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トラックシーズンを迎える春は、フレッシュマンの季節。昨季は順大の三浦龍司、中大の吉居大和ら1年生の活躍が目立ったが、今季も期待の逸材たちが大志を抱いて新生活をスタートさせた。(編集委員 近藤雄二)

1年生トップ、理想の場所で夢を追う
きら星のごとく粒ぞろいの新人で、まず紹介したいのが群馬・東農大二高から東洋大へ進んだ石田洸介だ。
昨年、大学でもトップ級と言える5000メートル13分34秒74の高校記録をマーク。福岡・浅川中時代には1500、3000、5000メートルの3種目で中学記録を作り、世代ナンバーワンとして君臨してきた。
そんな俊英が東洋大を選んだのは「大学で世界へ挑戦したかったから」。OBでは、在学時に世界を意識した服部勇馬(トヨタ自動車)がマラソンで、相沢晃(旭化成)が1万メートルで東京五輪代表に内定している。だから、酒井俊幸監督の指導を仰ぐことが「目標をかなえられる理想の場所だと思った」と、迷いがない。
2024年パリ五輪は4年目に重なり「東洋大からはこれまで短距離や競歩で現役学生が五輪切符をつかんでいますが、長距離でも学生オリンピアンを出したい酒井監督の目標と、自分の目標がぴたりとあったんです」。当然のように五輪を見据える姿に、世代トップの誇りと覚悟がにじむ。
ただ、「高校1年では目標を高く設定しすぎ、苦しい1年にしてしまった。まずは、けがをせず下地を作りたい」と、じっくりと力を蓄えるつもりだ。その新生活。体育会の上下関係などに不安はないのだろうか。
「先輩はやっぱり優しくて、下級生に対してすごく配慮していただいてます」
34年前、記者が早大競走部(陸上部をこう呼ぶ)の新人時代は、グラウンド整備中に私語をしたり、幹線道路の反対側の先輩に気づかず素通りしたり、路上での歩き食いが見つかったりしたら、お目付け役の2年生にこっぴどく怒られたものだが、時代は変わった。
44歳の酒井監督は言う。
「今は上下関係より、新入生に寄り添い、学生たちが自ら考え、社会に適応できるような環境を作ろうと変わりました。成長への努力を互いに尊重できるチームにしようと、学生たちとはいつも話しています」
規律より自律。一人一人がリーダーシップを発揮することをテーマとするチームで、大器が夢見るものは。
「先輩たちには積極的にチャレンジして刺激を与えたい。そして、3年後の箱根駅伝100回大会で酒井監督を胴上げして、パリ五輪出場を目指したい」。理想の環境に身を置き、意欲も熱く燃えている。
鶴川、若林…期待のルーキー続々、盤石の青山学院大

世代トップの石田が東洋大を選んだ中、盤石の補強を遂げたのが青学大だ。昨年12月の全国高校駅伝で1区区間賞の鶴川正也(熊本・九州学院高)、3位の若林宏樹(京都・洛南高)、8位の喜多村慧(兵庫・須磨学園高)、10位の太田蒼生(福岡・大牟田高)らが一挙に入学した。
10日に熊本市で行われた5000メートルレースでは、若林が13分41秒32、鶴川が13分43秒96と、いきなり自己記録をマーク。若林が「寮生活は楽しいけど大学では自己管理をしないといけない。その中でベストが出せたのは自信になります」と笑顔で答えれば、鶴川は「若林に負けて悔しい。チーム内でも外でも勝負にこだわり、大学3大駅伝で区間賞を取りたい」と負けん気むき出しに決意表明した。
新生活の中、既に磨き合いを始めた各校のルーキーたち。山も谷もある4年間を通じ、どんな高みへ駆け上っていくのだろう。

筆者プロフィル
近藤雄二(こんどう・ゆうじ)1968年生まれ。早大時代に箱根駅伝3度出場。2019年にフルマラソンで2時間44分16秒をマーク。