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目指せ「公道最速」~ハイエースで全日本ラリーに参戦したチームから目が離せそうにない

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 自家用から商用まで、救急車やキャンピングカーのベース車としても重宝するトヨタ・ハイエース。車体が長く、背も高い大柄なこの車で、日本最高峰の自動車レース「全日本ラリー選手権」に挑戦するチームが現れました。初戦を終えたばかりのチーム関係者に、「世界初」というハイエースでの参戦理由や今後の計画を、モータースポーツファン歴30年の記者が取材しました。(読売新聞オンライン 長野浩一)

前代未聞の挑戦 ハイエースファンは大注目!

全日本ラリー選手権で疾走するハイエース(丸徳商会提供。以下同)
全日本ラリー選手権で疾走するハイエース(丸徳商会提供。以下同)

 ハイエースは1967年の発売以来、世界150か国・地域で累計約650万台も販売された人気車種です。街中で見かける「働く車」の代表格と言ってよいでしょう。

 今年3月、そのハイエースで全日本ラリー選手権に参戦するチームがいるというニュースが飛び込んできました。発表したのは、自動車部品販売「丸徳商会」(埼玉県)と、部品の開発・製造を手掛ける「サンコーワークス」(千葉県)です。両社は、走行中に路面からの衝撃を吸収するための「ダンパー」と呼ばれる部品などを製造・販売する中小企業です。両社が手を取り合い、チーム「キャスト・レーシング」を結成、2台のハイエースとともに今シーズンの全日本ラリー選手権に挑戦するというのです。

 海外に目をこらせば、砂漠やガレ場を走るクロスカントリー・ラリー「ダカールラリー」に、三菱のワゴン車「デリカD:5」が出場したことがありました。でも、コーナーが続くスプリント(短距離)系のラリーに、ハイエースのような屋根の高い車が挑戦するなんて前代未聞です。カーブで横転しないようにギリギリまで重心を低くする必要があるため、ベース車の候補にすらならないからです。

 なんにせよ、中小企業が母体のチームが選んだベース車は、競技の主役とは言えないハイエース。TVドラマ「下町ロケット」のようなワクワク感を感じたラリーファンは少なくありませんでした。

乗り心地を改善するための究極の実地検証

足回り以外はほぼベース車両のまま
足回り以外はほぼベース車両のまま

 4月9~11日、佐賀県唐津市で行われた全日本ラリー選手権第3戦「ツール・ド・九州2021in唐津」は、雲一つない快晴の下、完全閉鎖した公道をコースとして開催されました。

 レースは排気量の違いで6クラスに分かれ、山間部を中心とする規定のコースを1台ずつ、10回走行した合計タイムを競います。

 キャスト・レーシングの2台はともにJN3クラス(排気量1500cc超、2500cc以下の後輪駆動車)にエントリー。自動車評論家の国沢光宏さんとサンコーワークス社長の喜多見孝弘さんがドライバーとして乗り込みました。

 大会はコロナ禍のため無観客で開催され、取材には行けませんでしたが、後日、丸徳商会本社を訪ねて、同社のモータースポーツ担当で全日本ラリー選手権にドライバーとして出場した経験もある浜岡卓也さんに直接、お話を聞く機会に恵まれました。

 浜岡さんは「乗り心地改善などを目的にダンパーなどの開発や実地検証をするため、スピードと耐久性が求められるラリーの現場を選んだのです。ハイエースが皆さんに身近な車というのも理由の一つです。出るからには、公道最速ハイエースが目標です」と、ラリー参戦の狙いを明確に語ってくれました。

競技に必要な最低限の装備で本番へ

「ロールケージ」と呼ばれる金属製パイプで補強された車内
「ロールケージ」と呼ばれる金属製パイプで補強された車内

 出場した2台のハイエースのベースとなったのは、様々な大きさが選べるハイエースの中で最も小さい標準ボディーに、排気量2000ccのガソリンエンジン(最高出力136馬力)を積んだ「バンDX」でした。

 競技ルール上、エンジン本体などを改造してのパワーアップは禁止されているため、バケットシートや、衝突・転倒時に車内空間を確保するロールケージ、大型のハンドブレーキを取り付けたほか、車高を下げる金具や、ダンパー、競技用タイヤを装着し、競技車両に仕立てたと言います。特にダンパーは、コーナーでの横Gや、路面のうねりや継ぎ目で受ける衝撃などを吸収し、車体を安定させることを意識して開発した製品を使ったとのことです。

 写真をご覧いただけると分かると思いますが、荷室はロールケージとスペアタイヤが1本だけ。まるで「質実剛健」を絵に描いたようです。

 浜岡さんは「安全装備のほかは、転倒しにくい足回りと、駆動ロスが少ない機械式LSD(リミテッド・スリップ・デフ)を取り付けました。走りに直結した改造点は『転びにくくする』、『タイヤを空転しにくくする』の2点だけで、競技車両としては最低限の装備にとどめました。別の見方をすれば、足回りを除くと、ほぼベース車両です」と語ります。

 つまり、ほぼベース車両だからこそ、ダンパーをはじめとする足回りのカスタマイズを極限の状況下で検証できるというわけです。

大きな車体で、注目度ナンバーワン!

 それにしても、会場に集まったのは、トヨタのヤリスや86、スバル・WRXなど、車高が低い競技車両ばかり約50台です。図体(ずうたい)の大きいハイエースはどう受け止められたのでしょう? 前述した通り、大会は無観客での開催となりましたが、大柄な車体が豪快にコーナーを駆け抜ける姿は、ほかのチームや大会関係者から熱い視線を注がれたそうです。

 さて、肝心のレース結果ですが、国沢さんが運転したハイエースは完走こそしたものの、クラス最下位の9位でした。しかも、タイムは8位から9分以上離されたビリでした。喜多見さんが運転したもう1台のハイエースは最終ステージで車両トラブルが発生し、無念のリタイアとなりました。

 課題はミッション(変速装置)にありました。ノーマルの貨物用ミッションは、最大1000キロ以上の重い荷物を積んで走ることを前提にしていて、2速までのギア比が極端に低いのが特徴です。ギア比の高い3速にシフトアップすると、エンジンの回転数が極端に落ちてしまうのです。これでは発進時に勢いよく加速することができません。さらに、荷重配分はもともと前方を重くしてあるのですが、乗員2人とロールケージの重みが加わったことで、余計に重心が前に移動しました。下り坂で急ブレーキを踏むと、後輪が浮く感覚がするほどだったといい、慎重に運転せざるを得なかったようです。

国沢氏「予想以上に普通に走った」

 初戦は苦い結果に終わりましたが、ドライバーを務めた国沢さんは「予想以上に普通に走った。煮詰めればもっと速くなりそう」と前向きです。自慢のダンパーについては、「ダンパーがよく動き、リーフスプリング(板バネ)のサスペンションとは思えないほど良い仕事をした」と高く評価。チーム関係者も「横転することを心配していたが、速度を上げてもダンパーがしっかりと機能することが確認でき、最初の課題はクリアできた」と安堵したそうです。次戦は改良型の競技用ミッション(ギア比が近接したクロスミッション)を搭載して再挑戦する計画です。

 浜岡さんは「国沢さんのペースノート(速く走るためコース情報を記した地図のようなもの)には『コケ』という言葉が何か所も書かれていました。普通は『コケで滑りやすい場所』を指す言葉ですが、国沢さんは『こけやすい(転倒しやすい)場所』という意味で記したのだそうです」と、レースの裏話も語ってくれました。

 国沢さんはこれまでも、電気自動車や燃料電池車など、変わり種の車で国内外のラリーに挑戦してきましたが、助手席のコドライバーが「コケ!!」と絶叫しながら、ドライブしたのは、初めてのことだったでしょう。

スピードアップして次戦へ 挑戦は始まったばかり

ミッションの課題を克服し、次戦を目指す
ミッションの課題を克服し、次戦を目指す

 キャスト・レーシングは、次戦はさらにスピードアップしてJN6クラス(ハイブリッド車や電気自動車、排気量1500cc以下のオートマチック車)と競り合えるくらいのタイムを目指すことにしています。

 今回の挑戦はネットでも好感を呼びました。ツイッター上では、「ハイエースでラリー出場ってのが(すご)い!!」「結構攻めて走ってる。ハイエースでドリフトとまではいかないけど、見てて楽しい」「ハイエース乗りとしては超誇らしい。峠道を攻めるハイエースとか新鮮でいいな~」などと、好意的なコメントが上がりました。また、走行動画を見たトヨタのハイエース開発チームが「想像をはるかに超える衝撃的な映像」と国沢さんにメッセージを送ったそうです。筆者もハイエースでの新たな伝説の誕生を大いに期待しています。

 丸徳商会では、女性社員らがタッグを組み、国沢さんが乗ったハイエースで「TOYOTA GAZOO Racing Rally challenge」にも参戦する計画があるそうです。参戦スケジュールは下記の通りです。詳細は丸徳商会のサイトへ。みなさんの住む地域でも、ハイエースの激走が見られるかもしれません。

全日本ラリー選手権
・第5戦 RALLY丹後(5月21~23日、京都府)
・第6戦 MONTRE(6月11~13日、群馬県)
・第9戦 RALLY HOKKAIDO(9月10~12日、北海道)

TOYOTA GAZOO Racing Rally challenge
・第5戦 渋川伊香保(7月3、4日、群馬県)
・第10戦 高岡 万葉(10月9、10日、富山県)

「キャスト・レーシング」のメンバーたち
「キャスト・レーシング」のメンバーたち

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2024838 0 トピックス 2021/05/01 18:00:00 2021/05/01 18:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210501-OYT8I50021-T.jpg?type=thumbnail

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