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    増える公営塾 地域に活力 今年度、8市町で新設

    都市部に並ぶ教育環境を

     市町村が設置する公営(公設)塾がここ数年、道内で続々と誕生している。地域の活力維持には学力アップも必要と認めた自治体の判断が背景にあるとみられ、今年度だけで少なくとも8市町で新設された。その一つで、6月からスタートし、地域おこし協力隊員が講師として働く利尻町の「まなびcafe Ri―shi(リッシ)」をのぞいた。(桜井考二)

     利尻島西部の沓形港に近い山小屋風の建物に8日午後4時半頃、島内唯一の高校、利尻高(生徒数約70人)1年の竹口紗羅さん(16)が姿を見せた。この日、最初の塾生だ。

     竹口さんはさっそく、講師の萩野理香さん(27)の補助を受けながら約30分間、英単語テストを行い、続いて数Iのプリントにとりかかった。そばで塾長の大村健祐さん(28)が見守る。

     竹口さんの目標は、英検2級合格。利尻高は毎年、生徒2人を米国に短期留学させており、「2年生になったらぜひ留学したい。そのために英語の勉強が必要だから」と見据える。

     生徒は午後7時半までにさらに4人集まり、1年生3人、2年生2人の計5人となった。1年生の車谷愛恋さん(16)と山本康平さん(16)は竹口さんと同じ部屋で数学や英語の勉強をしていた。時折、大村さんらが、傍らの白板を使って解説すると、生徒は真剣なまなざしを向ける。

    • 利尻町の公営塾で大村さん(左から3人目)、萩野さん(同4人目)から数学や英語を教わる利尻高校生(8日、利尻町沓形で)
      利尻町の公営塾で大村さん(左から3人目)、萩野さん(同4人目)から数学や英語を教わる利尻高校生(8日、利尻町沓形で)

     高校生を対象とする「Ri―shi」は、北海道開発局の建物を町が買い取り、昨年11月からの試行を経て本格オープンした。現在、12人が通う。勉強中、テーブルにはアメなどが出され、疲れると気軽に手を伸ばすなど雰囲気は民間の学習塾と同様に思えるが、講師3人の経歴は多様だ。

     塾長の大村さんは北海道大卒業後、国土交通省に入った。3年でやめ、今春、島に来た。「北大で学び、北海道をよくしたいという使命感がある。地方の活性化に協力したい」と力を込める。

     函館市出身の萩野さんは東日本大震災直後、福島大に入った。大学で災害ボランティアの団体に入り、仮設住宅の被災者を支援した。主に数学を担当する広瀬諒さん(26)は東京・武蔵野市職員から教育を支援する都内の非営利組織を経て、7月から加わった。

     大村さんは「子供たちは勉強を通じていろんな人に出会い、いろんな世界を知ってほしい」と話す。

     塾創設を進めた町まちづくり政策課の佐藤弘人・事業調整室長(44)は「教育のため子供を島外に出すと、親の負担は大きい。公営塾で都市部に負けない教育環境を整備し、町の魅力を更に向上させたい」と狙いを語る。

    ■若い親の移住促進にも

     道内の公営塾は2016年度、三笠、歌志内、上砂川3市町が小中学生向けに開いた例などがあり、学力向上に一定の成果を上げている。親世代の経済格差が子供たちの学力差に直結するのを防ぐとともに、道外などから子連れの移住希望者らをスムーズに受け入れる狙いもある。

     歌志内市に民間の塾はあったが、小規模で受け入れに限度があった。三笠と上砂川に塾はなく、子供らは近隣の岩見沢市や滝川市に通うしかなかった。ただ、共働きだと送迎できず、上砂川町教育委員会などの調査で町民から「塾に通わせたくても、送り届けられない」などの意見が出あった。

     同町の場合、小学5年生以上の児童・生徒向けに「上砂川公設塾」を開設し算数と数学を教えている。成果は、今年度の全国学力テストの結果に如実に表れた。小学校の算数A(基礎)の平均正答率は全国平均を5ポイント以上、算数B(応用)でも15ポイント以上、それぞれ上回った。

     上砂川町の奥山光一町長は「この2年で学力は伸び、塾の効果が出始めている。子供の学力向上は、若い親世代の移住受け入れにもつながる人口減少対策でもある」と話す。町は新年度から、公営塾の科目に国語などを追加するほか対象も4年生以上に広げる予算を組むという。

    (中村僚)

    2018年11月25日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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