箱根駅伝「坂道」が作るドラマも…各区の勝負どころを紹介
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箱根駅伝は各区でコース条件が変わる。勝負どころの一つになるいろいろな「坂道」が選手の前に立ちはだかり、いくつものドラマが生まれてきた。そんな「坂」を中心に、各区を紹介する。
1区(21・3キロ) 勝負どころは「六郷橋」

スピードランナーがそろう1区は都心のビル街を抜ける平坦なコースで走りやすく、集団からどこで飛び出すかの駆け引き、戦略が重要となる。
勝負どころの「坂」は18キロ付近、東京都と神奈川県の県境の多摩川にかかる六郷橋か。橋の手前の上りか、橋を渡り終わっての下りがスパートのタイミングだ。ここから鶴見中継所までのスプリント勝負も見どころとなる。専門家いわく「区間賞を取れればいいが、まずは出遅れないこと」が肝要の区間だ。
2区(23・1キロ) 「権太坂」を越えた先にもう一つの坂
各校のエースが顔をそろえる「花の2区」は序盤の流れを作る重要な区間で、ごぼう抜きの記録も生まれやすい。

駅伝ファンにおなじみの「権太坂」は、13キロ過ぎから約1・5キロを標高差で20メートルほど上る。坂の名前の由来には諸説あるが、江戸時代後期に編まれた「新編武蔵風土記稿」には「旅人に坂の名前を聞かれた老人が、自分の名前を聞かれたと思い『権太』と答えたため」とある。(横浜市教育委員会)。
だが、本来の「権太坂」とは、駅伝コースの国道1号線よりもやや北側を通る旧東海道の道幅の狭い坂のことだ。道路脇には、権太坂改修記念の石碑や、自動車専用道をまたぐ「権太坂陸橋」の名前を見ることができる。
権太坂を攻略しても、気が抜けない。本当の試練はその先にあるからだ。20キロ付近から戸塚中継所までの3キロの坂はアップダウンしながら高低差40メートルを上り、特にラスト800メートルの急な上りでとどめを刺される。


1991年の第67回、早稲田大の1年生、櫛部静二選手(現・城西大監督)が中継所まであと300メートルの場所で失速してふらふらになる、衝撃のシーンがあった場所だ。ハイペースで最初から飛ばしていくスピード区間だけに、最後の3キロをしっかり上れた選手が真のエースの称号を手にする。
3区(21・4キロ) 前半の緩やかな坂、足の負担がポイント

タスキを受けて、前半の10キロは緩やかな下り坂が続く。スピードがかなり出るので足への負担も見た目以上にある。茅ヶ崎市に入り、市街地を抜けて海岸線に出ると富士山を正面に、相模湾を左に望む平坦なコースだが、風が強いと一気に難易度が上がるし、晴れていれば強い日差しがランナーを苦しめる。素晴らしい景色を楽しむ余裕があるかどうか。
下ってから平坦というコースは、かつては「つなぎ」の区間とも言われ、経験の浅い1年生が起用されたものだが、最近はそんなことはない。カギとなる前半の長い下り坂でペースをコントロールしないと、後半が苦しくなる。
4区(20・9キロ) 10の橋を越える、クロカン風コース

10か所の橋を渡るので小刻みなアップダウンが続く複雑なコース。さながらクロスカントリーを走っているかのようだ。残り3キロあたりから気温が下がり始め、1キロを切ると箱根の山に続く上り坂が始まる。
5区の山上りに少しでも有利につなぐためにタイムを稼ぎたいが、疲労が蓄積しやすい複雑なアップダウンをリズム良く走り、最後のスパートにつなげられるかどうか。
4年前から距離が2・4キロ延び、5区が短縮された。最後に坂が続くことになり、新たな勝負どころとなっている。
5区(20・8キロ) 「神」が生まれる究極の上り

言わずと知れた箱根の山上り。小田原中継所でタスキを受けたランナーは前傾姿勢で路面を黙々と踏みしめながら、曲がりくねった急な坂道を標高874メートルの最高点まで一気に駆け上がる。
コースのタフさに加え、山を上るにつれて気温は低くなっていく。オーバーペースは禁物で、コースの全体像を把握し、ペース配分するマネジメント能力が問われる。終盤の5キロ、芦ノ湖へ降りる、下りに適応した走り方の切り替えもポイントだ。
6区(20・8キロ) 誰もが言う「もう走れない」…身を削る下り坂

最初の約4キロは芦ノ湖畔からの上り。標高874メートルの最高点を過ぎると今度は10キロ以上、曲がりくねった急坂を下る。平均すると100メートルを16秒前半というハイペースで走り下りていくので、平地では考えられないような体への負荷がかかり、まさに身を削る闘いだ。残り3キロの箱根湯本駅あたりからは、緩やかな下り坂が小田原中継所まで続くが、ここで脚が止まって苦しむ選手も多い。
→6区経験者を取材した「箱根駅伝の「身を削る闘い」とは…山下りの6区を攻略せよ」の記事はこちら
7区(21・3キロ) 最初の緩やかな下り、飛ばしすぎると…

序盤は山からの冷たい風、後半は気温が上昇する時間帯で、最も気温差が激しくなりやすい区間だ。4区の逆で、後半は小刻みなアップダウンが続く複雑なコースだけにペース配分がレースのカギとなる。
最初は緩やかに下るが、ここで飛ばしすぎると後半のアップダウンで足が止まってしまう。大磯駅を過ぎた20キロ過ぎ、東海道をまたぐ大磯跨道橋を飛ばして上り切ることができれば、平塚中継所は目の前だ。
8区(21・4キロ) 難所は「遊行寺の上り坂」
前半は平坦な海岸線、後半は上りとなる。スタート後は海沿いの平坦な道がしばらく続くが、9キロ過ぎの浜須賀交差点(茅ヶ崎市)を左折して海に別れを告げるとやがて、9キロに及ぶ上りが待ち受ける。
特に15キロ付近で約700メートル続く遊行寺の上り坂(藤沢市)は箱根山中に次ぐ難所と言われ、選手の忍耐力が問われる。
さらに戸塚中継所手前にも最後の坂が待ち受ける。後半の坂で失速しないよう、前半のオーバーペースに気をつけたい。レースは終盤に差し掛かり、下位のチームにはそろそろ繰り上げスタートも気になるところだ。
9区(23・1キロ) 出発直後の急な下り坂、逆転も演出?

「花の2区」を逆走する9区にもエース級の選手が集まる。戸塚中継所を出発してすぐに3キロ余り続く急な下り坂に入るが、起伏の多い長丁場の区間だけに、最初でオーバーペースにならないよう、スピードをコントロールできる走りが要求される。
選手起用次第では数分の差をひっくり返す逆転劇も起こりうる区間。下位チームの繰り上げスタートを巡るドラマが繰り広げられてきた鶴見中継所でのタスキリレーまで目が離せない。
10区(23・0キロ) 銀座から日本橋を渡って、ビクトリーラン

いよいよ最終区。多摩川にかかる六郷橋を渡れば、あとはほぼ平坦なコース。終盤は、1区でたどったコースを逆走するのではなく、日比谷通りを馬場先門で右折して銀座から日本橋に回り込む。このため、区間距離は1区より1・7キロ長くなる。
例年なら沿道の大観衆に迎えられるビクトリーロード。往復217・1キロのレースは大詰めで、優勝争い、シード権争いはクライマックスを迎える。
(97回大会の公式プログラムなどを参考にしました)