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[観る将が行く]激闘の余韻に酔いつつ、思いは来期へ

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 観る将として竜王戦七番勝負の密着取材を始め、気付けばもう2か月が()つ。

 この原稿――「観る将が行く」の最終回――は、豊島将之竜王が悲願の初防衛を果たした翌日の夜、自宅で執筆している。いまだ激闘の余韻から抜け出せず、何を書こうか、いまいち自分でもまとまりがついていない。

 もしかしたら、小学生の作文のようになってしまうかもしれないが、それだけこの七番勝負が濃密な体験だったということで、ご容赦いただきたい。

盤上を見つめる羽生九段。対局中は、普段の柔和な表情とは別の顔を見せた(6日午前、神奈川県箱根町のホテル花月園で)
盤上を見つめる羽生九段。対局中は、普段の柔和な表情とは別の顔を見せた(6日午前、神奈川県箱根町のホテル花月園で)

 取材をする前に相手のことを調べておくのは、新聞記者のイロハのイだ。ただ、時にそうした事前準備が、本人に会った瞬間、木っ端みじんに吹き飛ばされる取材相手がいる。

 羽生善治九段もそうした一人だった。

 40代半ばの将棋ファンからすれば、憧れ中の憧れの存在だ。ほかのどのプロ棋士よりも、テレビやネット中継で対局を観戦してきたはずなのに、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂で行われた第1局、対局場に現れた羽生九段を見て、思わず息をのんだ。

 「羽生さん、でかっ!」

 プロフィルを調べた限りでは身長は172センチと、さほど大柄ではない。普段の語り口も穏やかで、寝癖がトレードマーク(?)になるなど、どちらかと言えば、「宇宙人タイプ」というイメージもあった。しかし、対局場で初めて見た羽生九段は全然違った。

 とにかく、存在感が半端ない。「(すご)み」と言ってもいいかもしれない。

 読者のみなさんにも、スポーツの試合などで相手と向き合った瞬間、「あっ、コイツには勝てないかも」と直感的に感じたことって、ないだろうか。例えるなら、そんな感覚だ。

 対局室に置かれた3台のリモートカメラで、この七番勝負を撮影し続けた読売新聞写真部のカメラマンWくんも同じようなことを言っていた。

 「対局中の羽生さん、ほんと怖いぐらいなんですよ」

 リモートカメラで、「羽生にらみ」と呼ばれる鋭い表情を何度も捉えてきたWくん。ただ、印象に残っていると話してくれたのが、対局中に羽生九段が離席した時の様子だった。

 「何かに没頭している感じで、すごい目つきでゆらゆらと歩いているんです。羽生さんのまわりだけ空気が違うというか、オーラが漂っているというか」

 そんなWくんは、決着局となった第5局では、両者の表情をとことん追うと決めていた。羽生九段の目は終盤、大勢が決したとみられた後でも、投了する最後の瞬間まで、決して戦う意志を失わない勝負師の目だったという。

念願のタイトル防衛を果たした豊島竜王。深い読みに裏打ちされた手は盤側をうならせた(6日午後、ホテル花月園で)
念願のタイトル防衛を果たした豊島竜王。深い読みに裏打ちされた手は盤側をうならせた(6日午後、ホテル花月園で)

 逆に、取材前の知識が、実際に会うことで心の底から実感できるケースもある。私の場合、豊島将之竜王がそうだった。

 豊島竜王の代名詞と言えば、やはり「序盤、中盤、終盤、隙がない」将棋だ。NHK杯テレビ将棋トーナメントでの佐藤紳哉七段(当時は六段)による「豊島? 強いよね」インタビューは、()る将の間で知らない人はいない伝説となっている。

 というわけで、七番勝負のどこかでこのフレーズを使おうと虎視耽(こしたんたん)々と機会をうかがっていたのだが、検討室では「隙がない」という言葉の意味を考えさせられることになった。

 指す将ではないので、自分は細かい戦術などは分析できない。ただ、自分でも分かったのは、検討室では「指しづらい」とされていた手が、後に「なるほど」となるケースが多かったこと。

 竜王戦コーナーの各局詳報ページをご覧いただければ分かる。例えば、第5局の60手目△8二飛。検討室では「我慢の一手」という声が多かったのだが、この一手が後に自陣の玉の守りにも、攻めにも効いてきた。

 第4局目の75手目▲6五角もそう。「角をここから打つ?」という驚きの声が上がったものの、手が進んでいくと、この角の筋が輝きを増していき、検討室のプロ棋士たちをうならせた。

 「ゾーンに入ったような瞬間もあった」。竜王防衛を決めて一夜明けた12月7日朝の記者会見で豊島竜王はそう語った。プロ棋士でも見落としがちな手を発見できる深い読み。それこそが、「隙のない将棋」の原動力なのかもしれない。

 最強の証明か、伝説の誕生か――。そんなキャッチフレーズでリポートしてきた第33期竜王戦七番勝負。いつまでもこのゴールデンカードを見ていたいというのが、正直なところだったが、気付けば、既に第34期竜王戦の予選は始まっている。

 初防衛を果たし、一つの壁を乗り越えた豊島竜王に挑戦するのは誰か?

 竜王戦はプロの男性棋士のみならず、女流棋士、アマチュアまで挑戦権獲得のチャンスがある、まさに日本一将棋の強い人を決める戦い。34期でも個性的な棋士の面々が、駒たちが躍動する数々のドラマを生み出してくれるに違いない。特に、豪華メンバーがそろった予選2組と言ったら、もう……!

 さんざんここまで書いてきて、こんな締めになるのも申し訳ないが、予選のトーナメント表を見てワクワクする自分に気付き、改めて実感している。

 これだから、観る将はやめられない。(藤)

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1691244 0 竜王戦 2020/12/10 16:55:00 2021/07/20 08:28:04 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201209-OYT8I50088-T.jpg?type=thumbnail

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