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箱根駅伝の「身を削る闘い」とは…山下りの6区を攻略せよ

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 「山を制する者は箱根を制する」と言われる。厳しいのは、地面を一歩ずつ踏みしめて修行僧のような忍耐力で急坂を上る5区の山登りだけではない。そのコースを逆に高速で駆け下りていく6区は、平地では考えられないような体への負荷がかかる、まさに身を削る闘いだ。1年前の前回大会で山を下り、現在は社会人ランナーとして活躍する5人の箱根OBとスポーツドクターへの取材から、まだまだ知られざる「特殊区間」6区の攻略法を探った。(敬称略、編集委員・千葉直樹)

6区屈指の急な下り坂には「急こう配」をドライバーに警告する看板も(上写真)96回大会、小田原中継所でたすきリレー後に倒れこむ館沢亨次(東海大)(下写真)
6区屈指の急な下り坂には「急こう配」をドライバーに警告する看板も(上写真)96回大会、小田原中継所でたすきリレー後に倒れこむ館沢亨次(東海大)(下写真)

どんなフォームがいいのか

 6区は、全長20・8キロ。まずは、芦ノ湖畔から約4・5キロを標高874メートルの最高点まで上る。そこから短いアップダウンを挟み、今度は一気に下る。17・8キロ地点の箱根湯本駅あたりからは、緩やかな下り坂が小田原中継所(標高約35メートル)まで約3キロ続くというコース設定だ。そもそも山下りの走り方とはどういうものなのか。

館沢亨次 脚を車輪のように回転させてすーっと走る。ストライドよりもピッチ走法で。一歩一歩にあまり体重をかけないほうが、ダメージは少ない。前に倒れる手前で脚が勝手に出るというイメージ。

今西駿介 着地でつま先とか、かかととかではなく、足裏全体をフラットにつける。そして体の重心を前傾させる。自分の場合、崖の斜面を下っているような感じだった。

坪井 慧 山に下らされているのではなく、自分で山を下る。下りでは体がのけぞりがちで、歩幅が小さくなるとタイムに影響する。「自分で下る」とは、しっかりと前に重心を保ち、次の脚を早めに置いて、次に次に、と自分が浮いているみたいな感覚がいい。

中村大成 脚をぐるぐる回すように、すぐに前にもってくるイメージ。疲れてくると重心が後ろにいき、ブレーキがかかる。

「僕の山下りの理想は小野田さんの走り方でした」(左写真)94回大会、6区で小野田勇次(青学大)と競り合う今西駿介(右)。小野田の走りに思わず「人間じゃねえ」と発した言葉が話題になった。
「僕の山下りの理想は小野田さんの走り方でした」(左写真)94回大会、6区で小野田勇次(青学大)と競り合う今西駿介(右)。小野田の走りに思わず「人間じゃねえ」と発した言葉が話題になった。

 下り坂では、前傾姿勢で脚を早く回すことが大事なようだ。ハイスピードで「転げ落ちる」感覚になり、最初は恐怖感もあるという。こうした場合、人間の体にはどんな影響があるのだろうか。

 整形外科専門医で、スポーツドクターの大関信武・東京医科歯科大学再生医療研究センター助教は、こう解説する。「着地の衝撃を吸収するためには、筋肉に力が入ったまま伸びる「遠心性(えんしんせい)収縮」が太もも前の大腿四頭筋(だいたいしとうきん)に生じ、下り坂で重心が後ろになってしまうと、この負荷が大きくなります。だが、ランナーは斜面に対して垂直に立つイメージで、落ちていくように走ることで、加速度的にスピードが上がり、ももの筋肉への負担は減る一方で、関節や骨などにかかる負担は大きくなります。ランニング時に地面から受ける反力(はんりょく)は、静かに立っている時の4~6倍と言われており、下り坂ではさらに大きな負荷が加わるため、これに耐える体を作るために日頃から体幹や骨盤、股関節の強化トレーニングが大事です」

コース取り 急がば回れ?

「下り坂はこんな姿勢で」(左写真)95回大会、小田原中継所でたすきをつなぐ坪井慧(法大)(右写真)
「下り坂はこんな姿勢で」(左写真)95回大会、小田原中継所でたすきをつなぐ坪井慧(法大)(右写真)

 箱根の下りは、左右にカーブする細い急坂が特徴で、タイムロスを防ぐためにもカーブでのコース取りが重要になる。最短のインコースを、スピードを落とさずに走れれば理想だ。滑る危険のある白線やマンホール、1か所だけある踏切の通過時などは注意が必要だ。

島貫温太 最短コースのインに入ることだけを意識した。カーブでは白線を踏まないギリギリのところを走っていた。

坪井 ちょっとのオーバーランで1秒2秒はすぐ変わる。

 ただし、「インコース主義」にはリスクが伴うとの指摘もある。カーブ走行時には、脚への負担がさらに増すからだ。大関ドクターによれば、カーブの内側を通る足は、アーチがつぶれるような状態になりがちで、下腿の筋肉や、太ももの外側からひざ下につながる「腸脛靱帯(ちょうけいじんたい)」への負担が増す。下り坂なら、なおさらだという。

館沢 インコースを切るように曲がろうとすると、脚に負担がかかる。カーブの外側を使って、曲がって加速できるように。減速はせずに、ふわっと膨らんで加速、というイメージ。

今西 最短距離を走りすぎると脚への負担が大きくなる。スピードは落とさずに、なるべく外側を行って衝撃を抑える。

 急がば少し回れ、が良いようだ。

下りよりも重要なポイントは

「6区を走った選手はその後の世界で活躍しにくいというイメージを自分の走りで覆したい」(左写真=富士通提供)95回大会、6区の芦ノ湖をスタートする中村大成(駒大)(右写真)
「6区を走った選手はその後の世界で活躍しにくいというイメージを自分の走りで覆したい」(左写真=富士通提供)95回大会、6区の芦ノ湖をスタートする中村大成(駒大)(右写真)

 「下りの6区」と言われるが、今回、多くの選手が、6区のキーは下り坂の区間よりもほかの場所にある、と話した。最初の関門は、序盤の上りだ。前回大会で区間賞を塗り替えた館沢は、5キロ付近の芦之湯でスタート時に3分22秒あったトップの青山学院大との差を45秒も縮めた。

館沢 序盤は予定よりも(記録を確かめたら)30秒早く入っていた。「これ、後半の体力がもたないんじゃないかな」と(走行中に)ちょっと焦った。でもここまで来たら行くしかないと。6区全体で考えれば、下りだけでは大差はつかない。前半の上りでどれだけ攻められるかが重要。

今西 入りの4キロは力の8割を使うイメージ。全力を出し切るぐらいの気持ちで行くのがいい。上りで自重すると精神的に影響するので、最初を勢いよく行った方が流れに乗れる。

中村 最初の上りは、高速化した6区で最も差がつくポイント。全力で上ってくるイメージ。

 そして、もう一つの重要なポイントは、終盤にあるという。

平坦なのに脚が動かない

「6区はスピード自慢が多くてフォームのきれいな選手も多い」(左写真)95回大会、芦ノ湖をスタートする島貫温太(帝京大)(右写真)
「6区はスピード自慢が多くてフォームのきれいな選手も多い」(左写真)95回大会、芦ノ湖をスタートする島貫温太(帝京大)(右写真)

 急坂を下りきった箱根湯本駅あたりから小田原中継所までの残り3キロ。緩やかな下り道なのに、まるで上っているかのような感覚に襲われ、脚が止まって苦しむ選手も多いという。

坪井 最後の3キロは正直、上っているのかと思うくらいきつかった。気持ちは前にいっているけど、脚がガクガクで全然ついてこない。

中村 ハーフマラソンの後半はただでさえ脚が動かないが、10キロ下ってきたあのポイントでは筋肉疲労で脚が動かなかった。ウェートトレーニング後の感覚に似ていた。

今西 脚が前に出ている感覚がないので、もも上げをしているようなイメージ。無理やり脚を前に出す。中継所までずっと、脚の感覚が半分マヒしていて、ペースを上げる余裕はなかった。

 似たような場所は、それ以前にもある。9キロの小涌園のカーブを曲がる手前の直線部と、12キロの宮ノ下温泉街のあたり。ともに急坂の後に傾斜が緩くなる場所でスピード感がなくなり、選手を苦しめるという。

 大関ドクターは、このように分析する。「急な下りでは前傾姿勢で、脚を振り上げなくても加速度が出るので、体を前に進める腸腰筋(ちょうようきん)や、太もも裏側の筋肉であるハムストリングスはそれほど必要ではなかった。緩やかになった時、さっきまでのスピードは出ないので、前に進む筋肉を使わなければいけないが、体にはまだまだ下り坂の感覚が残っていて、そのギャップで脚が振り上がってこないのだと思います」

上りから下りへの切り替え

 5区もそうだが、本格的な上りと下りがある6区では、その切り替えも大事になる。スタートして4・5キロの最高点の先、本格的な下りが始まるまでの間に短いアップダウン区間がある。長い下りに向けて、エンジンの回転を上げておきたい場所だ。

坪井 上ったところで一息つきたくなるが、ここでいかにリズムを切り替えるか。ピッチを上げておけば、脚が回って下りに入りやすくなる。

島貫 どうしても上りで動きが悪くなってしまうので、ピッチを速めて、良い動きに変えられるかどうかがポイント。

6区を走った意味とは

「ちょっと異常だったと思います、あのタイムは」と1年前を振り返る(左写真)96回大会、区間新記録の快走で小田原中継所に駆け込んだ館沢亨次(東海大)(右写真)
「ちょっと異常だったと思います、あのタイムは」と1年前を振り返る(左写真)96回大会、区間新記録の快走で小田原中継所に駆け込んだ館沢亨次(東海大)(右写真)

 箱根駅伝で6区を走ったOBからは、世界の舞台で活躍する選手も出ている。

 日体大で57回大会から3年連続で6区を走った谷口浩美は、1991年世界陸上の男子マラソン優勝し、92年バルセロナ五輪では「こけちゃいました」のフレーズとともに8位入賞の成績を残した。前回96回大会で区間新記録を出した館沢が、スピードランナーとしてさらなる進化を示しているのも頼もしい。10月の陸上・日本選手権で男子1500メートルを制し、五輪出場を狙っている。

 そんな館沢ら前回6区を走ったランナーたちに、改めて尋ねてみた。「山下り」の試練を通じて感じたことや得た収穫とは、あなたにとって何だったのだろう?

坪井 6区のなかで一番早いラップだけ足したら、5000メートルが12分半(ほぼ世界最高記録)。こんなスピードを経験できたことは良かった。6区を走った後は平地でも結果が出てくるようになった。

中村 6区は重心移動がものをいう区間なので、その技術は磨かれたと思う。

今西 体がいうことをきかず、脚が止まるような状態を経験できた。日頃、走っていて苦しくなっても、6区の経験を思い出して冷静に自分の体と対話できていると思う。

島貫 大学で駅伝をやると決めた時、山にあこがれがあった。上りよりは下りかなと思った。6区はスピード自慢が多くて、フォームのきれいな選手も多い。自信をもっている人が多い。

館沢 4年間、毎年違う区間を走り、1年生で5区、4年生は6区だった。どちらもきつかった。5区はゴールできないかと本気で思ったが、6区は苦しくても(下りで)その意思に関係なく体が勝手に動かされるので、上りとは違った苦しさがある。

 5区で4年連続区間賞を取るなど、東洋大時代に「山の神」と呼ばれた柏原竜二(富士通・企業スポーツ推進室勤務)をして「あれだけ足が血まみれになって、爪がはがれて、歩けなくなって、『もう無理』と言ってるのに、なぜ6区をやりたいと思うのでしょうか」と言わしめる山下り。「花の2区」、「山登りの5区」など箱根駅伝のハイライトは数々あるが、今回は各校のランナーが身を削る思いで挑む下りの6区にも注目したい。

96回大会 6区プレーバック

 往路で3年ぶりに優勝した青山学院大の谷野航平が午前8時、芦ノ湖畔から走り出した。3分22秒差の4位でスタートした東海大・館沢亨次は、直後に3位へ上がると、9キロ地点でトップとの差を2分24秒まで詰めた。終盤は、かかとにできた血まめの激痛とも戦いながら、2位の国学院大に肉薄。前年に小野田勇次(青山学院大)がマークした57分57秒を40秒も更新する区間新記録の快走をみせた。もう一人、従来の区間記録をしのぐタイムを出したのが、東洋大の今西駿介だ。11位スタートから順位を4つ上げ、3年連続で山下りを任されたスペシャリストらしい活躍だった。

 青学大の谷野は東海大など後続のプレッシャーを受けながらも、下り坂では差をほとんど縮めさせなかった。首位を守ったまま小田原中継所に飛び込み、区間3位の58分18秒という好走でチームの総合優勝に貢献した。区間1~3位の好記録だけでなく、島貫温太(帝京大)まで13人ものランナーが1時間を切った。高反発をうたう厚底シューズの出現もあって記録ラッシュとなった前回大会では6区もまた、高速化の波にさらされた。

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1727437 0 ニュース 2020/12/25 11:00:00 2021/01/08 11:20:41 2021/01/08 11:20:41 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201224-OYT1I50044-T.jpg?type=thumbnail

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