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言語学で集客しまくるYouTubeチャンネルの正体

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人気コンテンツ『ゆる言語学ラジオ』で言語学を解説する水野さん(左)と、プロデューサー的立場の堀元さん(右)(写真:筆者撮影)

ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター     村田らむ

『ゆる言語学ラジオ』は、堀元見さん(29)と、水野太貴さん(26)が、YouTube、ポッドキャスト上で展開するコンテンツだ。

堀元さんはライター、ウェブコンテンツ製作などを生業とするフリーランスであり、水野さんは大手出版社で編集者をしている。

『ゆる言語学ラジオ』はタイトルのとおり、言語学を解説するトーク番組だ。

「言語学とは、少し地味なテーマじゃないか?」

と思った人もいるかもしれない。

しかし、これが今とても受けている。

YouTubeで8万人超がチャンネル登録

2021年3月に公開がはじまり、11月4日現在8万6600人以上がチャンネル登録している。

ちなみに筆者は、解説系、教育系のYouTubeを日頃からよく見ている。

例えば、山田五郎さんが主に美術史について解説する『山田五郎 オトナの教養講座』や、人工音声で歴史や学問などを解説する『ぴよぴーよ速報』などを好んで見ていた。

その流れでYouTubeから「あなたに興味があると思われるコンテンツ」として『ゆる言語学ラジオ』が紹介されたので見てみた。

「『象は鼻が長い』を例とする、助詞の“は”と“が”の使い分けの謎」

「『太鼓と提灯と弓は同じ数え方』『鬼は改心前と改心後で数え方が違う』など助数詞の中にある日本語の本質」

「春とバネはなぜ両方ともspringで、贈り物と現在はなぜ両方presentなのか?」

など、たしかに地味ではあるのだけど、とても興味深い内容が語られていた。

ほとんどの日本人が自在に日本語を“喋る”“書く”ことができるが、日本語の構造を理解しているわけではない。

改めて、

「“は”と“が”はどうやって使い分けているのかわかりますか?」

と言われると、迷ってしまう。

筆者はライターとして言葉を紡いで20年も飯を食っているのに、そんなことを考えたこともなかった。

今まで、疑問にも思わず使ってきた“日本語”にすごい謎が秘められていることに気づき、とても興奮した。

番組は、基本的には水野さんが堀元さんにプレゼンする形で進行していく。

真面目一辺倒な内容ではなく、話はよく脱線しおふたりが好きなウンチク話を披露することも多い。

お酒を飲みながらシナリオなしに気軽に話しあう回もあり、今までの解説系、教育系のYouTubeチャンネルとは一味違うな、と感じた。

ラジオ内で登場した書籍などを紹介する書店でのフェアは大好評

番組の話題を受けて、文教堂あきる野とうきゅう店では現在『ゆる言語学ラジオ』内で登場した書籍などを紹介するフェアを開催している。この催しは大変好評で、少なくとも年内は開催される予定だ。

今回は、水野さん、堀元さんに話を聞いた。

まず、言語学を解説する立場の水野さんは、いつ言葉に興味を持ったのだろうか?

水野「小学校低学年の頃には言葉に対する関心が強かったですね。

『難しい漢字が知りたい!!』

という欲求があって、難読漢字本みたいなのを収集してました。買えるものは全部買ってもらってましたね」

水野さんが小学校5年生のときに、麻生太郎元総理が漢字の読み間違いが多いことが話題になった。例えば、「破綻(はたん)」を「はじょう」、「未曾有(みぞう)」を「みぞうゆう」と読んだのだ。

水野「それから漢字ブームが来たんですが、そのときに売れた本を僕はすでに読み終わっていて、

『やっと時代が追いついたか』

と思いました」

中学時代は、陰謀論や都市伝説にハマったりしつつも、高校時代には英単語の語源や英文法にハマった。

自分は言語に関心が強いと自覚して、名古屋大学の文学部に進学した。メディアにも多く出演する言語学者の町田健さんなどが在籍する、言語学研究室に入った。

水野「ただ、大学時代は真面目じゃなかったですね。授業もいい加減にうけて、サボって皆でカラオケに行くような、いわゆる無の大学生でした。今考えたらもったいないですね。研究室の先生に言語学のコンテンツをやってると言ったら、

『なんでお前が?』

ってたしなめられてしまうと思います。

ただ、当時から雑学は大好きだったんですよね。大学時代は将来、英語の塾講師になろうと思っていたんです。

授業中の雑談、こぼれ話が面白い先生になりたかったんで、本を読んで面白いと思った部分をメモしていました。そういうネタ帳が膨大な量になりました。その大量のネタが、むしろ今のラジオに生きていると思います」

辞書を通読

水野さんは、番組を作るためにかなりたくさんの本を読んでいる。

とくに「辞書好き」を公言し、『数え方の辞典』『新明解 語源辞典』を通読して番組に挑んだ回は、堀元さんに驚かれている。

水野「今働いている出版社の入社試験のときに『辞書が好き』というのをアピールしたら、とてもよく伝わったんですね。『言葉が好きです』というより『辞書が好きです』と言ったほうが伝わりやすいなと感じました。

こぼれ話や雑談などをメモした大量のネタが、今のラジオに生きている(写真:筆者撮影)

ただ、少し話を盛っていて、今までに通読した辞典は小学生向けの『漢和辞典』『国語辞典』『ことわざ辞典』くらいだったんです。辞書が好きなのは確かなんですが、大人向けの辞書を通読した経験はなかったんです。このままではうそつきになってしまうと思い、現在『新明解語源辞典』と『新明解国語辞典』を通読しています。

最近は辞書を読んで面白かったページをノートに書き写しているのですが、そのメモがまた膨大な量になってきています。『ゆる言語学ラジオ』のネタになればいいなと思いながら、メモを取っています」

そんな水野さんだが『ゆる言語学ラジオ』を始めるまでは、いち編集者だった。いつか言語学の本を作ろうという志はあったものの、言語学を解説する動画・音声コンテンツを作ろうという気持ちはなかったという。

それは堀元さんとの出会いからはじまった。

堀元さんは『ゆる言語学ラジオ』のプロデューサー的立場の人間だ。

本人は慶應義塾大学理工学部の情報工学卒という経歴で、言語学とは接点がなかった。

堀元「僕はフリーランスとしてウェブコンテンツを製作したり、noteなどで雑文を書いたりして生計を立てています。 

過去には『ビジネス書100冊読んで実践する』という企画をして、話題になったことがありました。

そういう企画を面白がってくれる方が、有料記事を買ってくださるなどしてお金を出してくださいます。そのおかげでなんだかんだで生活ができています。ありがたいことです」

堀元さんは暇なときによく

『今日、誰かご飯をおごってくれませんか?』

とインターネット上で問いかける。

そして声をかけてきた人とご飯を食べるのが趣味だという。

水野さんは、そもそも堀元さんの活動に興味があり、

「一緒にご飯を食べましょう」

と声をかけた。

2人は意気投合

(写真:筆者撮影)

水野「堀元さんは、かなり毒舌家なので話しかけるのには勇気がいりましたが、それでも根っこの部分では共通する部分が多いと思って声をかけました」

堀元「水野さんは、めちゃくちゃ面白くて、すごくおしゃべりだったんですね。僕よりもおしゃべりな人は、初めてでした。

水野さんはウンチクが好きなんですが、僕も小学生の頃からウンチクが好きで、知識でイキる(虚勢をはる)のが好きだったんです。例えば、せき込んでいる人がいると、

『大丈夫? 変なところに入った?』

とかではなく、

『ネアンデルタール人と比べて、ホモサピエンスは発声するために喉頭の位置を下げたから、その代わりにせき込みやすくなったんだよね。明瞭な発音をするためにせき込むのも仕方ないよね』

とか言いたいわけです。もちろん周りからは常時めんどくさがられました(笑)。

そういう意味でも水野さんとはとても気が合いました。ウンチク専用のグループチャットを作って、お互いにウンチクを書き合っています。

ただ僕は言語学ってジャンルをほとんど知らなかったです。考えたこともなかったですね。でも水野さんの解説を聞いて、これは面白いなって感じ、コンテンツとして成立するなと思いました」

11月ごろに、堀元さんから水野さんへ

「『ゆる言語学ラジオ』というコンテンツをやりたいと思っているのですが、どうですか?」

という誘いのメールが届いた。

水野「僕は堀元さんのファンでしたから、素直にうれしかったです。ただ収録現場である堀元さんのお宅に伺ったら、結構初期投資をしていたんです。マイクやビデオカメラを買ったり、ロゴを発注したりで40万円ほど使っていました。

堀元さんが発注したロゴ

僕の予想では、年内にYouTubeチャンネル登録者数が1000人いけばいいほうだと思っていたので不安になりました」

堀元「僕はもうちょっと楽観的な考えで、2年間で2万~3万人のチャンネル登録者数になればいいなと思っていました。それでゆっくりと回収できればいいと考えていました」

堀元さんには、

「自分自身が喜ぶものを作ろう」

というポリシーがあるという。

自分が面白いものを本気で作ったら共感する人がいる

堀元「自分が面白いと思うものを本気で作ったら、それを面白いと思ってくれる人は必ず数万人はいると思うんですよ。

必ずしもトップを目指す必要はないんですね。自分に興味がないものを作るより、興味があるものを作ったほうが幸せですから。

『自分が面白いと思う物を本気で作っていったらいつか元をとることはできる』

「自分に興味がないものを作るより、興味があるものを作ったほうが幸せ」(写真:筆者撮影)

という長年ウェブコンテンツを作ってきた中から得た経験則がありました。なので投資に対して、ためらいはなかったですね」

しかし2人の予想をいい意味で覆し、第10回の『「象は鼻が長い」の謎-日本語学者が100年戦う一大ミステリー』というコンテンツが注目されて、チャンネル登録者はうなぎ登りに増えた。

多いときには日に3000人以上増えることもあり、現在は8万6000人を超える人気チャンネルになっている。

堀元「すでに教養系、解説系のYouTube、ポッドキャストはたくさんあり、土壌はできていました。ただ今までのコンテンツは1人で講義をする形式の番組が多いんですね。予備校の授業に近い形式です。そういう番組は教養が9割、エンタメが1割くらいの番組が多いと思うのですが、僕らはエンタメ8割、教養2割くらいの気持ちでやっています。

対話形式なので解説の中で適切な相づちや疑問を挟むことができます。実はふたりでやっている番組でも、適切な相づち、疑問を出せている番組は意外と少ないんです。

僕と水野さんは、ライターと編集者だったので、職業柄インタビューする機会も多く、そもそも

『聞き手がどう立ち振る舞えばいいのか?』

がわかっていたのは大きいと思います」

水野「人気コンテンツになったのはうれしいのですが、聞く人が多くなったため、間違いを指摘されることも多くなりました。

そのためどうしても最近は、慎重な物言いになりがちです。話題になっているからこそ、アカデミズムとのいい関係性を構築するのが大切だと思っています」

これから2人は『ゆる言語学ラジオ』をどのように育てていきたいと思っているのだろうか?

水野「学者、研究者を呼んで面白いコンテンツを作れないか? と考えています。

実際、応用言語学者に来ていただいて、お話を伺う回を収録しました。

学者、研究者の方たちの話は難しくて伝わらない場合もあります。地上波のテレビの場合、すごく浅いところで

『私たちにはこれ以上はわかりませんが……』

と終わらせてしまう場合が多く、見ていてとても歯がゆく思います。

自分たちはもっとしっかり深いところまで話を聞きたいです。難しすぎてわかりづらい部分は、僕たちがかみ砕いたうえで、視聴者の方たちにわかりやすく伝えられたらいいなと思っています。

すでにマスコミによく取り上げられている学者ではなく、研究者肌のあまり知られていない人をお呼びできたらなと思っています」

『ゆる〇〇学ラジオ』を広げたい

堀元「今『ゆる言語学ラジオ』のファンクラブを作ったり、オフ会をしたりして、面白い人と会えるチャンスを増やしてます。

その中には、自分でもラジオをやりたいと思っている人は少なからずいると思います。

そしてその後『ゆる○○学ラジオ』というフランチャイズとして広げていきたいと思っています。『ゆる○○学ラジオ』のプラットフォームを作り、その中で番組をやりたいと思っている人に例えば『ゆる数学史ラジオ』とか『ゆる生物学ラジオ』など自分がやりたいコンテンツを作ってもらいます。

もちろん、番組製作のノウハウは教えますし、宣伝もします」

プロトタイプとして『ゆる言語学ラジオ』内で『ゆるコンピューター科学ラジオ』という特別回が公開された。コンピューター・サイエンスに詳しい堀元さんが、水野さんに

「プログラマーは何をしているのか?」

「プログラミング言語とは何か?」

などをわかりやすく解説している。

堀元さんは今後『ゆるコンピューター科学ラジオ』を独立させていきたいと考えている。

さらに堀元さんには、長期的には『ゆる○○学ラジオ』を学校化できないか? という考えがある。

世の中のプレゼンを面白くするために

堀元「大学のときに、高校生のプレゼン大会を見たことがありました。そのプレゼンのレベルが非常に低かったんですね。それって生徒たちが学校から言われて

『目的なし』

『お手本なし』

でいやいややっているからなんです。よく考えたら、僕も小学校のときの自由研究の発表ってそんな感じでやっていました。

『とにかくみんなの前で5分しゃべればいいんだろ』

という投げやりな意識でした。

しかし学生時代はそんな感じなのに、社会人になると急に、

『プレゼンテーションで、聴衆の心をつかんで、自分の意見を通せ』

なんて言われるんですね。その温度差、ギャップに戸惑っている人は多いと思います。自由研究のやり方を学べる授業が必要だと思うんです。それを『ゆる○○学ラジオ』が担えないか? と考えています。

生徒たちが『ゆる○○学ラジオ』を作ることで『研究して、発表すること』がきちんとできるようになる学びの場を作れたらいいなと思っています。

もちろんかなり先の空想話ではあります」

(写真:筆者撮影)

『学校を作る』というと、壮大すぎる夢話のように聞こえるが、堀元さんの話を聞いているととても現実的な話に感じた。

YouTubeやポッドキャストなどのコンテンツを作る能力は今後ますます重要視されていくだろうし、また転用が効く能力だとも思う。話を聞いているうちに、2人の熱気にあおられて

「自分でも何かやってみたいなあ」

という気持ちがふつふつと湧いてきた。

まだまだ進化していくであろう『ゆる言語学ラジオ』の今後に期待したい。

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2541857 0 東洋経済オンライン 2021/11/25 09:56:21 2021/11/25 10:11:10 2021/11/25 10:11:10

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