[箱根駅伝]初シードの創価大、嶋津雄大が目の難病乗り越え区間新
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2、3日に行われた第96回箱根駅伝で、3度目の出場だった創価大が9位に入り、初めてのシード権を勝ち取った。11位でタスキを受けたアンカーの嶋津雄大(2年)が2人を抜き去り、10区新記録の快走。優勝争いに劣らない注目を集めるシード権争いの主役を演じてチームを躍進に導くとともに、目の持病にも打ち勝った。(塩見要次郎)

アンカーで2人抜き、足つりかけながら激走
シード圏内の10位まで、鶴見中継所では55秒の差があった。嶋津は、一心不乱に念じていた。「ピンチで勝つのが物語の主人公。緊張感と不安が襲ってきたが、それに勝ってこそ主人公。10位とかなり差があるけど、追うしかない」。最初から一気にスピードを上げた。
トラック種目の自己記録は1万メートルが29分15秒71で、ハーフマラソンは1時間4分16秒。チーム内では「ホープ」といった立ち位置で、エース格とまでは呼べない嶋津に、榎木和貴監督は「最初は抑えながら行こう」と後半勝負を見据えた指示を出していた。想定外のハイペースに、監督は「5000メートルの自己記録更新でも目指しているのか」と焦ったが、腹をくくって2年生の勇気と勢いに任せた。
そんな嶋津は、7キロ付近で早くもピンチに陥っていた。「左太ももがペキッときた」。にもかかわらず、スピードを落とさないまま、23.0キロの長丁場を駆け抜けた。まず、5年続けてシード権を確保してきた中央学院大を抜く。さらに終盤、優勝候補の一角に挙げられていた東洋大をも抜き去った。「いつ(左足を)つるのではと、怖かった。最後もつりかけながら走ったけど、走り切れた」
仲間が待つ大手町のゴールに飛び込んだ瞬間は、喜びだけでなく安堵(あんど)感もこみ上げてきた。タイムは1時間8分40秒。榎木監督の想定タイムより2分も速かったばかりか、2007年の83回大会で松瀬元太(順天堂大)が出した従来の区間記録を19秒更新した。
冬の集団走は参加できず、個人練習も体育館で

嶋津は大きなハンデを抱えた選手だ。網膜色素変性症という難病で、暗い所で物が見えにくい「夜盲(やもう)」という症状がある。
冬場、チームはロードでの集団走の練習を、夜明け前から始める。これには参加できないため、明るい照明をつけたトラックまでマネジャーに連れて行ってもらって走る。個人練習は、体育館の中の200メートルトラックで走り込む。そんな環境にも、本人は決して下を向かない。
「中学、高校では、一人寂しく短い廊下を行ったり来たりという練習だった。あの頃は、どうしても冬場にみんなよりも走行距離が落ちていた。でも、今は大学からのサポートがあるから、環境が整ったところで、みんなの協力を得て練習できている。ハンデと言えば、そうかもしれないけれども、むしろ精神力が養われている気がする」
たくさんの人々に支えられたランナーの、期待に応えようという強い思いが、爆発力を生み出した。困難を乗り越えての激走で、多くの箱根駅伝ファンの胸を打った。