として利用されてきたが現在は道路法上の道路ではない道路や畦道のような正式な道ではない道路と、線路が交差するところの部分を示す名称である。乱暴な言い方ながら、一般公衆による線路内立ち入り(交差)が、常態化している部分の総称である。

当然ながらこれらには警報機も遮断機もなければ、踏板さえもない。つまり警報音がしないうえに通行を遮るものもなく、足元は敷石によってガレ場のように足が取られる大変危険な場所だ。当然、人身事故も多く発生している。それが、勝手踏切の姿である。

踏切ではない鉄道の軌道敷のため、立ち入ってはいけない場所だ。だが、そこには鉄道側・歩行者側それぞれの立場の主張があり、いわゆる黙認と自己責任のうえで存在している非常にグレーな場所なのである。国土交通省によればこの勝手踏切は、全国で約1万7000カ所も存在する(2021年1月時点)が、小さなものを含めれば、もっと多いのかも知れない。

江ノ電の踏切は、2018年度鉄道統計年報「踏切道数及び軌道重量別軌道延長表」によると、踏切道第1種甲種自動箇所が50カ所の合計50カ所とあるので、公式には警報機と遮断機を有する第1種踏切しか存在しない。一方で、江ノ電の担当者によれば、勝手踏切が89カ所ある。この勝手踏切についてはもちろん正規の踏切としてはカウントされていない。

江ノ電の沿線には、線路を渡らなければ自宅から出る事さえできない住居が多く存在する。それではなぜ、線路を渡らなければならない構造になってしまったのだろうか。その答えは、歴史と時代背景が関係する。

「家の前が線路」という例も

江ノ電は1902年に東海道本線の藤沢から片瀬(現江ノ島駅)まで敷設され、その後8年を経て1910年に小町(現鎌倉駅)まで敷設された軌道である。

軌道とは平たく言えば、路面電車である。現在の江ノ電は鉄道事業者だが、当時は路面電車だった。藤沢方面では江の島に送客していた人力車の車夫から、敷設に対して猛反対され、株主や敷設に協力的な富裕層の庭先に、線路を通し開通させた。

また鎌倉は三方を山で囲まれた小さな街ではあるが、幕府もあった由緒正しき場所で、当時より多くの人口と多くの家屋があったようだ。そのようなところでは既存の道路を併用軌道として、道路に線路を敷いた箇所も多く存在したようである。

腰越付近。家の門は線路の目の前(筆者撮影)

つまり、「線路に面した家は、目の前は道路でたまたま路面電車が併用軌道として運行されている」という条件で家を購入したか、もしくは電車の開業以前から住んでいたのだろう。このような経緯もあり線路に向かって玄関や門を構える民家や、線路を渡らないと自宅にたどり着けない、というところも多々あるわけだ。

勝手踏切とは呼ばれるが、住み始めた頃は玄関の前を路面電車が走る普通の生活道路だったと想像させられる。現に勝手踏切をゴミ回収の作業員も渡っており、行政も通路と判断していることになる。

さらに、住民と話した際、「津波が発生した際の避難経路である」と主張する人もいた。鎌倉市・総合防災課に話を伺ったところ、「4月に起きた事故現場付近は、鎌倉市の避難経路には指定されていない。ほかのルートがある」と、担当者が明確に否定した、少なくとも、地元では事故現場付近の勝手踏切が避難経路だと誤解されている。

冒頭でも記したが、本年4月に起きた人身事故。これも勝手踏切を渡ってゴミ集積場へ向かった帰りだったのだが、ここで問題となるのは、なぜ線路を渡って集積場へ向かったのかだ。

稲村ヶ崎の事故現場付近。ゴミ出しの帰りに女子は手前から線路内に侵入し、電車と接触した(筆者撮影)

先日、事故が起きた場所を訪れた。現場の地形は谷戸になっており、山の中腹を線路が走っている。また、女子の自宅付近は線路よりさらに下にある。女子がゴミ出しをするには、迂回して500mほど歩く経路があるが、勝手踏切を渡れば、15mほどでたどり着ける。

ゴミを出す場所について、鎌倉市・ごみ減量対策課の担当者に聞いたところ、「ゴミ集積場は市が決めているのではなく、地域住民が自分たちで決めており、当該の集積場も住民が話し合って、場所を決めた」と教えてくれた。

ゴミ集積場は、大体20世帯に1カ所ある割合で決めているそうで、場所が決まった後は、鎌倉市としてゴミ収集車が入れる場所かどうかを確認し、ゴミ集積場を確定しているそうだ。

線路と反対側のゴミ集積場。坂や階段の上り下りがきつい(筆者撮影)

住民が自分たちで指定しているゴミ集積場は、一部の住民が危険な線路をつねに横断することになる場所である。4月に起きた事故の後、住民同士で話し合い、線路側ではない山の中腹にあるゴミ集積場に、女子の自宅付近の住民もゴミを出せるようにしたそうだ。しかし残念ながら、現在もほとんどの人が、今までどおり線路を渡りゴミを出しに行っているそうだ。

理由はごくシンプルだ。遠くまで大きな高低差がある階段を上っていくのが困難だから、ということであった。実際筆者も現場を歩いたが、坂を上り下りするため大変だと感じた。

新規の踏切設置は認められない矛盾

赤道と線路の間には、「危険」と書かれた逆U字型バリカー(歩行者の通行を制限する設備)が設置されているだけで、普通に線路を簡単に渡れてしまう。反対側も、ひと1人がやっと通れるほどの藪だが、ここにも棒状のバリカーがあるだけだ。危ないのなら正規の踏切を造ればいいのにと思うが、そんな簡単な話ではない。

まず現在の法令である江ノ電が準ずる鉄道事業法では、新たに踏切を設置することは原則として認められない。そのために勝手踏切を正規の踏切に格上げすることは、不可能である。

ほかの方法としては高架化や地下化が考えられるが、どちらも莫大な建設費用がかかってしまう。

江ノ電の2018年度の鉄道事業営業利益は、3億4866万円(「鉄・軌道業営業損益」『鉄道統計年報』より)で、コロナ禍の昨今では、さらに厳しい減収が続いている。高架化や地下化事業の多くを沿線の自治体が負担するといっても、非常に難しい状況である。

ならば勝手踏切の該当箇所を、フェンス等で完全封鎖するという手法はどうだろうか。ただ、この方法も住民の反発は必至だ。勝手踏切は、必要があるから渡るのである。先述のとおり、迂回すれば500m以上歩く住宅もあり、住民はなにもゴミ出しだけでなく、駅に出るのも買い物にも、生活の中で当たり前に線路を横断しているそうだ。地場産業的な鉄道会社が沿線住民と確執を起こしても、マイナスでしかない。

列車接近を知らせるランプを設置してはどうか

それならば、少しでも事故をなくす方法を考えなければならない。よく見通しの悪い線路沿いに、列車の接近を知らせる接近灯が設置されている。列車が来るとランプで知らせる装置でJRなどでよく見かけられるものだが、これを積極的に勝手踏切周辺に設置してはどうだろう。実際に江ノ電では、すでに海岸線沿いのあちこちに接近灯を設置している。

保守作業のための接近灯(筆者撮影)

ただ、この装置の設置で鉄道事業者が勝手踏切を認めたとなっても困るので、これはあくまでも保守作業の安全のためとすればいい。もちろん今後も勝手踏切をなくすための努力は必要不可避だ。

鉄道は公共交通機関の中心である。そのため、監督官庁の国土交通省からの指示は絶対だ。それだけの影響力があるのだから、こと交渉は鉄道会社と行政・住民で円満に解決せよ、という消極的なものではなく、国としての指導力・財力を生かしてほしいものである。

特に江ノ電を始めとした中小私鉄は、財力・交渉などの術を持ち合わせていないところが多い。ここは元締めたる省庁の器量を求めたいと強く願ってならない。

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2201160 0 東洋経済オンライン 2021/07/15 09:18:32 2021/07/15 09:18:32 2021/07/15 09:18:32

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