旧車を電動化「コンバートEV」事業者が増える訳

東洋経済オンライン
スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

チンクエチェント博物館のプロデュースによるフィアット「500ev」(筆者撮影)

モビリティジャーナリスト 森口将之

2021年度のグッドデザイン賞で、古いクルマをEV(電気自動車)にコンバートするオズモーターズの取り組みが、グッドデザイン金賞を受賞した。

筆者も審査委員を務める今年度のグッドデザイン賞は、10月20日に発表され、過去最多となった5835件の審査対象の中から、こちらも過去最多となる1608件もの受賞が決定した。

東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

これだけ見ると「数が多い」と思うかもしれないが、オズモーターズが受賞したグッドデザイン金賞は、日用品、家具、建築などすべての分野を合わせてわずか19件しかない。その1つに入ったのだから、評価の高さが理解できるだろう。

しかしながら、日本でEVコンバージョンを手がけているのは、オズモーターズだけではない。アメリカなどで以前から盛んだった取り組みが、ここへきて日本でも広まりつつあるからだ。

その中から3つの事業者を取材したので、それぞれの取り組みを紹介していくことにする。

素材を「古い車」にこだわる三者三様の理由

まずは、グッドデザイン金賞を受賞したオズモーターズから。

オズモーターズは、代表取締役の古川治氏が1993年に神奈川県で創業した自動車技術開発企業、オズコーポレーションの事業の1つで、EVコンバージョンは約10年前に始めたという。きっかけは、ハイブリッド車が人気になって、環境志向が高まったことだった。

「アフターマーケットも地球環境への対応をしなければならない」と考え、情報収集を進めたところ、アメリカにEVコンバージョンというジャンルがあることを知り、日本でも自動車メーカーがEVを出したタイミングだったことで、事業化を決心したという。

オズモーターズによりEV化されたボルボ「P120(アマゾン)」(写真:オズモーターズ)

古いクルマにこだわるのは、故障や修理、部品確保などで維持が大変であることに加え、新しいクルマには統合的な電子制御が入っており、保安基準も厳しくなること、電動化による付加価値が見いだしにくいことなどが理由だ。

続いて紹介するのは、両備テクノモビリティーカンパニーだ。岡山県を中心に公共交通や物流、不動産、まちづくりなど幅広い事業を手がける両備ホールディングスの社内カンパニーである。

同社では、CO2を排出する事業を多数展開することから、脱炭素化に真剣に向き合っていくべきだと認識してきた。その中で両備テクノモビリティーカンパニーは、西日本最大級の130人の技術スタッフを擁しており、軽トラックのEV化も実施している。

この技術力を活用しつつ、社会課題を解決するために「新車を買い続けること」から、EVコンバージョンにより「古いものを大切に使い続けること」へのパラダイムシフトを目指し、事業化に至った。

EV化されたロンドンタクシーこと、オースチン 「FX4」(写真:両備テクノモビリティーカンパニー)

プロジェクトの発案が両備ホールディングス社長の松田敏之氏であることから、1978年当時の社長だった松田基氏が購入したロンドンタクシー(正式名称オースチン FX4)に着目し、レストアとともにEVコンバージョンを行った。

バッテリーは運転席横およびトランクに搭載しており、満充電での航続距離は100〜120km。今後は個人所有者の持ち込みのほか、中古車探しからのオーダーメイド、リース業者との連携に取り組んでいくとのことだった。

運転席のすぐ横にもバッテリーが搭載されている(写真:両備テクノモビリティーカンパニー)

「500ev」は博物館がプロデュース

3番目に紹介するEVコンバージョンは、試乗することもできた。1957年から20年にわたり作られた2代目フィアット「500(チンクエチェント)」の保護や保存に努める、愛知県のチンクエチェント博物館がプロデュースした「500ev」だ。

博物館代表の伊藤精朗氏によると、イタリア本国で以前から存在していたEVコンバージョンキットを組み込むとともに、レストアも行ったうえで輸入されるとのこと。

バッテリーは、フロントノーズとエンジンルーム内の2カ所に収められ、満充電での航続距離は100kmとされている。

もともと車体後部にエンジンを積むRRレイアウトのため、モーターは後部に搭載する(筆者撮影)

オリジナルの2代目500は、筆者も若い頃に乗っていた。当時所属していた自動車専門誌の編集部に長期レポート車として在籍していて、自分が担当だったからだ。

その500は排気量を500ccから650ccに拡大していたが、絶対的には非力で、アクセルを全開にし、各ギアで上限の速度まで引っ張って加速していくのが作法だった。しかも、マニュアルトランスミッション(MT)には、回転合わせを行うシンクロメッシュ機構がなかったので、ギアチェンジにはダブルクラッチを使う必要があった。

それに比べると、500evの加速は夢のようだ。アクセルペダルを軽く踏んだだけで、力強い加速が始まり、その後の速度の伸びも、一般道路で試した範囲では“活発”という言葉を使えるほど。

しかも、変速操作は必要ない。エンジン車の2代目500はMTしかなかったので、AT免許で乗れる初めての500とも言える。

バッテリーの搭載により車両重量は200kg以上増えているので、ステアリングは重く、ブレーキペダルは多めに踏むことになったが、どちらも不満を覚えるほどではない。

「500ev」の運転席まわり。デジタルメーターやEV化によるスイッチ類が違和感なく収まる(筆者撮影)

重さのおかげで重厚になった乗り心地や、前後の重量バランスがよくなったことによるハンドリングの安定感というメリットも知ることができた。

さらに感心したのは、単にパワーユニットをコンバートしただけではなく、メーターにデジタルディスプレイを組み込み、タッチ式スイッチやデジタルオーディオ、USBソケット、リモコンキーを採用したうえで、スポーツモードを新たに用意するなど、電動化を生かしたアップデートがなされていることだ。

コンバージョンEVも「エコカー」税制が適用

500evの生まれ故郷であるイタリアの都市に行くと、外観は歴史を感じさせる石造りのまま、内部をモダンにリノベーションした建物を目にすることがある。500evのコンバージョン内容はまさにそれに近い、モダンとクラシックが絶妙に融合したものだ。

コンバージョンEVならではのメリットは、オズモーターズも言及していた。エンジン車では初年度登録から13年を超えると自動車税が増税となり、18年超でその増税率が引き上げられるが、EV化によって増税対象から外れ、逆にいわゆる「エコカー」扱いになるので、税制面での恩恵が受けられるという。

オズモーターズによりEV化されるダットサン「フェアレディ」(写真:オズモーターズ)
エンジンルームからエンジンをおろし、モーターを搭載する様子(写真:オズモーターズ)

古いクルマはエアコンの取り付けが難しい車種が多いが、コンバージョンEVなら電動コンプレッサーを使うことでエアコン装備が容易になるというメリットもある。

気になる価格は、オズモーターズは車種によって異なるが車両持ち込みで500万円から。両備テクノモビリティーカンパニーのロンドンタクシーはレストア310万円+EV化400万円で合計710万円、チンクエチェント博物館の500evは車両代込みで660万円となっている。

いずれもオーダーメイドなので、高価になることは避けられない。

しかし、新車のEVでもプレミアムブランドになると、コンパクトクラスであっても500万円以上になる。たとえば、レクサス「UX300e」は580万円、メルセデス・ベンツ「EQA」は640万円だ。比較的手頃なプジョー「e-208」であっても、398万9000円である。

そう考えれば、500万~700万円のEVコンバージョンは、決して“高すぎる”とは言えないだろう。

環境対策に対する回答の1つとして

EVは、航続距離や充電時間を考えると長距離移動には向かない。それを踏まえて、近場の移動に特化した趣味的な乗り物として捉えるのであれば、コンバージョンEVは悪くない選択だ。

そう考えるのは、筆者が今、50年前に生まれたシトロエン「GS」を所有していることもある。1970年代のシトロエンらしいモダンでエレガントなスタイリングと、前衛的なインテリア、ハイドロニューマチックサスペンションによる独特の乗り心地などが気に入っている。

筆者が所有するシトロエン「GS」(筆者撮影)

1.0リッターの空冷水平対向4気筒エンジンをMTで操るドライビングも気に入っているが、エアコンがないこともあって暑い日のドライブは控えるようにしている。

こうした旧車やヴィンテージカーをEVにコンバートすれば、デザインや乗り心地を我慢なしで味わえることになるわけで、「そのほうがいい」という人がいても不思議ではない。

ヨーロッパや日本などで、将来的にエンジンだけで走るクルマの販売が禁止されるのは新車に限った話であり、現在も排出ガス規制前のガソリン車はナンバーを取得していれば公道を走ることができるので、今後も古い車に乗り続けられる可能性はある。

とはいえ、日本でも地球温暖化の影響は気候変動をはじめいろいろ出てきており、環境対策を心がけようという人は、今後さらに多くなっていくはずだ。

もちろんそのときに、新車のEVや燃料電池自動車(FCV)に乗り換えるという考え方もあるだろう。しかし、生産や廃棄の際の温室効果ガス排出を考えれば、今あるものを大切に使うコンバージョンEVもまた、1つの環境対策であることは確実である。

無断転載・複製を禁じます
スクラップは会員限定です

使い方
2523155 0 東洋経済オンライン 2021/11/18 10:05:13 2021/11/18 10:12:30 2021/11/18 10:12:30

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)