箱根駅伝の頂点狙う明治大、ランナーの心に火をつけた指揮官の「挑発」とは?

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 100年前の第1回箱根駅伝に出場した4校の一つ、伝統校の明治大が、久々の王座奪還を射程に捉えている。箱根の前哨戦とも位置づけられる今月1日の全日本大学駅伝では、前回箱根王者の青山学院大を抑えて3位に躍進。好調の背景には、指導陣が主力選手にたびたび投げかけたキーワードがあった――。(西口大地)

全日本大学駅伝で、3位でゴールする明治大の鈴木聖人(11月1日、三重県伊勢市で)
全日本大学駅伝で、3位でゴールする明治大の鈴木聖人(11月1日、三重県伊勢市で)

7度優勝の古豪、しかし最後は1949年

 箱根で過去7度の総合優勝を誇る名門ながら、最後の優勝は1949年大会までさかのぼる。近年は浮き沈みが激しく、2015年世界選手権男子1万メートル代表の鎧坂哲哉(旭化成)を擁した12年大会で3位に入った一方、17年度は予選会敗退の屈辱を味わった。

 名門復活の期待を背負い、18年春に就任した山本佑樹監督(43)がまず着手したのは、チーム全体の意識改革だった。実業団の名門・旭化成で選手、コーチとして約16年を過ごした指揮官は言う。「強い集団というのは、下の選手も同じ意識を持っている。旭化成は全員がオリンピックを目指していた」。そんな経験則から、明大では選手全員に改めて箱根駅伝を目指す意識を求めた。

 駅伝メンバー入りへ「いかに個人種目の自己記録を縮めるか」という明確な目標を提示した。すると、下位層の選手も日々の練習や生活に対する姿勢が変わり、「何となく4年間を過ごす選手が減った」という。就任1年目の箱根こそ17位にとどまったものの、戦力の底上げは着実に進んだ。2年目の前回は10区間中8人が区間10位以内というミスのないレース運びで、6位に飛躍。5年ぶりのシード権を獲得した。

「エースは誰だ?」

 過去2年の取り組みに一定の手応えを得た山本監督が次に乗り出したのが「上をつり上げる作業」だ。

 今春、1万メートル27分台の自己記録を持ち、最後の箱根で故障明けながら7区で新記録の区間賞に輝いた阿部弘輝(住友電工)が卒業。新チームには1年目から主力を担う小袖英人(4年)、前回箱根で3区7位の手嶋杏丞、5区5位の鈴木聖人(ともに3年)、8区8位の櫛田佳希、2区10位の加藤大誠(ともに2年)ら、各学年にバランスよく核となる選手がそろう反面、指揮官は「いい選手はいるけど、小粒な感じ。大エースがいるといないでは(レース展開への影響力が)大きく違う」と分析していた。

 そこで、次代のエース候補たちの競争心をあおるため、あえて挑発的な言葉を投げかけた。「明治のエースは誰だって聞いたら、去年は誰に聞いても阿部だと言った。でも今年は、人それぞれ答えが違うぞ」

 エースは誰だ――。そんなことを言われたら、選手も黙ってはいられない。「監督だけじゃなく、コーチ、いろんな方から『今年はエースがいないぞ』と言われているので、自分がエースになってやろうという気持ちでやっている」と小袖が言えば、手嶋も「走りだけでなく人間性も含めて、阿部さんのような大エースになりたいという思いが人一倍ある」と、かつて寮で同部屋だった先輩の背中を追う姿勢を示す。

 主力選手たちが先頭に立って引っ張ろうと激しく競り合う練習の光景が日常となった。監督の思惑通り、主力がグッと力を伸ばした。

コロナ禍対策のレースで成果、全日本で3位躍進

トラックゲームズの5000メートルを制した小袖の走り(10月11日、埼玉県所沢市で)
トラックゲームズの5000メートルを制した小袖の走り(10月11日、埼玉県所沢市で)

 競争の成果はまず、二つの対校戦で形になった。

 対校戦はいずれも、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった出雲駅伝の代替試合として、箱根シード校有志が10月に集まって実施したもので、明大は両方に参加した。両方とも5000メートルと1万メートルのレースがあり、各校が出場選手の合計タイムで競う形式だった。

 駒大や国学院大などと対戦した「多摩川5大学対校長距離競技会」。明大は5000メートルで、3位に入った加藤を筆頭に、出場4選手全員が13分台をマークした。1万メートルでも小袖が28分50秒03で4位に食い込むなどし、堂々の総合優勝を果たした。翌週は、早稲田大や東洋大など4校で対戦した「トラックゲームズ in Tokorozawa」。総合優勝こそ、1万メートルを制した早大に譲ったものの、4秒差の2位に入って「明大強し」を印象づけた。5000メートルでは小袖が優勝を飾った。

 そして、迎えた全日本大学駅伝。1区でルーキー児玉真輝が5位と好発進すると、2区の小袖は前半で一時トップに立つ積極的な走りを見せ、3人抜きの区間4位で2位に浮上した。3区の手嶋は対校戦後、課題のスタミナ強化のために走り込みを重ねた反動で調子を崩したが、前日急きょ山本監督から起用を告げられ、「強い気持ちで走った」と区間7位で2位をキープ。「1~3区で上位に」という指揮官の期待に応えると、後続の走者も全員が区間8位以内にまとめ、チームは過去最高の2位(2014年)に次ぐ3位に食い込んだ。

 レース後の記者会見で、山本監督は「選手には5位以内ということを言っていたが、あわよくば3強を崩したいという思いがあった。その通りの結果を選手が出してくれて、素直に非常にうれしい」と喜んだ。そして、箱根に向けて「もう優勝を狙うチーム。僕が先陣を切って、そういう発言をしていかなければいけない」と意を決し、こう力強く宣言した。

 「往路優勝をまず狙って、総合優勝に結びつけられたらなと思っています」

箱根路で「爆発力ある走り」を

 全日本では従来の主力だけでなく、箱根未経験の大保海士(4年)も6区2位と好走した。さらに、今回は補欠に回った富田峻平、漆畑瑠人(ともに2年)が3日後の記録会で、それぞれ13分41秒74、13分41秒87の好記録をマーク。山本監督が「上に対する要求を強くしていって、それに反応している。そうすると、自然と下も引きあがって土台作りができる」とにらんだ通り、チームの総合力は一段と高まっている。

 指揮官は「パンチ力、爆発力がある走りというのが、駅伝で優勝するには必要となる」とも指摘する。「エースが1人じゃなくて、5人ぐらいエース級が出てくればいい」と上位層のさらなる成長に期待をかける。各校のエース級が集う全日本8区で5位と力走した鈴木も「それぞれが切磋琢磨(せっさたくま)し、自分がエースだという存在感を出していきたい」と話している。

 箱根本番まで残り2か月を切った。チームの「主役」を巡るバトルをさらに加速させた先に、72年ぶりの頂点が見えてくる。

2020年1月3日の箱根駅伝、平塚中継所。明大7区の阿部弘輝(左)が区間新記録で8区の櫛田佳希にタスキをつなぐ
2020年1月3日の箱根駅伝、平塚中継所。明大7区の阿部弘輝(左)が区間新記録で8区の櫛田佳希にタスキをつなぐ
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1621681 0 ニュース 2020/11/13 06:00:00 2020/11/13 11:20:31 2020/11/13 11:20:31 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201112-OYT1I50061-T.jpg?type=thumbnail

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