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もう地味とは言わせない!「進化系おはぎ」の正体

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名古屋発の「OHAGI3」のおはぎは6個入りで1320円。ココナッツやきなこなどを使った、見た目にも華やかなおはぎがそろう(撮影:今井 康一)

地味なスイーツの代表とも言えるあのおはぎが進化している。ココナッツやブルーベリー、ピスタチオ、トウモロコシといった、従来のおはぎでは使われなかったようなフレーバーを加えたスタイリッシュなおはぎテイクアウト専門店が全国各地に増え、人気を集めているのだ。

2016年に東京・桜新町で開業し、学芸大学に支店を出した「タケノとおはぎ」はプチケーキのような美しいビジュアルで、フレーバーが多彩なことからつねに行列ができ、昼過ぎには販売終了することが珍しくない。兵庫・芦屋などで3店展開する「芦屋樂膳」も、プチケーキみたいなビジュアル。自由な発想のパイオニアはおそらく大阪・豊中で2010年に開業した「森のおはぎ」で、大阪・北新地と谷町に支店を持つ。

1日で3000個売れたことも

そうした中、2017年に名古屋の守山で1号店を開業し、次々に出店しているのが「OHAGI3(おはぎさん)」だ。有機ココナッツや抹茶などをまぶしたおはぎの一番人気は、きなこをまぶし、黒糖クルミを入れた「満月」。それぞれ東京だと1個220円(名古屋の店舗では180円)で6個セットが1320円(同1080円)。本店の名古屋駅前、大名古屋ビル店では季節のおはぎ2種類も置く。

最も売れたときは1日で3000個、月商で1000万円に上った。8月現在は東京や仙台も含めて7店を展開。今年すでに2店出店しているうえ、9月に広島店を開業、その後も年内に1~2店、来年も5~10店を出店予定だ。どちらかというと地味なイメージがあるおはぎがここまで人気を博しているのはなぜだろうか。

運営会社のホリデイズの落合裕一社長は当初から、食で起業しグローバルに展開しようと考えていた。チーズケーキやプリンも試したが、これでは海外に行くイメージができない。日本から出ていくなら和菓子だろう、と素朴なおはぎに注目した。

「もともと僕自身が、あんことおはぎが好きだったんです。幼い頃から祖父母にかわいがられていて、祖父のオフィスへ遊びに行くと、お茶菓子をいろいろ食べさせてもらいました。また、おはぎは日本でお彼岸に食べる習慣があり、名古屋ではお盆の暑いときにご先祖様にお供えする文化もある。小ぶりのサイズ感は、学生時代にアルバイトで焼いていたたこ焼きを意識しました」

同じ和菓子でも、上生菓子には抹茶に合わせるかしこまったイメージがあるが、おはぎなど和のおやつなら、コーヒーやコーラ、水と合わせるなど、現代的なライフスタイルの中に置いても違和感がないと考えた。

子どもでも安心して食べられるように

事業を展開するにあたり、先行するタケノとおはぎや森のおはぎへも視察に行った。

「両店舗とも、商品1つひとつに顔があり味わいがあるような、きれいでおいしいおはぎを売っていたんです。でも、その美しさは職人の技術があってこそ、成立するもの。嗜好品としてだけでなく、いずれカフェ業態で展開することを見据え、最初から多店舗展開を考える僕がめざすものとは違う」と感じた。

タケノとおはぎは、デリカテッセンを営むシェフが開発。森のおはぎは元テキスタイルデザイナーが始めた店だ。一方、落合社長は経営に徹し、商品開発は起業前から手伝ってくれている女性が担当している。

6個入りの箱の取っ手は割り箸と、エコなデザインだ(撮影:今井 康一)

当時、生まれたばかりの子供を背負いながら試作する彼女が「わが子に食べさせたくなる、安心安全でおいしいおはぎをつくりたい」と言う言葉に納得。無添加にすること、糖度を抑えて白砂糖の替わりにミネラル分が多いしょ糖を使うことに決めた。

「幅広い年代に受けいれられ、飽きのこないものをと考えたら、このラインナップになりました。毎朝、各店でご飯を炊いて、お米の粒感を残しつつ手作業で丸めています。あんこだけは当社でレシピ開発したものを、OEMで製造してもらっています。若い方から年配の方まで、昔ながらの手作りのようないびつ感、きれいすぎないランダム性を残したおはぎに仕上げています」と落合社長。

あえて少しいびつな形にした理由は、誰でもできるようにすることと、ホリデイズの企業理念でもある「心のすき間を温める」ホッとした感覚を抱いてもらうためだ。

今、和菓子が昔に比べて食べられなくなっている、若い世代はあまり食べない、と感じている人は多いだろう。総務省の家計調査によると、2018年の一世帯当たりの和菓子の年間支出金額は、年代が若いほど少なく、39歳以下は70歳以上の半分以下しかない。

地域によってもばらつきが大きく、2016~2018年の平均で最も和菓子を消費する都道府県庁所在地および政令指定都市では、金沢市が1万7604円で全国平均の約1.7倍。次いで岐阜市、山形市、大津市、京都市と、歴史ある町が中心になっている。一方で、ほとんど和菓子屋がない地域もあり、そうした町で日常的に和菓子を食べる習慣は持ちにくい。

和菓子文化の衰退を止めようと、近年は「ネオ和菓子」と呼ばれる、新たに洋風要素を打ち出す和菓子店が登場したり、虎屋や榮太樓總本鋪、両口屋是清、八ツ橋などの老舗が、洋風アレンジした和菓子を作るなどの挑戦をしている。小豆のあんこに頼らない多彩な展開は、小豆が苦手な人やアレルギーを持った人にも対応できる。

こうした和菓子業界の新展開の流れを受け、進化系おはぎの登場とヒットが成立した。考えてみれば、イチゴ大福などのアレンジは昭和の頃からあって、人気を博し定着している。古く懐かしいイメージのおはぎは、その古さごと新しい時代に対応するスイーツとして、すでに新時代に突入しているようだ。

海外展開にも積極的

もっとも、落合社長の視線の先にあるのは日本市場だけではない。2018年にまず台北・士林の高島屋と、シンガポールの高島屋に催事で販売。台湾では凝ったパッケージよりリーズナブルな商品を求められ、シンガポールではわらび餅がよく売れるなど、「同じ亜熱帯でも、国や地域によって全然捉え方が違う」ことに気づいた。

同年夏にはミラノの有名創作ずし店で、コース料理の最後におはぎを出してもらったところ、食通に高く評価された。

「ミラノはカルパッチョがあるなど、日本と食文化が似ているところがあります。おはぎはワインと比べてポリフェノールが3倍もあるなど、健康面での評価をいただきました。また、おいしさはもちろんのこと、控えめの甘さと造形美も評価いただいたんです」

そこで、まずミラノとローマで店舗を持ちセントラルキッチンも作る計画で資金を準備していたところ、コロナ禍になっていったん計画が中断している。

「今年は、海外にコンテンツを持って行くために国内の信用や資金を集めようと、マザーズ市場への上場も準備中です」と話す落合社長。グローバルな展開を考える理由に、和菓子文化の衰退がある。

若い世代でも手軽に楽しめるように

「若い人から、『お彼岸のときはおはぎを食べるんですか』などと聞かれると、古きよき文化が失われていくのは寂しいなと思います。おはぎを食べない人が増えているのは、彼女たちのお母さん世代が食べていなかったため、子ども時代に食べる機会がなかったからだと思います。和菓子を食べる機会がなく育ったら、友達の家に手土産を持って行こうと思ったときの選択肢も洋菓子だけになってしまう。悪循環が続いているんです」

アレンジおはぎを開発したのは、そうした若い世代でも手軽に楽しんでもらえるように、と考えたからだ。

落合社長は、「名古屋周辺でも、岐阜県高山市などいろいろな地域で、継承する人がおらず惜しまれつつ閉店する和菓子店があります。しかし、おはぎを1つのコンテンツとして日本のみならず海外で根付かせることで、次の世代へ継承していける」と言う。

名古屋本店(写真:ホリデイズ提供)

今後、国内では5年以内に100店舗を出店し、海外はイタリアなどヨーロッパ、続いてアメリカ、そして中国での出店を目指し、コーヒーやコーラにも合う和のおやつとしておはぎのアップデートをめざす。

進化系おはぎの普及に邁進する落合社長だが、ここへ至るまでの道のりは平坦ではなかった。1982年に愛知で生まれた落合社長は、大学時代にたこ焼きチェーン「くくる」の社内コンテストで1位となり、香港やロサンゼルス、ニューヨークなどの催事で活躍。その後、テレビ愛知で2年間働き、日本出版販売に転職。9年間働いた後、東京から名古屋にUターンし、ホリデイズの立ち上げ準備に入るかたわら、IT企業のエイチームで働き2019年に独立した。

日販時代にアマゾンとの取引を担当したことから、小売り企業の原理原則を学ぼうと自ら経営塾に5年通った。その中でアメリカ視察があり、訪ねたサンドイッチチェーンで接客する老夫婦の笑顔に魅了され、このような笑顔で働ける会社を作り社会に貢献したい、と独立を考えるようになったという。

日本人があまり本を読んでいないという問題意識から日販に入ったが、「本が売れないのは、本自体に原因があるのではなく、1人ひとりに自分と向き合える時間など、日々の暮らしに安らぎの時間や余裕が少ないから」と気づく。こうしたゆとりを持てるサービスを提供したいと考えるようになった。

起業での紆余曲折は「プラス」

当初は家族から起業計画を、「路頭に迷うと困る。ダブルワークをしながら挑戦するなら認める」と反対された。そのため、会社員との二足のわらじを履き、人脈と土地勘のある地元での開業を目指した。会社の規定でアルバイトは禁止されていたが、会社経営は禁止されていなかった。開業資金は自己資金350万円だけ。投資、回収のサイクルを考えれば、可能なのはテイクアウトしかなかった。

落合社長の場合、紆余曲折を経て起業したことはプラスに働いた。勤めた先で知り合った人たちとは良好な関係を築いている。また、開業資金が少なかったにもかかわらず、年2店と速いペースで店を広げられたのは、日販と蔦屋書店の合弁会社MPDの協力を得られたからだ。

「OHAGI3(おはぎさん)というフランチャイズ業態のビジネスパートナーとして、不足する人材や店舗運営の資金を注入していただく、フランチャイジー契約を結びました。そのうえで、当社は商品開発やブランディングに注力しています」と落合社長。

すしやラーメン、最近ではカレーやぎょうざなど、これまでいろいろな日本食が世界デビューを果たし、受け入れられている。ベストセラーになった『英国一家、日本を食べる』の著者のマイケル・ブース氏など欧米の文化人が日本食にハマる現象もある。

和菓子についてはすでに、虎屋がパリに進出している。「豆が甘いなんて」とあんこを敬遠する欧米人は多いが、すしだって昔は「ナマで魚を食べるなんて」と言われていた。おはぎにハマる欧米人も、これからは出てくるかもしれない。近年、グルメの世界で、外国の食文化を積極的に受け入れる機運は高い。やがて、おはぎが世界を席巻する時代が訪れるかもしれない。

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2250436 0 東洋経済オンライン 2021/08/05 07:52:16 2021/08/05 07:52:16 2021/08/05 07:52:16

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