【竜王戦福島歓迎会日誌】豊島竜王と吉川屋の“神対応”
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豊島将之竜王と羽生善治九段が熱戦を繰り広げた京都・仁和寺での竜王戦七番勝負第3局から移動日を考慮すると「中1日」で、福島市の吉川屋での第4局を迎えるスケジュールだった。第3局、盤側から見ていて羽生九段は目の下のクマが濃く、疲れの色はハッキリと出ていた。羽生九段の発熱・入院により、11月12日、13日に行われる予定だった第4局は延期となった。代替イベントが行われた11月11日を中心に「竜王戦福島歓迎会日誌」として、スナップとともにお届けする。(文化部 吉田祐也、写真も)

11月11日は福島市への移動日だ。正午過ぎ、東京駅に姿を見せた豊島竜王はポーカーフェースだった。「体調を崩すことは誰にでもあります」と話し、新幹線に乗り込んだ。福島駅に到着すると、すぐに観光物産館を見学した。会津若松の赤べこ、福島のメヒカリ、もぎたてのりんごなど、担当者が熱心に名産品を豊島竜王に説明した。「りんごは大好きです。楽しみにしていた福島のフルーツをお土産にいただくことができて感激しています」と豊島竜王。表情は少し柔らかくなり、担当者に復興の様子などを尋ねていた。

午後3時半頃、福島市飯坂町の吉川屋に到着した。午後6時からの第4局前夜祭は、「歓迎の夕べ」という代替イベントに変更となった。豊島竜王は「和服に着替えて(イベントに)出ます」とサービス精神をみせた。到着してすぐ、吉川屋の大浴場に向かった豊島竜王。実は温泉好きなのだ。午後5時過ぎ、「検分」が行われる予定だった部屋に豊島竜王は入り、和服姿で報道陣のインタビューに応じた。「温泉で疲れが癒えました」という豊島竜王は、時折、笑顔を見せた。「福島の方に対局を見せることができなかったのは残念です」という言葉もあったが、表情は穏やかなものだった。

午後6時、歓迎の夕べは始まった。一眼レフカメラを手にした女性ファンの姿もあった。「

和服姿の豊島竜王が登壇すると、大きな拍手が湧き起こった。「羽生九段の一日も早い回復を祈っていますし、自分自身も体調には気をつけなくては。福島は温泉やフルーツを楽しみにしていました」とあいさつした。異例の対局延期ではあるが、嫌な顔一つみせなかった。そして、対戦相手を気遣った。日本将棋連盟常務理事の森下卓九段は「豊島さんのあいさつは男気にあふれていた」と感心していた。

歓迎会には、サプライズゲストとして日本将棋連盟の佐藤康光会長が駆けつけた。東京から、夜になっての福島入り。立会人予定だった島朗九段と即興のトークショーで場を盛り上げた。佐藤会長は「実は昨日、島さんと対局しました。研究会でお世話になって懐かしい思いもありますが、昔のことは全然覚えていなくて」と得意の天然トークで笑いを誘っていた。佐藤会長は多忙で、歓迎会が終わると、すぐに都内へと戻っていった。

歓迎会のメインイベントは、豊島竜王による竜王戦第3局の自戦解説だ。副立会人予定だった飯島栄治七段が解説補佐を担当した。相掛かりという戦型になった第3局。豊島竜王は「相掛かりが得意な飯島さんの将棋を見て研究しています」とリップサービス。飯島七段は「うれしいです。突然、そんな言葉をいただいて、何を話していいかわからなくなりました」と動揺していた。豊島竜王は「ミスもあったが、力を出し切ることができた一局だった」と第3局を総括した。

竜王戦第4局の観戦記を担当する予定だった藤井奈々女流初段は、代替イベントの大盤解説では急きょ聞き手を務め、豊島竜王、飯島七段の解説をサポートした。観戦記執筆のため、藤井女流初段は福島の歴史、東日本大震災からの復興の様子、福島市飯坂町の温泉事情などを勉強して福島入りしていた。観戦記の取材はかなわなかったが、最善を尽くして努力する姿勢に拍手を送りたい。

11月12日は午前10時半に吉川屋を出発するという比較的ゆったりとしたスケジュールだった。温泉好きな豊島竜王だけに、朝風呂に入ったかと思いきや、「ギリギリまで寝ていて、朝は温泉に入らなかったです」とニコニコ。対局や研究、他の仕事も多く、長めに寝ることも体調管理の