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[竜王戦コラム]“深読み”誘うレジェンドの銀髪

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 「しばらく髪の毛を黒く染めて、お客さんの前に顔を出していたい」
 30年も前のことになるだろうか。ベテランの俳優さんにこんなことを言われたことがある。
 「2、3年後にきっとボクは、顔の形はそう変わらず真っ白な髪になる。そうしたらまた二枚目役をやって『臆面もなくやってます』と思われたいね」
 銀髪のダンディーのラブストーリー。「それはちょっと見たいな」と、そのとき思ったものである。

竜王戦七番勝負第1局、読みに没頭する羽生九段。髪に銀色のものが目立つ(10月10日、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂で)
竜王戦七番勝負第1局、読みに没頭する羽生九段。髪に銀色のものが目立つ(10月10日、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂で)

 竜王戦七番勝負第1局。東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂の対局場に姿を現した羽生善治九段を見て、その時のことを思い出した。羽生九段の頭が見事なシルバーグレーだったからである。レジェンドの銀髪が印象に残ったのは筆者だけではない。「私もそれが一番印象に残りました」。対局2日目の朝、封じ手を開封した後、控室に戻ってきた立会人の森内俊之九段も、そう話してくれた。

 将棋ファンならご存じだろうが、羽生、森内は小学校のころからの好敵手である。かれこれ40年、盤を挟んで戦ってきたことになる。そのライバルが、真っ白な髪で将棋界の最高棋戦に臨む。「『羽生さんも変わったなあ』と思いましたね」という述懐からは、「お互い長く戦って来たんだなあ」という感慨が透けて見える。

 実は何年か前から、羽生九段は髪を染めていた。2年前、通算タイトル100期をかけて広瀬章人八段と戦った時もそうだったと思う。「コロナ禍の自粛期間が明けた後、染めるのをやめた感じですね」とは楽屋(すずめ)の評判だ。シルバーグレーでの戦いに、「何か思うところがあるのでは」と、ついつい深読みしてしまう。ご本人は「単なる気分の問題ですよ。これまでも、染めていた時も染めていなかった時も、両方ありますから」というのだが――。

立会人の森内九段(中央)が見守る中、対局に臨む豊島将之竜王(右)と羽生九段(10月10日撮影)
立会人の森内九段(中央)が見守る中、対局に臨む豊島将之竜王(右)と羽生九段(10月10日撮影)

 第1局の2日目、10月10日に50歳になった森内九段。白髪もほとんど目立たず、頭はまだ真っ黒なままだ。その森内九段がいう。

 「羽生さんのシルバーグレー、かっこいいですよね。さすがです」

 何をおっしゃいますか。いつまでも若い、森内九段の姿だって、ファンの憧れじゃないですか。
 (文化部編集委員 田中聡)

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1550299 0 竜王戦 2020/10/15 15:00:00 2020/11/07 14:20:52 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201014-OYT8I50131-T.jpg?type=thumbnail

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