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【コラム/旅へ。】「おしん」ゆかりの銀山温泉で激動の時代に思い巡らす

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 戦後間もない頃、脚本家の橋田寿賀子(すがこ)さんは山形を訪れ、「奉公に出る子どもは(いかだ)で最上川の激流を下った」と地元の人に聞いて、港町・酒田へと流れる川沿いの道を歩いてみた。当時の子どもの目にどんな光景が映っていたのか、知りたかったからだ。テレビドラマ史に残る名場面は、その時の旅の記憶から生まれたのである。

 東京ディズニーランドが開園した1983年4月、NHKの連続テレビ小説「おしん」はスタートした。米1俵と引き換えに奉公に出された7歳の少女は明治、大正、昭和を生き抜いた。真冬の川を筏で下るシーンは今も鮮明に覚えている。過酷な時代の記憶を語り継ぎたい。橋田さんの思いは視聴者の胸を打ち、ドラマは平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%を記録した。

 おしんは晩年、山深い温泉で苦難の人生を振り返る。延沢(のべさわ)銀山に由来する銀山温泉(山形県尾花沢市)はロケ地となったことで、広く全国に知られるようになった。

銀山川の両岸に立ち並ぶ大正モダンの旅館
銀山川の両岸に立ち並ぶ大正モダンの旅館

 大正から昭和にかけて建てられた木造旅館の外壁には漆喰(しっくい)鏝絵(こてえ)。石畳のガス灯が夕暮れの川面に揺れ、明治と昭和の谷間にひっそりと咲いた大正浪漫の記憶が心をざわつかせる。和と洋が溶け合う大正モダンの景観がこの地に残されたことは奇跡に近い。

 「おしん」の誕生秘話をもう一つ。きっかけは明治生まれの女性からの手紙だった。橋田さんはそこに書かれた壮絶な人生に衝撃を受け、激動の時代を生きた女の物語を書こうと決意した。「名前だけは早い時期に決めていた」と言う。ひらがな2文字に様々な思いを込めた。辛、心、真、信、進、芯……。つらくても、希望を失わない。真っすぐ前を見る。そんな女性をイメージしたのだろう。全297話の最終回。おしん役の乙羽信子に「悔いはない。その時、その時を精いっぱい生きてきたから」と語らせたが、立ち姿には凜としたものが漂っていた。

 タイムスリップしたような銀山温泉の夜。カジカガエルの切ない鳴き声が響き渡り、時代の波に翻弄(ほんろう)された名もなき人々の人生に思いを巡らせていた。

 文・三沢明彦

 (月刊「旅行読売」2020年10月号から)

◆月刊「旅行読売」
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