東京オリンピック最終選考会を途中棄権、だがルーキーはうつむかない…東洋大・石田洸介

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 陸上男子5000メートルの日本高校記録をひっさげて東洋大に入った注目のルーキー・石田洸介(18)が読売新聞のインタビューに応じた。大学デビュー戦だった6月の日本選手権を途中棄権した背景や、箱根駅伝など今季後半の駅伝シーズンにかける決意、将来の五輪挑戦への思いを語った。(西口大地)

日本選手権の男子5000メートルを走る東洋大・石田洸介(右)
日本選手権の男子5000メートルを走る東洋大・石田洸介(右)

「スタートラインできっと感じるものがあるから走った」

 東京五輪代表最終選考会を兼ねた、6月24日の日本選手権男子5000メートル。スタートラインに立つ石田の顔に、緊張の色は見られなかった。大会1週間前に右足が痛み出し、いったん練習をストップしていた。再び走り始めたのは、わずか2日前。「失うものは何もない」と開き直っていた。

 ぎりぎりまで出場するか否かを迷った中、決断の決め手となったのは、東洋大から日本代表へ飛躍を遂げた先輩たちの足跡だった。

 東京五輪男子マラソン代表の服部勇馬(トヨタ自動車)は5年前、リオデジャネイロ五輪代表選考会の東京マラソンに大学4年で出走した。終盤まで日本人トップに立ちながら、ゴール目前の急失速で落選。その屈辱をバネに、一昨年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では終盤、粘りをみせた。2位に食い込んで今回の五輪代表切符を手にした。

 服部に限らず、日の丸をつけたOBたちは、東洋大在学中から代表選考会に本気で挑戦してきた。それがチームの伝統だと、酒井俊幸監督から常々伝えられてきた。だから、石田は腹を決めた。「自国開催の五輪代表選考会という、本当に限られた人しか立てない場所。スタートラインに立つことで、きっと感じるものがある」

 号砲とともに、トップ選手たちは五輪参加標準記録(13分13秒50)突破を目指してハイペースで飛ばした。それを遠目に、縦長になった集団の最後尾に食らいつくのが、この日の石田には精いっぱいだった。2000メートル付近で、集団から完全に遅れる。ちょうど3000メートルでレースを棄権したのは、監督と事前に想定した通りだった。

 そのまま一人、石田はゴール付近に残り、レースの行方を見届けた。優勝しながらも参加標準記録に届かなかった遠藤日向(住友電工)は、トラックに突っ伏していた。一方、2位だった松枝博輝(富士通)は世界ランキングによる五輪出場資格の獲得を確実にし、歓喜の雄たけびをあげていた。両者の明暗を、間近で目に焼きつけた。

 「本気で五輪を目指した人たちにしか分からない喜びと悔しさが、あの場に表れていた。これを肌で感じられた経験は、自分が目指す時に必ず生きる」

 不完全燃焼の失意を上回る、かけがえのない財産を持ち帰った。

半年のブランク

 石田は群馬・東農大二高3年だった2020年度、7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会で男子5000メートルを13分36秒89で走り、16年ぶりの高校新記録をマークした。さらに9月の記録会で、13分34秒74まで記録を伸ばした。しかし、10月末の群馬県高校駅伝以降、調子は下降線をたどる。

 12月、個人とチームそれぞれの大一番が、約2週間の短いレース間隔で予定されていた。月の初めに日本選手権の5000メートル、20日に全国高校駅伝。これらの2レースに向け、トラックの速さとロードでのスタミナの両方を追い求める練習を模索したが……。

 「二つを追い求める難しさを感じていたし、今振り返ると、体は無理をしていたと思う」

 最終的に、20年度の日本選手権は直前で回避し、全国高校駅伝一本に絞った。エース区間の1区を担い、スタート直後から1人飛び出す果敢な走りを見せる。だが中盤で急失速し、14位に沈んだ。間もなく、左足の足底付近を痛めた。本格的な練習再開は、東洋大の寮に入る3月末まで待たざるを得なかった。

 そういうわけで、20年末の全国高校駅伝から21年度の日本選手権まで、石田は半年ほどレースから遠ざかっていた。

全国高校駅伝の1区で力走する東農大二高時代の石田(2020年12月)
全国高校駅伝の1区で力走する東農大二高時代の石田(2020年12月)

高校時代に立ち直った経験

 東洋大入学後もなかなか調子が上向かない中、5月の関東学生対校選手権などで、他校のルーキーたちは続々と存在感を示していた。普通ならば、焦りを覚えてもおかしくない状況になった。だが、石田は、自らにこう言い聞かせていた。「他の選手の結果に左右されず、まずは自分をしっかり見つめ直す」と。

 福岡・浅川中時代、1500メートルと3000メートルで中学記録を打ちたてた。飛躍を求めて地元を離れ、東農大二高に進んだが、1、2年時に記録や大会の成績が伸び悩む。同世代にも、次々と追い越された。「他人を気にしすぎてしまったから、ダメだった」と、当時を振り返る。

 この苦しい時期から立ち直り、3年の夏に男子5000メートルの高校記録を塗り替えるまでに成長した経験を持っている。だから「自分に集中し、ここでどれだけ頑張れるかが、未来に結果を残すため(の足がかり)になる」と確信している。

 東洋大には今、トラックの記録で他校の選手に劣っても、駅伝では力を発揮する先輩たちがいる。その姿を観察して「練習から諦めない気持ちが強く、生活面もしっかりしている選手が多い」と見習っている。さらに、共に活動する競歩の選手たちが取り組む「動き作り」なども、自身の走りを磨くために取り入れている。「発見がすごく増えた。新しい自分を作っていけるんじゃないかと思う」。成長のヒントを、貪欲に吸収する日々だ。

「3大駅伝優勝に貢献したい」

 石田は、約半年ぶりの実戦だった21年度の日本選手権後、スッキリした表情を浮かべていた。「ずっと、練習しながらモヤモヤするところがあったけど、ようやく一歩を踏み出せた。夏を越えてからが勝負だと思う。しっかり継続して練習を積む」。そして、秋以降の駅伝シーズンを見据えて、こう宣言する。

 「1年目からしっかりメンバーとして走り、チームの『3大駅伝優勝』という目標に貢献したい」

 雌伏の時を乗り越え、再び大きく羽ばたく日がくると信じ、地道に鍛錬を積み重ねている。

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