「笑いヨガ」で活力 教室開く

(27)がん 笑顔で生き抜く 桜井英代さん 56

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「わはははは!」。笑いヨガ教室で全身を動かしながら大声で笑う桜井さん(15日、札幌市手稲区で)=沼田光太郎撮影
「わはははは!」。笑いヨガ教室で全身を動かしながら大声で笑う桜井さん(15日、札幌市手稲区で)=沼田光太郎撮影

 初夏の陽気に包まれたあの日。公園に集まった仲間たちは、車いすに乗った自分を囲むように手をつなぎ、大声で笑った。足がしびれ、立つこともできなかったが、自分も負けじと精いっぱいに笑った。がんで余命3か月と宣告され、ひと月がたっていた。「大丈夫」「絶対治せる」。仲間から口々に励まされた。「諦めたらダメだ。もっと生きたい」

 2015年5月3日、札幌・大通公園。参加したのは、笑いとヨガの呼吸法を組み合わせた「笑いヨガ」のイベントだった。「最後に笑って、人生をおしまいにしよう」。遺品整理をし、23歳だった長女に車いすを押してもらって参加した。

 翌日、医師に訴えた。「どうしても生きたいんです」。緩和ケアを勧めていた医師は一瞬、戸惑ったような表情を浮かべたが、抗がん剤を3倍に薄めて打つ方法を提案してくれた。激しい痛みが伴うことには違いなかった。それでもあえて、この治療を選んだ。

 保育士として、札幌市内の保育園などで25年間勤めた。その後は、区役所の保健センターで子育て支援に関する仕事に携わった。朝4時起きで、家族の食事を作る。定時よりも1時間以上早く職場に着き、残業も繰り返す毎日だった。家族から働き過ぎだと注意されることもあったが、結果を出したいという思いが強く、聞く耳を持たなかった。

 異変があったのは、51歳の時だった。トイレが近くなり、膀胱ぼうこうに圧迫感を感じていた。病院に行くと、CT(コンピューター断層撮影法)画像には、膀胱の外側に15センチの腫瘍が写っていた。「何かわからない」と言われ、4か所の病院を回り、最後に行ったのががんセンターだった。手術で腫瘍を摘出した結果、原発不明がんと診断された。「なんで私が……」。毎年、がん検診を受けていただけにすぐには受け入れられなかった。

 入院してすぐに腸閉塞へいそくも併発し、何も食べられない状態が続いた。どうやったら腸が動くのか。同じ病室の患者から聞いたのが、笑いヨガだった。スマートフォンで笑いヨガの動画を見て笑ってみた。すると、おなかが動き出すのを感じ、痛みも緩和されていった。

 退院後の14年5月には、札幌市内の笑いヨガクラブに足を運んだ。クラブでは、笑うことで免疫細胞を活性化させるだけでなく、マイナスな感情をプラスに変える力や、自分も周りも幸せにする考え方を学んだ。多くの仲間にも巡り合った。

 余命宣告を受けたのは、がん判明から1年半後。少し前から夕方になると40度近い発熱が続き、せきも出るようになっていた。再発を疑ったが、朝になると熱は収まるため、ずるずると仕事を続けていた。

2016年3月、抗がん剤治療を乗り越え、一人娘の長女ちひろさん(右)の大学の卒業式に出席した桜井さん。1年前の遺品整理でスーツを捨ててしまい、新調した(本人提供)
2016年3月、抗がん剤治療を乗り越え、一人娘の長女ちひろさん(右)の大学の卒業式に出席した桜井さん。1年前の遺品整理でスーツを捨ててしまい、新調した(本人提供)

 「髪伸びるまで生きていればいいっしょ」。抗がん剤治療に踏み切る覚悟を決めた15年5月、副作用による脱毛を心配して長女に相談すると、そう言われた。なんだか救われた気がした。治療はその月から始まったが、全身にじんましんができ、動悸どうきが激しくなった。

 笑いヨガのDVDを音声で聞きながら、免疫療法も並行して取り組んだ。次第に、熱も出なくなり、腫瘍マーカーの数値も下がり始めた。正常値となったため、約3か月半で抗がん剤治療を打ち切った。

 「半年後に再び悪化する」。医師からそう言われたが、半年後には腹部のがんがきれいになくなった。仕事に戻ると再発してしまうと考え、16年3月に退職した。

 「家族や仲間からもらったエネルギーをみんなに返したい」。退職してから、札幌市手稲区の区民センターで笑いヨガ教室を始めた。様々な事情を抱えた約30人が通う教室では、笑えるような状況ではない人もいる。「泣き笑いでもいい。なんとかなると感じてほしい」

 左胸には抗がん剤注射のための医療器具が埋め込まれ、3か月に1度の定期検診は続けている。再発の恐怖も消えない。それでもがんになって良かったと思う。「自分は一人じゃない」ということを教わったから。

 最近は「あなたの笑顔を見ると、元気が出る」と言われることも多い。「私が笑顔なのは、周りから笑顔をもらっているから。笑いで周りを元気にし、『笑いの循環』を生み出したい」

(橋爪新拓)

405517 0 この道 2019/01/27 05:00:00 2019/01/27 05:00:00 2019/01/27 05:00:00 この道・「笑いヨガ」講師の桜井英代さん(15日午前、札幌市手稲区で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190128-OYTAI50007-T.jpg?type=thumbnail

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