完了しました
トヨタ自動車のスポーツカー「GRヤリス」は、プロドライバーと技術者たちの二人三脚によって開発された。電気自動車(EV)や自動運転など次世代技術の波が押し寄せる中、「走る楽しさ」にこだわったスポーツカーとして存在感を増している。(佐野寛貴)

単独開発
トヨタが近年に発売したスポーツカーでは、2012年の「86(ハチロク)」が富士重工業(現SUBARU)と、19年の「スープラ」が独BMWとの共同開発だった。トヨタが単独開発で販売するのは、「セリカGT―FOUR」以来、約20年ぶり。昨年9月に発売され、月1100台の販売目標を掲げている。

試乗のために運転席に座ると、深く体を包み込むような感触だ。意外にも小回りが利くため、曲がりくねった山道もストレスを感じず、車と一体となったような快適な走りだった。続いて、テストドライバーである豊岡悟志氏にハンドルを握ってもらった。
「ちょっと加速しますね」。豊岡氏がアクセルを踏み込むと、エンジンが甲高く

新開発のエンジンは排気量1・6リットルで、通常の「ヤリス」の2倍以上となる272馬力に達する。下山工場(愛知県みよし市)で熟練の職人らの手によって製造され、一つ一つに品質の高さを証明する「
スポーツカーには珍しい四輪駆動も特徴の一つ。車の曲がり方に影響するエンジントルクの前輪と後輪への配分比率は、「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3種類に切り替え可能で、路面状況やドライバーの好みに応じて選べる仕組みとなっている。
人と車の対話
GRヤリスは、プロドライバーと技術者が、レース走行を意識して開発した。サーキットのほか雪道、未舗装道路などあらゆる環境で走らせ、ドリフト走行など一般車では想定しない動きも試した。不具合を見つけ、修正を重ねるためだ。
重視したのは「ドライバーと車の対話」。ハンドルを切れば、思った通りの軌道で曲がる。アクセルやブレーキの踏み加減に、駆動系が素直に反応する――。ドライバーが感じた「違和感」を、一つずつ潰していった。豊田章男社長も、マスタードライバーとして当初から開発に携わったという。
スポーツカーとしては、ホンダの「シビック タイプR」やマツダの「ロードスター」などが人気を集める。一般車を製造する際の基準にこだわらず、ゼロから作り上げたGRヤリス。待望の独自開発車が、どこまで支持を集めるかが注目される。

ブランド力向上へ レースに力
モータースポーツチーム「TOYOTA GAZOO Racing(トヨタガズーレーシング)」を擁するトヨタ自動車は近年、レースへの参戦に力を入れる。過酷な競争で得た経験を車の乗り心地に還元し、ブランド力の向上につなげる狙いがある。
スポーツカーブランド「GR」は2017年に設立され、「スープラ」や「アクア」、「コペン」など、走行性能を高めた23車種を投入した。国内外で累計10万台以上を売り上げている。
トヨタは、長時間にわたる耐久レースや一般道を走行するラリーを「車と人を鍛える場」と位置づける。ハイブリッド車(HV)で参戦している仏ルマンの「24時間耐久レース」では18~20年に3連覇を達成。世界ラリー選手権(WRC)にも17年から復帰した。
GRヤリスも発売直後の昨年9月、富士スピードウェイで開催された「24時間耐久レース」に出場し、「モリゾウ」の愛称を持つ豊田社長もメンバーの一人としてハンドルを握った。約4500メートルのコース490周を走破して優勝し、門出を飾った。