箱根駅伝
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風がぬるみ、花々が道端を飾りだすと、陸上競技はトラックシーズンを迎える。その幕開けのレースで、東京オリンピック後の世界を見据える学生ランナーが、進化の息吹を感じさせた。春真っ盛りの熊本に中長距離界のトップランナーたちが集まった、4月9日の金栗記念選抜中長距離大会。日本マラソン界の父、そして、箱根駅伝の生みの親でもある

日本記録にあと1秒17、金栗記念選抜を制覇
東京五輪3000メートル障害で7位入賞を果たした三浦が登場したのは、本職ではない1500メートル。しかし、世界を見つめる二十歳のスピードは、専門外の中距離でも威力十分にアップデートされていた。
ラスト400メートル。鐘とともにトップへ出たのは、昨年の日本選手権5000メートル王者で、1500メートルでも日本選手権2位の実績がある遠藤
ダイナミックな腕振りと、大きなストライドでコーナーを抜けると、残り100メートルで約5メートル差。さすがに届かないかと思った瞬間、さらにもう一段ギアを上げた。逃げる遠藤との差をグングン狭め、測ったようにゴール目前で抜き去った。
3分36秒59。自己記録を9秒70更新し、日本記録へあと1秒17の歴代2位。今夏の世界選手権参加標準記録3分35秒00も目前の快記録に「展開が読めない不安の中、最後ギリギリ抜けたのは良かった。記録は見て驚いた」と声を弾ませた。

「まだまだ」引き締める順天堂大・長門監督
教え子を1500メートルに挑ませた長門俊介監督には、明確な狙いがあった。スピード強化はもちろん「何よりレースで、もまれる経験を積ませたかった」。専門の3000メートル障害では国内に敵なし。どうしても先行、逃げ切りの展開ばかりとなる。東京五輪の決勝でも途中で意図せず先頭に出てしまうなど、経験不足がレース運びに出ていただけに、「レベルの高いレースに放り込み、周りを囲まれないポジション取りや、抜け出す感覚を養わせたかった」。
そこで見せた鮮やかなスパートだったが、長門監督は「遠藤君を1度逃がした、ああいうところがまだまだ。海外勢ならギュッとつかないと、許してくれないミスになる」と引き締める。
三浦も専門外での収穫を喜びつつ「世界と戦うには、まだまだトップスピードを磨かないといけない。これを弾みに目標の7分台が見えるようにしたい」。3000メートル障害の自己記録8分9秒92を塗り替える7分台という高いハードル、そして世界選手権での勝負を、しっかりと見据えた。4月中には5000メートルにも挑戦する予定で、そちらでも快記録が期待できそうだ。
筆者プロフィル

近藤雄二 (こんどう・ゆうじ)1968年生まれ。早大時代に箱根駅伝3度出場。2022年東京マラソンで2時間48分11秒をマーク。