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井山裕太棋聖(32)に一力遼九段(24)が挑戦する囲碁の第46期棋聖戦七番勝負第7局が17、18の両日、京都市の仁和寺で行われた。勝負は18日午後、黒番の一力が勝ち、4勝3敗で初の棋聖獲得を果たした。1勝3敗から2連勝して「カド番の鬼」ぶりを見せた井山は最終局で敗れ、棋聖10連覇の偉業達成はならなかった。
一力九段が「打倒井山」と棋聖戴冠をなしとげた本局の模様をタイムライン、「動く棋譜」でお楽しみください。
棋聖戦七番勝負第7局 動く棋譜速報
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「もしも自分で見出しをつけるなら・・・」 一夜明けて会見の一問一答

一力新棋聖は19日朝、滞在先のANAクラウンプラザホテル京都で「一夜明け会見」に臨んだ。
Q 棋聖獲得から一夜明けて今の心境は?
いろんな方からお祝いのメッセージをいただいて、実感がわいてきました。
Q 昨晩はどのように過ごされましたか?
お祝いに対する返礼とかでなかなか寝れなかったのですが、ゆっくり休むことはできました。
Q メールとかですか?
LINEが多かったですかね。20、30件ぐらい。大体、棋士仲間とか友人からです。
Q 昨日の最終局を改めて振り返って
最終局ということでしたが、自分の打ちたい碁を打つということを意識してやっていたので、それがいい結果につながって、自分としても良かったです。
Q 対局を終えて、仙台には連絡は?
東北では、昨日も大きな地震がありましたし、大変な生活を送られている方も多いと思います。囲碁を通じて少しでもお役に立てればいいなと思っています。

Q ご自身の棋聖獲得に「見出し」をつけるとすれば、どんな見出しを?
見出しですか? あんまり考えたことがなかったです(笑) う~ん。なんでしょうね。
Q 今日はマスクが白ですね。白星の白ですか?
いや、きょうは特に。普段、白いマスクが多いんですが、対局の時は手番に合わせて、変えていることもあります。
Q 世界遺産の仁和寺での対局はいかがだったでしょう。
普段の対局場とはまた別の雰囲気で、世界遺産独特の雰囲気は感じましたね。ただ、対局が始まってしまえば、基本的にはやることは変わらないので。庭園はすごくきれいだなと思いましたし、2日目は雨でしたが、それもまた風情があっていいなと思いました。
Q 今回は2日制の七番勝負は3回目ということで、1日目の封じ手後は休めましたか?
そうですね。結構、場合によるという感じだったのですが、どうしても局面のことを考えてしまい、なかなか寝付けないことは多々ありましたね。
Q 慣れみたいなものは?
少しは昨年から続いてということなので、リズムとかはある程度つかめてきたのかなと思います。
Q 囲碁の三大タイトルを東北出身の棋士が獲得するのは初めてです。
あまりそういうことは意識せずやってきたんですけど、結果的にそういうことになって、非常にうれしく思います。
Q 色紙に揮毫した「雄飛」の意味は。
文字通り、さらに羽ばたいていけるように、上を目指していけるようにこの文字を選びました。来年の棋聖戦もそうですし、ほかの国内棋戦もそうですし。
Q 最終的な目標は?
一つずつタイトルを増やしていければ、という思いもありますが、その過程において、実力を高めていくところが一番大事だと思いますし。これからも井山さんとの対局を通じて、いろんなものを吸収していければいいかなと思っています。
Q 今回の七番勝負でもいろんなものを手に入れることができましたか?
今回は自分の長所も短所も含めて出たシリーズだったと思いますし、そういう意味では学ぶことはたくさんありました。
Q さきほどの質問で、「見出し」は思いつきましたか? 「雄飛誓う」みたいな。
いいですね(笑)。「さらなる飛躍を目指す」という感じになりますかね。
棋聖戦七番勝負第7局 フォトギャラリー
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終局後のフラッシュインタビュー
■一力九段
――棋聖獲得おめでとうございます。まず本局を振り返っていただきたいと思います。左辺は6線を押していって囲わせる大胆な戦略をとりました。
「実際に良かったかどうか、わからなかったです。押しは実戦で自信があったわけではないのですが、ほかの打ち方も分からなかったので、思い切ってやってみました」
――封じ手のあたりの形勢判断は?
「それなりに難しいかとは思っていましたが、あまり自信はなかったです」
――手応えを感じたのはどのあたりで?
「結構ミスが多かったですけど、局面が落ち着いて、右下が手にならなければ、残るかなと思っていました」
――4年前は4連敗でしたが、今回は4勝3敗で棋聖獲得となります。今のお気持ちは。
「以前よりは少し自分自身、成長できた部分はあるのかなと思いますが、まだまだ内容的には足りない部分もあったので、引き続き頑張っていきたい」
――前日には東北で大きな地震がありました。
「地震が起きてから連絡を取る術(すべ)がなかったのですが、そういった中で勝つことができたのは良かったと思います。自分のできることはまずは目の前の一局に集中することだと思って、頑張りました」
■井山棋聖
――本局は序盤、地で先行する形になりましたが。
「リズムとしては、良くないかと思っていました。いろいろ判断が難しくてよく分かっていなかったです」
――封じ手後の展開は
「もう少しいい手があったのかもしれないですが、自分としてはいい図が思い浮かばなかったです」
――10連覇はなりませんでしたが、ご自身のこれまでの戦いを振り返って。
「今期は残念な負け方が多かったです。また力を蓄えて、戻ってこられるように頑張っていきたいです」
タイムライン
3月18日
今局の総括新聞解説の蘇九段に今局を振り返ってもらった。
「途中まで難しい戦いでしたが、黒の一力九段が白の大石を攻める中で、黒105、107のあたりでリードを奪い、そのまま井山棋聖にチャンスを与えず、逃げ切りました。棋聖奪取まであと1勝に迫った第5局、第6局はプレッシャーもあったのか、ミスも目立ったのですが、この最後の大一番で一力九段らしい大胆な攻めの碁を見せてくれました。対する井山棋聖はカド番での強さが光っていましたが、今局について言えば、いつも見せる目いっぱいの『最強手』が影を潜めました。一力九段の攻めに、それを出させてもらえなかったという見方もできます。本人にとっては不完全燃焼だったかもしれません。
インタビューでも話していましたが、この勝利は一力新棋聖にとって大きな自信になったはずです。特に井山さんは2日制の長丁場の戦いでは圧倒的な強さを誇る人です。『自分は井山さんにも勝てる』と思えることで、気持ちの上でもまた一つ強くなれると思います。長く続いた井山時代が今後、どうなるのか。この1、2年の囲碁界の動きは大注目です」
午後7時35分棋聖位奪取の記者会見に臨んだ一力九段。カメラマンからの「笑ってください」の呼びかけにはにかみ笑い。
午後7時1分井山棋聖が投了。199手で黒番の一力九段が中押し勝ちし、シリーズ通算4勝3敗で初の棋聖位を奪取した。10連覇がかかる井山棋聖はカド番を2度しのぐ執念を見せたが、あと一歩及ばなかった。
午後6時40分井山棋聖が白176で右下のツケコシを打った。「最後のアヤ」と呼ばれていた地点だが、控室では「黒が正しく応じれば、リードは動かない。終局は近いかもしれない」との声が。控室の棋士らが立ち上がって、対局室を映すモニター画面を見守っている。
午後6時15分
実戦の白152~黒155を参考図21に示した(2桁に変換)。井山棋聖は白の大石を生きたが、一力九段は大きな黒155に回った。控室では「黒が盤面10目は勝っていそう」と判断している。この後、白はイのツケコシからの味を狙うことになる。最後のアヤかもしれない。
午後5時45分
黒135(参考図20のイ)は控室で「一力さんが厳しい手を選んだ」という評判だ。これに代えて、黒1と下がって白の大石の眼形を脅かし、白2を強いて、上辺黒3とはうくらいで、黒はリードを保っているという。一力九段はどんな構想を描いているのか。一力九段の残り時間はすでに10分を切り、秒読みに入っている。
午後5時5分
一力九段は黒125(△)と隅を守った(参考図19)。この後白1と打っても、黒2以下で生きている。黒のリードが徐々にはっきりしてきた。
午後5時
対局が行われている仁和寺の御殿では、3月19日から始まる芸術祭「御室 花まつり2022~心を豊かに~」の準備が進められていた。歴史ある文化財を国内外の若手アーティストに作品発表の場として提供することで、新たな美意識やアートの可能性を発掘していこうという野心的な取り組みだ。
御殿の中心となる建物「宸殿」に作品を展示したのは中国出身の郝玉墨さん。「世界遺産の仁和寺に作品を展示できて光栄。まるで自分の作品ではないみたいです。仁和寺という空間が自分の作品に新たな命を吹き込んでくれたのかもしれません」と感激していた。
午後3時30分
井山棋聖は白104(△)と右辺を渡った。一力九段が長考に入っている。参考図18のように、白8までを決めた後、黒は9に一手戻す必要がある。白10からの死活が難しい。「右上の黒が何事もなければ、少し黒がリードしています」と蘇耀国九段。
午後3時20分
黒99では黒1のツギがわかりやすかったようだ。ちょっと甘そうに見えるが、後に黒Aのアテコミが気持ちいい。実戦は黒99と頑張ったため、白100と切られた。まだまだ難しい戦いが続く。
午後3時午後のおやつ。ともに注文は京菓子司「千本玉壽軒」の苺香(いちか)。イチゴ丸ごと一粒のまわりに、苺餡といもねりきりを重ね出したきんとんをつけたかわいらしいお菓子だ。飲み物は井山棋聖がりんごジュース、一力九段がアイスコーヒー。午後3時までの消費時間は黒の一力九段が5時間52分、井山棋聖が7時間4分。井山棋聖の残り持ち時間はすでに1時間を切っている。
午後2時半
参考図16の黒95(△)に対しては、白1、3が有力視されている。黒4と下がれば白5で難しい戦いだ。黒4でAなら、白4、黒B、白Cと隅をえぐる展開が考えられ、これなら寄せ勝負になりそうだ。
午後2時
井山棋聖は白94(△)と黒陣に踏み込んだ。「ちょっと悲観しているのかもしれません」と蘇耀国九段。黒1から5などの戦いになりそうだが、果たして成算はあるのだろうか。
午後1時50分
黒91(△)に対し、白1から3が考えられるという。AIは黒91で黒3を推奨していた。「参考図の黒3なら黒のペースだったかもしれません。でも僕らはAIを参照しているから気がつきますが、人間だと黒91のスベリに目がいきますよね」と蘇九段は苦笑いした。
午後1時20分
参考図13は、白88(△)までの局面 目まぐるしい折衝の末に、白は右辺を生き、下辺から中央にかけての大石の断点も守った。一方、黒の一力九段の着手も早い。「一力九段はこれで打てると見ているのでしょう」と蘇耀国九段。Aなどの手段があり、下辺から中央にかけての白の眼が薄くなっている。
午後1時10分
白74(△)を見て、控室では「すごい手が出た」と驚きの声が出た。白6までとなれば右辺は取れるが、黒7の反撃も厳しい。黒3ではAなどの手段もある。「井山先生らしい仕掛けですが、ちょっと危険な道です」と蘇耀国九段。
午後1時昼食休憩が終わり、対局が再開された。井山棋聖は74手目をすぐに着手した。
<2日目午前の総括>2日目の午前中の展開を解説の蘇耀国九段に振り返ってもらった。
「一力九段が右辺の白を厳しく攻めて、読みを必要とする局面になっています。右辺の白が死ぬことはなさそうですが、井山棋聖は黒がいい形になるのを嫌って、よりよい生き方を考えているのでしょう。黒はここで成果を上げそうですが、形勢はまだまだわかりません」
午後0時昼食休憩に入った。昼食休憩に入った。昼食は井山棋聖が「京ゆばそば」、一力九段が「天ざるうどん」。
大盤解説でペアを組む今村九段と安田初段に両対局者の昼食を試食してもらった。「天ざるうどん」を試食したのは今村九段。長いもやゴボウ、カボチャなどの天婦羅に舌鼓をうち、「心洗われる味です。味変につけあわせで梅干しがついているのもいいね」とニコリ。安田初段は「湯葉もおいしいし、出汁もほのかに梅の味がして上品。京都らしい逸品です」と話した。
午前11時20分
白72(△)に対して、黒1も考えられるところ。黒が右辺の4子を取り、白は隅で生きてから、白10などに回る分かれになる。一見すると黒が良さそうだが、「隅の黒地も荒らされていますし、右辺は何かと味が悪い。黒が怖い打ち方かもしれません」と蘇耀国九段。一力九段もこの図は選ばなかった。
午前11時
黒71(△)は、中央を打った時からの狙いだ。白は1から生きると、黒が上辺の14に回る展開になる。白は大きな被害を受けずに右辺をしのいだが、黒も中央が強化された。これなら長期戦だ。
午前10時半現地で大盤解説会が始まった。解説は今村俊也九段、聞き手は安田明夏初段。雨の中、かけつけた熱心なファンを前に初手から初手から軽妙な掛け合いで対局を解説をした。今シリーズの印象について、今村九段は「井山さんはカド番になってからどんどん強くなるし、内容もよくなってきている」
午前10時10分
黒69(△)は、参考図9の白1なら黒Aと上辺へ向かう調子を求めた手に見える。これならば白の注文が通った形だ。ただ、「一力さんは黒2を狙っています」と蘇耀国九段。白5と守ると、黒6と右辺の白を攻める時に△が効いてくる。「簡単に白1とは打てませんね。深い読みが入っています」と蘇九段はうなった。
午前10時午前のおやつ。井山棋聖はアイスレモンティー、一力九段はりんごジュースを注文した。
午前9時25分
封じ手以降、井山棋聖は決断よく打ち進めている。ここまでは想定通りだったのだろう。白68(△)に対して、「(参考図8の)Aの断点は気になりますが、井山棋聖は打てると見ているのでしょうね」と解説の蘇耀国九段。黒は右辺への利き筋を生かして、Aの切りなどを狙いたいところだ。
午前9時対局再開。盤上に1日目の対局を再現する。一力九段の封じ手は、昨日から大本命とされていた中央のノビ。新聞解説の蘇九段は「右辺に少し手をつけてから、という可能性もないことはなかったですが、ここは逆に白に打たれると、ものすごく厳しいところでした」。
午前8時53分一力九段が対局室である「高松宮記念書院」に。ほどなく井山棋聖も入室。みなに一礼して着座する。今朝の京都はかなりの冷え込み。事務局から、室内の暖房器具について、説明を受ける。
午前8時27分一力九段を乗せたタクシーが仁和寺に到着した。きょうの京都は朝から雨。春の陽気に恵まれた対局1日目から一転、仁和寺の美しい庭園には冷たい雨が降り注ぐ。5分後、井山棋聖も仁和寺入り。七番勝負の決着がつく、運命の一日が始まった。
3月17日
<1日目の総括>新聞解説の蘇耀国九段に1日目の戦いを振り返ってもらった。
「全体的にゆったりとした進行で、小競り合いはありましたが、まだ大きな戦いは起きていません。現在は白が実利を取り、黒が攻めにまわっている状況です。2日目は黒が中央の白石をどう攻めていくかが注目されます。印象に残ったのは黒39、41と、6線を押した手ですね。この手が今の状況を作る分岐点になりましたが、6線を押すというのは、以前ならなかなか考えられなかった手で、白に左辺で実利を与えても中央の白石を攻めるという一力九段の判断がどうだったのか。一つのポイントになりそうです」
午後5時48分
一力九段が封じる意思を示した。
蘇耀国九段の封じ手予想は、Aのノビが本命で、次いでBのツギだという。「Cのコスミは大穴です。Bのツギを打たずに工夫しようという、ひねった手ですね」
午後5時半封じ手ができる時間がきた。現在は65手目を一力九段が考慮中だ。
午後3時45分
黒53(△)は右辺の白に働きかけながら、中央の戦いに備えた手だ。ただ、「この手には受けたくない」と蘇耀国九段。控室では白1から激しく戦う手が検討されている。
午後3時
午後のおやつ。ともに御室和菓子「いと達」の「囲碁の生菓子」を注文した。飲めるほどに柔らかい「わらび餅」と、桜餡を雪平の生地で包んだお餅のセット。今回の棋聖戦にあわせ、碁石に見立てて作ったオリジナルの生菓子だ。「いと達」は、昨年10月に仁和寺で行われた第34期竜王戦七番勝負第2局でも、オリジナルの生菓子を提供。藤井聡太竜王(当時は三冠)が選んだ「くま最中」がファンの間で「かわいすぎる」と話題になった。
その「いと達」は仁和寺から徒歩5分ほどの住宅街の中にある。京都の老舗で17年間、お菓子作りの修業を重ねた伊藤達也さんが2019年10月にお店を開いた。今回の「囲碁の生菓子」は、白と黒の碁石の材料が異なることから着想を得た。黒のわらび餅はレギュラー商品として販売されているが、桜餡を雪平という生地で包んだ白は、棋聖戦限定のオリジナル和菓子。「桜餡は仁和寺の名物『御室桜』をイメージした」(伊藤さん)のだそう。
詳しくは写真特集で。
午後2時半
白38(△)に対して、黒1のカタツキも考えられた。黒7までとなった後、白8には黒9がで隅は安泰だ。実戦は左辺を白に囲わせて、下辺の白の攻めを優先した。「大胆な作戦ですね。一力さんでなければ、大丈夫かと不安になってしまいそうですが」と解説の蘇耀国九段。
午後1時20分
対局再開後も一力九段が考え込んでいる。白36(△)に対して黒1は自然な手だ。「根拠の要点でもあり、地としても20目弱の価値がある」と解説の蘇耀国九段。白6までが想定される展開だ。ただ、黒1で2と切る手もあり、ここは一つの分岐点だという。
午後1時対局が再開された。
午後0時昼食休憩に入った。井山棋聖は「ざるうどん」、一力九段は「ゆば丼」を注文。いずれも仁和寺にある御室会館のレストラン「梵」で食べることができる。
<1日目午前の総括>新聞解説の蘇耀国九段に午前中の戦いを振り返ってもらった。
「黒11に対し、井山棋聖は白12と難解定石を避けたことで、穏やかな展開になりました。白22は戦いを誘った手で、一力九段も黒23とそれに乗りました。戦いになるかと思ったのですが、一力さんの黒29が堅実な手で、局面はいったん落ち着きました。今は下辺で小競り合いが続いていて、両者とも慎重に打ち進めています」
午前11時ごろ
白26(△)に対して、控室では黒1などが検討されている(参考図3)。白がコウに勝ち、黒は上辺を突き抜く派手なフリカワリだが、AIの評価はほぼ互角という。
午前11時前日本棋院のライブ中継に立会人の山田規三生九段と蘇耀国九段が出演して解説中。山田九段は「きょうは珍しく井山棋聖に寝癖が」。今局も、ライブ中継では2日間にわたり、現場に帯同する棋士による深くて自由なトークが繰り広げられる。
午前10時午前のおやつ。井山棋聖がアイスレモンティー、一力九段がオレンジジュースを注文した。
9時45分
白18(△)に対して、黒1という積極策もあった。黒5までの進行が考えられる。一力九段は単に黒5と開いた。「すごく穏やかな進行だ」との声。
午前9時20分
黒11(△)に対して、白1とかければ難解定石になる。一例だが、白21となれば白が打てる。ただ黒12では他の手もあり、その先の変化も難しい。井山棋聖はこのコースを選ばなかった。
午前9時立会人の山田規三生九段から「時間になりました」との声かけがあり、握りの結果、一力九段が黒番となった。初手は右上隅の星。
午前8時54分一力九段が対局室に。いつものように、盤を丁寧に拭く。ほどなく井山棋聖も入室。今朝の京都は晴れ。美しい庭園が臨める窓からは爽やかな朝の日差しが降り注ぐ。対局会場になっている高松宮記念書院がある仁和寺御殿の入り口では、真っ赤な梅がほころび始めていた。仁和寺の職員は「ようやく春がやってきます」と笑顔を見せた。
仁和寺には、遅咲きで知られる「御室桜」という桜の林がある。根元から枝を張り、樹高が低いのが特徴で、江戸時代から庶民の桜として親しまれてきた。寺の職員によると、今年は4月初旬から上旬に見頃を迎える見込みという。
午前8時35分井山棋聖が仁和寺に到着した。対局室とふすまを挟んですぐ隣にある控室に向かった。
午前8時25分一力九段が仁和寺に到着。一力九段は宮城県出身で、河北新報社の記者でもある。前日の深夜には宮城・福島で震度6強を観測する地震が起きた。昨日のインタビューなどで見せていた柔らかな笑顔はない。強い気持ちで決戦に臨む。
3月16日
午後6時
京都市内のANAクラウンプラザホテル京都で「京都対局開催記念セレモニー」が開かれた。ファンら約60人を前に壇上に立った両対局者。それぞれ京都の印象を聞かれ、一力九段は「3、4年前に来た時、対局翌日に嵐山に行き、素敵なところだと思った。湯葉の丼など名物がおいしかった」。井山棋聖は「大阪に住んでいるので、対局でもプライベートでも何度も来ている。特に対局でお世話になった場所はどこも印象に残っているので、仁和寺さんも記憶に残る場所になると思う」と語った。
午後4時10分対局室で検分。記念盤などに揮毫を行った後、両者がインタビューに答えた。
■井山棋聖
――仁和寺を見学しての感想を。
「初めて来させていただいたのですが、すごく歴史があって、静閑で落ち着いた環境で対局できることをありがたく感じています。身の引き締まる思いです」
――泣いても笑ってもあと1局。勝利のためには何が一番大事だと思いますか。
「結果は自分ではコントロールできないので、まずは自分のベストなパフォーマンスを出すことだと思っています」
――揮毫で「福」という文字を書かれました。どんな思いを込められたのですか?
「福はこれまでも時々書いていますが、昨今、いろいろな面で難しい情勢が続いています。少しでもいいことがあればいいな、という思いを込めて書きました」
――ウクライナの情勢も含めてですか?
「はい。それも含めて」
■一力九段
――仁和寺を見学しての感想を。
「今までのタイトル戦はホテルや旅館が多かったのですが、こうした素晴らしい場所で対局できることを楽しみにしていました。庭園の眺めも素晴らしいですし、いい気持ちで打てるのではないかと思います」
――あと1局。勝利のために必要なことを一つだけあげると、どんなことだと思いますか?
「昨年から(井山棋聖とは)フルセットの対局が続いています。最終局にどのような心理で臨むか、難しいところはあるのですが、気負わず、平常心で打つことが大事だと思っています」
――揮毫では「和」という文字を書かれました。どのような思いを?
「仁和寺さんから一文字いただきました」
午後3時20分両対局者が仁和寺に到着した。

決戦の舞台となる仁和寺は、世界遺産に指定されている。仁和4年(888年)に第59代宇多天皇によって建立された寺院だ。対局は仁和寺御殿の中にある高松宮記念書院で行われる。御殿内の「仁和寺御所庭園」は国の名勝に指定されており、対局室からは美しい日本庭園が見える。御殿の中には、過去に2期連続で将棋の竜王戦七番勝負の対局が行われた宸殿もある。
到着後、二人は仁和寺の瀬川大秀門跡らの案内で境内を見学。国宝の「金堂」では、瓦にそれぞれ「福」(井山棋聖)、「和」(一力九段)と揮毫(きごう)した。瓦は現在、耐震工事が進められている御殿「黒書院」の瓦に使われる。昨年行われた第34期竜王戦七番勝負でも両対局者が揮毫した。