[観る将が行く]カタカナもあり?…棋士が揮毫に込める思い
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京都・仁和寺で開かれた竜王戦七番勝負第3局でのこと。対局前日の検分後、対局者が色紙や将棋盤に
豊島将之竜王が最初に記した文字は「夢」。ファンの方なら、もちろんご存じであろう。豊島竜王は顔立ちだけでなく、文字も端正で美しい。

「夢」という言葉自体もすごく現代的で、若々しさを感じたし、「竜王の夢って何だろう」なんて想像しながら、筆さばきにほれぼれとしていたのだが、その後、渡された色紙には豊島竜王、今度は「心」と書いた。

ん? 揮毫に記す文字って、棋士それぞれにお決まりのものがあると思っていたけど、違うんだ。羽生善治九段は、「
「棋士の方って、それぞれいろんなバリエーションを持っておられるのですね」

読売新聞のベテラン記者・T編集委員に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「そうだね。ただ、自分の好きな言葉の中から、事前に決めて書くケースが多いんじゃないかな。前もってしっかり練習して書く人もいる。羽生さんのように長くやっていると、バリエーションもどんどん増えていくのかもしれないけどね」
T編集委員によると、棋士の中にはタイトル戦を経験するごとに字が上達していく人もいるらしい。「渡辺明名人なんかは、20歳で初めてタイトルを獲得した時と比べると、今は本当に味のあるいい字を書くものなぁ」としみじみ語る。

なるほど。揮毫には、棋士の個性や人生観、キャリアがにじみ出ているのかもしれない。そう言えば、竜王戦七番勝負第4局では、立会人を務めた藤井猛九段が検討室で色紙に「藤井システム」と豪快に揮毫しているのを見た。「カタカナもありなのか」とその自由さに驚いたし、藤井九段らしいステキなファンサービスだとも思った。
さて、両対局者の場合はどうなのか。読売新聞オンラインで毎局、開催している「封じ手クイズ」のプレゼント用に、両者がこれまでに書いてくれた色紙の文字を調べてみた。
豊島竜王 「研道」「
羽生九段 「洗心」「

1局目用の色紙に書かれていたのは、豊島竜王は「研道」、羽生九段は「洗心」。両者とも、これまでいろんな場面で書いてきた言葉だけれど、戦いに臨む前の澄み切った心、もしくは心を研ぎ澄まそうという意思が強く表れている気がする。読売新聞の将棋担当Y記者によると、「研道」は「自分なりに将棋を研究し、道を究める」という意味で、豊島竜王がよく使う言葉だという。第1局はまさにその成果が表れた積極的な指し回しで、竜王戦七番勝負史上最短52手の決着という、歴史に残る将棋を繰り広げた。
そのほかの言葉も、両者のお人柄や決意がやはりにじみ出ているような気がするが、いかがだろうか。これまでの七番勝負の戦いを振り返り、それぞれの解釈で言葉の意味を味わっていただけたら、と思う。
そして、5日、箱根・ホテル花月園で第5局が始まった。初防衛に王手をかけた豊島竜王、土俵際からの逆転を狙う羽生九段は、どんな言葉を記してくれたのだろう。読売新聞オンラインでは第5局でも、両者の直筆サイン入り色紙が当たる「封じ手クイズ」を催している。(藤)