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    湿原再生 変わる自然

    問われる開発と保護

    • <写真《1》> 中央の滑走路のように見えるのが直線の川跡。川は蛇行化された。撮影は2012年9月(釧路開発建設部提供)
      <写真《1》> 中央の滑走路のように見えるのが直線の川跡。川は蛇行化された。撮影は2012年9月(釧路開発建設部提供)

    【釧路川再蛇行化5年】

     あまり例のない取り組みだ。いったん直線にした河川を再び蛇行させる工事。川を蛇行させることで水をあふれさせ、乾燥した大地に潤いを与える。そうして、昔の姿の湿原をよみがえらせようというのだ。開発と保護、そして活用。釧路湿原の今を見つめることで探る。(佐藤一志)

                     ◇

     釧路湿原の北端にある標茶町茅沼地区。1980年代までに直線にした釧路川を再蛇行させる工事が決まったのは2006年だった。工事は11年に完了した=<写真《1》>。あれから5年。再蛇行化した起点から塘路湖までの約12キロをカヌーで下ってみた。

    • <写真《2》>
      <写真《2》>

     湿原の春は遅い。5月中旬だというのに、緑はまだ少なく風は冷たい。ダウンジャケットの上に救命胴衣をつけ、ガイドを頼んだ土佐武さん(37)とカヌーを下ろす。水の流れは速くパドルを握る土佐さんの手は、せわしなく動いた=<写真《2》>。

     湿原の代名詞といえばヨシの群生。しかし、一帯の河畔を覆うのはハンノキだ。ハンノキは乾燥化の指標となる。植生のモニタリング調査では、ハンノキが減少した結果もあるが、見た目には分からない。だが、まだ5年である。水の多い環境を嫌うハンノキの衰退は事業成否の指標でもあるという。

                     ◆

     直線だったところとの合流部に来た。直線の終端は、水をせき止めるための石が積み上げられている。その向こう側、埋め戻した河道のわきは枯れたヨシでびっしり埋まっている。

    • <写真《3》>
      <写真《3》>

     この辺りは、植生回復のために、地元の高校生らも手伝って、ヨシの苗を植えたところだという。工事前の航空写真では、ハンノキなどで覆われていた。カヌーで通りかかると、10頭ほどのエゾシカの群れが、大地に顔をこすりつけるようにして新芽をむさぼっていた=<写真《3》>。

     川のカーブの内側には土砂が堆積していた。上流から運ばれてくる土だ。こうして少しずつだが、元の姿に近づいていこうとする。土佐さんは「釧路川は自然のままだと思っている人がほとんどなんです。直線化の工事も、再蛇行化の工事も知っている人は少ないんですよ」。

     調査では生息する魚類も増えている。70センチ近いイトウの生息報告もあり、多様な環境は、回復に向かっている証しだという。

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    • <写真《4》>
      <写真《4》>

     キャンプ場などが整備された塘路湖までの約10キロは、工事を受けていない手つかずの場所。さしかかるとカヌーは右に左に大きくうねる。

     雪解けの季節や豪雨などの後に増えた水が、蛇行によって自然にあふれ、周辺を潤し、長い長い年月をかけて育まれた湿原=<写真《4》>。遠く正面に見えていた小さな丘が、いつの間にか右後方に現れたかと思ったら、しばらくすると今度は前方に現れる。河道は、まさに蛇がはうかのようだ。

     「クォー、クォー」という鳴き声が聞こえた。「タンチョウですね」と土佐さん。土佐さんは、ヒナを背負って川を横断するタンチョウも見たことがあるという。タンチョウもまた湿原の顔だ。

     釧路川から塘路湖へ向かうための支流に入った。その時、水際の草むらで黒いものが動いた。土佐さんは「ミンクですね」。かつて、この近くで毛皮用に飼育されていたのが、逃げ出して野生化したのだという。もちろん外来種だ。これも今の湿原なのだ。

     再蛇行化の候補地は茅沼地区のほか、釧路川支流のヌマオロ川、幌呂川、雪裡川、オソベツ川が挙げられているという。

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     【1980年代まで直線化工事】

     ■釧路湿原と釧路川

     釧路川は全長約150キロ。弟子屈町の屈斜路湖から太平洋に注ぐ。下流部の洪水防止や農地開拓のために、1980年代まで直線化工事があちらこちらで行われた。しかし、土砂が下流に流れやすくなったため、水があふれなくなり、乾燥化が進んだ。湿地面積は戦後間もなく3万2000ヘクタールあったが、2010年には約2~3割減になったという。1980年に「湿原の保全とワイズユース(賢明な利用)」を基本理念とするラムサール条約登録。「自然再生型」の公共事業として行われた再蛇行化の工費は約9億円で、様々な意見をはらんでいる。

    2016年05月29日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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