「コロナ後の観光のゆくえ」星野リゾート・星野佳路代表インタビュー

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1、マイクロツーリズム

星野リゾート・星野佳路(ほしの・よしはる)代表

――長期化するコロナ禍で観光業界は苦戦を強いられている。どう乗り切るか?

 (星野代表・以下同)マイクロツーリズムの重要性に気づくことができたのは大きな発見でした。3密を避けながら自宅から1~2時間の距離にある旅館やホテルに滞在することを「マイクロツーリズム」と定義しましたが、温泉や料理、伝統文化などを楽しむ保養を目的とした旅行は「地元再発見」「地域応援」と消費者から歓迎されました。

――観光業の多くが営業自粛し発信さえ控えた昨春から、マイクロツーリズムを積極的に呼びかけたのはなぜか?

 新型コロナウイルスの感染拡大でインバウンド(訪日外国人)需要が消滅し、日本の観光産業は相当厳しくなるという風潮でした。しかし28兆円ある観光需要の中で、インバウンドは4.8兆ほど。大半が日本人による国内観光という正しい情報を発信する必要があると感じました。

 インバウンドを向こう3年間くらい失っても、全体の15%が減るだけ。日本の観光は国内需要が大半を占めていますから、日本人観光客が戻れば観光業界は生き残れる。地元の方が近場で過ごすマイクロツーリズムを喚起すれば効果は十分あると思いました。

 アフターコロナにおいて遠方や海外からのお客様はもちろん大事ですが、マイクロツーリズムは自然災害などに対応するためのリスク分散にも有効で、今後も進化させたいと考えます。

2、優位格差をなくす

――温泉旅館・界が好調と聞く。マイクロツーリズム効果か?

 星野リゾートでは車でアクセスしやすい施設が好調で、神奈川の界 箱根、静岡の界 遠州(えんしゅう) 、石川の界 加賀、山口の界 (なが)() などは近隣県のお客様利用が多いです。逆に都市や離島のホテルは厳しい状況が続いています。

――霧島や別府など、界の開業が続く。温泉旅館展開の狙いは?

 星野リゾートはラグジュアリーブランドの「星のや」が中心であるように思われますが、はじまりは1914年開業の星野温泉旅館であり、私が1991年に経営を引き継いだ時から温泉旅館展開をイメージしていました。

 「界」は2011年に日本初の温泉旅館ブランドとしてスタートしました。旅行はどうしても特別な機会ですから、幅広い方々のハレの舞台にしていただける、そこにふさわしい宿を目指しました。

 お客様が行ってみたいと思う温泉地に界があることを念頭に、30施設を目標にしています。2021年は界 霧島、界 別府が開業し、現在18施設。今後は北海道の界 ポロト、大分の界 由布院と続きます。界が全国に30施設×50室の1500室ほどあると、海外にも発信しやすい。界をめぐることで、日本旅の奥深さを感じてもらえるように頑張っています。

――界誕生10周年のご当地文化体験「手業のひととき」をはじめ、地域連携を深めている。競合との差別化を意識してか?

 地域連携の一番の目的は、観光が地方経済の担い手になるためです。日本各地の温泉地が、首都圏や海外からしっかり集客できるように魅力を強化する必要があります。雇用促進のねらいもあります。

 長年この業界を見ていて、首都圏は人口が多く経済力が強いため、優位格差が生まれています。簡単に言うと、東京周辺の温泉地は集客に有利であり、東京から遠い温泉地は不利です。

 優位格差をなくすために、地域の個性あふれる芸術家、職人さん、また食の生産者の方々との連携は必要です。温泉旅館・界は「ご当地部屋」「ご当地 (がく) 」を作り、地域ごとに特徴のあるサービスを提供しています。館内に魅力的な地域らしさを取り入れることで、ほかでは味わえない、地方を旅したくなる理由が生まれます。

 今春スタートの「手業のひととき」では現地スタッフがこれまで、地域の方々と取り組んできた活動をベースにして、特別な体験プログラムを開発しました。滞在を通して地域の魅力に出合える温泉旅館であるために、スタッフが創意工夫を続けています。

3、観光を一流の産業にする

――雇用を維持しながら危機を乗り越える。「観光人材を守る」と発信し続ける訳は?

 これまで国内外に50ほどの施設を展開する中で、星野リゾートは地方で観光人材を育ててきたという思いがあります。

 コロナ禍で生まれた地域との新たな取り組み。例えばフードロスの食材を活用するプロジェクトは、現地のスタッフである観光人材が力を発揮した成果です。単に地域を助けているのではなくて、私たちにとってもプラスでした。

 旅行の自粛が緩和され、需要の回復を早めるためには観光人材が不可欠で、ビジョンを共有するチーム力が求められます。私自身、危機対応における経営者のリーダーシップが常に問われます。

 経営者となった30年前、社員は150人ほどでしたが現在は約3200人。界は9割以上が社員で、「完全サービスチーム・マルチタスク」を行い、接客、清掃、料理サポートまで取り組んでいます。仕事のやりがいと生産性が同時に生まれることで、企業の長期的な成長につながります。

 「観光を一流の産業する」ために、社員が働く環境、労働時間や年俸などを整えるアプローチをしています。全国の観光人材が経験を活かして危機を乗り越えていくことで、飛躍できるチャンスが待っていると信じています。

 インタビュー・構成/旅ジャーナリスト・のかたあきこ 写真/キッチンミノル

 (月刊「旅行読売」2021年11月号から)

◆月刊「旅行読売」
 1966年創刊。「読んで楽しく、行って役立つ旅の情報誌」がモットー。最新号や臨時増刊などの案内は こちら

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