[観る将が行く]伝統の中にもキラリと光る個性、棋士の和服
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本紙Wカメラマンの写真で今期竜王戦のこれまでの対局を振り返る写真特集「最強の証明か、伝説の誕生か 第33期竜王戦七番勝負 第1~4局まとめ」を見てつくづく思った。能楽堂や世界遺産・仁和寺といった栄えある舞台をいっそう華やかにしているのは、棋士の和服姿ではないかと。
将棋の棋士はなぜタイトル戦では和服を着るのか。明文化された規定はなく、はっきりしたことはわからないが、第2局で立会人を務めた青野照市九段(67)が著書の中で、江戸時代に年1回、将軍の前で将棋を指した「

その青野九段に「棋士と和服」について聞いてみた。「私が若手の頃は、年配の方には和服を着ている人が多くいました。原田泰夫九段、富沢幹雄八段などは、洋服の姿はあまり記憶がありません」。その頃はまだ和服を普段着にしている人がいて、和服での対局はタイトル戦には限らなかったようだ。
青野九段の話は続く。「今の若手も対局は和服が本当の姿という思いはあると思いますが、普段の対局では、恥ずかしくて着ることができないという意識があるかと思います。従ってタイトル戦に出れば、和服を着用できるということではないかと思います。
私は(プロになる前の)三段の頃から、テレビやタイトル戦の記録係を和服でやっていましたが、今はほとんどの若手は和服を持っていないので、挑戦者になって、あわてて作る人が多いようです」。時代が移り、普段着から特別な舞台で着る服になったということなのだろう。
勝負服ともいえる棋士の和服にも、ここに来て変化が生まれているという。取材に応じてくれたのは、愛知県岡崎市の「大賀屋呉服店」7代目の植田浩一郎さん。第1期から竜王戦を観戦し続けている大の将棋ファンでもある。その植田さんが、「個人的な見解」とことわった上で、以下のような見方を教えてくれた。
「渡辺明名人の世代あたりから、棋士の和服姿はよりファッショナブルになった印象で、佐藤天彦九段などはその傾向が顕著です。歴代竜王の谷川浩司九段、佐藤康光九段、藤井猛九段は正統派、古典というかクラシカルな羽織姿が多かった印象に対し、グラビアやSNS、盤上解説会などでの写真うつりを意識したような、明るい印象の色遣いが多くなった気がします」。佐藤天彦九段といえば、ファッションへのこだわりから「貴族」のニックネームを持つ。アザラシの模様を和服に取り入れるなど、着ているものは個性的だ。

植田さんに、今回の対局者である豊島将之竜王と羽生善治九段の和服の着こなしについて聞いてみた。「豊島竜王は比較的、
羽生九段は、谷川九段や藤井猛九段と覇権を争っていた時代は、比較的正統派というか、クラシカルなものをお召しになっていた気がしますが、近年は着物デザイナー・キサブローさんに依頼した斬新なデザインの着物をお召しになったり、色紋付をお召しになったりと、新しいものを取り入れ、常に進化というか、むしろ若返りすらしているような印象です。これも、最新系もいとわないオールラウンダーな羽生先生の棋風を感じます」
対局者がどんな服で登場するのか。これも観る将の楽しみの一つである。(田)