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乗客は知らない新幹線「パンタグラフ」めぐる憂鬱

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新幹線の高速走行を支えるパンタグラフ。冬場の監視業務は車両所社員の負担になっていた(記者撮影)

東洋経済記者 橋村季真

JR西日本が運行する山陽新幹線。西の大動脈として新大阪―博多間の各都市を結び、在来線に乗り継いで四国や山陰と行き来するにも欠かせない存在だ。最高速度は時速300kmと、東北新幹線の時速320kmに次ぐ高速運転で、東海道新幹線から直通するN700系も西日本エリアで実力を遺憾なく発揮している。

1編成に2基しかない

車両の屋根の上にあって細い腕ながら架線に流れる電気を車両に取り込み、高速運転を支えているのが集電装置のパンタグラフだ。かつてパンタグラフと言えばひし形のイメージが強かったが、現在は在来線でも「くの字」になったシングルアーム型の採用が増えている。シングルアーム型は空力特性と騒音対策に優れているほか、着雪の影響を受けにくいメリットがある。

京都鉄道博物館に展示されている0系新幹線のパンタグラフと、学芸員の島崇さん(記者撮影)
独自に開発された500系新幹線のパンタグラフ(記者撮影)

「初代の0系新幹線には2両ごとに1編成(16両)で計8基のパンタグラフがありましたが、現在のN700系などでは1編成に2基だけとなっています」。こう語るのは京都鉄道博物館の学芸員、島崇さん。「新幹線は高速で走行するので騒音や集電不良を防ぐためにパンタグラフにいろいろな工夫が施されています」と説明する。同博物館では0系車両の内部で新幹線用に開発された「下部交差型」のパンタグラフを展示している。

また、世界で初めて時速300kmでの営業運転を実現した500系のパンタグラフは、T型の柱が直立する仕組み。独特の形状は走行時の風切り音を軽減する目的で設計されたが、16両編成から現在の8両編成に短縮される際にシングルアーム型に取り換えられた。同博物館では誰でも非接触型のセンサーに手をかざすだけでパンタグラフを起動させることもできる。通常は見ることができない角度と距離でじっくりと観察できるのは博物館ならではの利点と言える。

新幹線車両の進化とともに改良が加えられてきたパンタグラフ。現役車両を見ても、在来線には見られない特徴があることがわかる。上部の「ホーン」と呼ぶ横に突き出た棒に開けた穴や、側面の2面側壁は騒音を軽減する狙いがある。下部の風防カバーも騒音対策だが、空気の流れを整えて揚力の急な変動を抑える意味もある。

摩耗によって頻繁に交換されるすり板(記者撮影)
最新のN700Sのパンタグラフ(記者撮影)

さらに架線と接触する「すり板」は、在来線では2枚が並んでいるが、新幹線は1枚にして、部品点数削減と軽量化を図っている。このすり板は架線との摩擦によってすり減ってしまう消耗品。東京―博多間を走るような編成の場合、1日の走行距離が3000kmから4000kmに及ぶため、 3日か4日で取り換える必要があるという。

最新のN700Sでは「たわみ式すり板」を採用して架線への追従性を大幅に高め、集電性能の向上と長寿命化による省メンテナンスが図られた。足にあたる支持部を3本から2本に減らすことで、従来のN700Aと比べ1台あたり約50kg軽くなった。

パンタグラフにまつわる“お悩み”

JR西日本ではパンタグラフをめぐって冬場特有の“お悩み”があったが、その解決にAI(人工知能)が一役買っているという。具体的にどういうことなのか、現在は鉄道本部車両部車両設計室担当課長の豊岡誠さんと博多総合車両所車両科(企画担当)係長の堤健太さん、鉄道本部車両部企画課の西田太郎さんに話を聞いた。

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気温の低い冬の日の朝、走行中の電車のパンタグラフから激しい火花とともに「バチバチ」という音が聞こえてくることがあるが、原因となっているのが霜や氷が架線に付着していることで起きるアーク放電という現象だ。場合によってはすり板に穴が開く「溶損」が発生することがある。これを発見するための監視業務が従来、山陽新幹線の車両のメンテナンスを担当する博多総合車両所社員の大きな負担となっていた。

「すり板に穴が開いたまま走り続けると、変形によって架線を押し上げる揚力が強くて架線を切ってしまったり、逆に揚力が弱くなって集電がきちんとできなくなったりする。早く見つけないとその後の輸送トラブルにつながります」(堤さん)。車両側では集電に影響がない限り気づくことが難しいため、駅ホームの監視カメラを使って人の目で確認する必要があった。

パンタグラフ監視カメラは新神戸・岡山・広島の各駅に設置。冬になると博多総合車両所の社員が毎朝、映像をリアルタイムでチェックしていた。

広島駅上りホームの監視カメラ(写真:JR西日本)

「12月から3月にかけて毎日、朝6時から9時の間、あらかじめ決まった列車の停車時間になるとパソコンの画面で映像を確認していました。大きな溶損を発見した場合は、東京の指令に連絡して車両の交換の手配することになります」(西田さん)。

このパンタグラフ溶損専門の監視は、博多総合車両所のさまざまな現場から社員が持ち回りで「前超勤」して担当。60歳を超えるシニア社員は対象としておらず、1人当たりの負担は年々増す傾向だったという。早朝の勤務のため前夜から宿泊することもあった。

AIが本格的に監視業務を担当

日立製作所と共同で開発したAIには、正常・異常、それぞれ多数の画像を学習させた。「正常画像は用意しやすいが、異常画像は少ない。正常画像のすり板に穴が開いたように加工して学習させた」(西田さん)という。十分な精度が確認できたことから、2020年の冬には車両所社員の当番制がなくなって、AIが監視業務を担当する体制に移行した。

かつては当番の車両所の社員が早朝から監視していた(写真:JR西日本)

AIが異常と判断すれば東京指令所にアラートが届き、指令員が画像をチェックする仕組みとなっている。豊岡さんは「早朝に出勤していた分の労力をほかの仕事に回せるようになったほか、列車の交換につながる判断をしなくてはならない担当者の緊張感や心理的負担がなくなった」とメリットを強調する。監視業務の教育に時間を割く必要もなくなった。

パンタグラフに異常が見つかった監視カメラの映像(写真:JR西日本)

JR西日本では2020年6月、博多総合車両所に山陽新幹線データ統括室を設置。走行中の車両から取得したデータを分析し、予知保全につなげる体制を整備した。例えば、車輪踏面が平らになることで生じる乗り心地の悪化も「お客様が不快に感じる前に検知して、車輪を削る作業ができる」(堤さん)という。また、紙帳票だった車両検査での測定値を、タブレット端末を使って電子化、蓄積することで異常の予知に活用するといった仕組みも構築している。

パンタグラフひとつをとってみても、これまではすり板の状態を監視するだけのために、誰かが冬の早朝に出勤してくれていたことになる。普段、客として乗っていると気づくことはない、新幹線の安全運行を支えるメンテ現場の苦労。そのお悩み解決には車両の進化と同様、最新技術が生かされている。

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2402076 0 東洋経済オンライン 2021/10/14 09:31:59 2021/10/14 09:35:56 2021/10/14 09:35:56

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