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18歳の藤井聡太は「私よりも気持ちが揺れない」…将棋レジェンド・谷川浩司九段の考察

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子どもたちに対局を見せて将棋を教える谷川浩司九段(左)と藤井聡太六段=2018年4月14日撮影
子どもたちに対局を見せて将棋を教える谷川浩司九段(左)と藤井聡太六段=2018年4月14日撮影

終盤の妙手と詰将棋

 ――藤井二冠はデビュー当時から、終盤での読みのすごさが特に注目されました。終盤戦で一気に勝利をつかむ「光速の寄せ」が代名詞になっている谷川九段から見て、藤井二冠の終盤力はどこが優れていると思いますか。

 「将棋の終盤というのは、やみくもに先を読んでいくわけではありません。自分の玉が相手の玉と比べてどれくらい安全か、または危険かなど、自分の玉と相手の玉の条件を整理して、それを基に手を考えていくんです。もちろん、妙手と呼ばれるものを突然ひらめくこともあるのですが、そのひらめきも、条件がきちんと把握できているから指せるわけです。突拍子もないような手に見えて、実はしっかりとした裏付けがあるんですね。藤井さんの場合、そこ(条件の整理と把握)が正確だと思います」

 ――藤井二冠は詰将棋解答選手権で5連覇を果たしています。

 「私自身、詰将棋を作る詰将棋作家でもあります。普段から詰将棋を作ったり解いたりしているからこそ、こういう手が浮かんだんだろうなと感じることはありますね。彼はこれまでに終盤で妙手をいくつか出していますが、私はほかの人が大騒ぎするほど、それが不思議な手だとも思わないです。ただ、実際の対局で、私がその妙手を発見できるかどうかと言えば、別問題ですけど」

 ――妙手と言えば、今期の竜王戦ランキング戦2組準決勝の松尾歩八段戦の「▲4一銀」( ※1 )ですか。

 「▲4一銀もそうですし、その前にも2018年のランキング戦5組決勝で見せた「△7七同飛成」( ※2 )がありましたね。ああした手も、自分の玉と相手の玉の条件を整理できたから浮かぶところだと思います。かなり専門的な話ではありますが」

 ――そうした条件整理には、ほかのプロ棋士もみな取り組んでいるのだろうと思うのですが、その「精度」の差といったものは、どこから生まれるのでしょう。

 「う~ん、そこは難しいですね。ただ、勝負が終盤になると当然、時間も無くなってくるわけです。そうした限られた時間の中で、正確に整理できるかどうかが差になっているのかもしれませんね」

 「詰将棋でいろんな手筋を知っていると、全く同じ局面は出てこないにせよ、パッと見た時に『これは詰む/詰まない』とか『この形はこの駒があれば詰む』というのを、素早く判断できるようになる。そういうものが知識としてあれば、読む時間は省略できるわけですね」

竜王戦ランキング戦2組準決勝、松尾歩八段(右)と対局する藤井二冠。終盤に繰り出した▲4一銀は現地解説のプロ棋士をアッと言わせた
竜王戦ランキング戦2組準決勝、松尾歩八段(右)と対局する藤井二冠。終盤に繰り出した▲4一銀は現地解説のプロ棋士をアッと言わせた

 ――詰将棋は必ずしも実戦では役立たないという意見もありますが、そうした土台の積み重ねが結局、終盤戦に生きているということでしょうか。

 「今の棋士はやることが多すぎるんです。昔は他の棋士の対局を研究しようとしても、棋譜を手に入れることが難しかった。だけど、今はリアルタイムで棋士の対局を見られて、研究材料が山のようにあります。棋士たちは日々、そうした棋譜をAIにかけて勉強しています。新たな戦術を生み出そうと思ったら、自分で考えた手順をAIにかけて分析しています。当然、昔に比べて詰将棋をやる優先順位は低くなるんですけど……。それでもやっぱり終盤力は大事ですから、詰将棋もしっかりやらないといけないと思います」

藤井曲線、その向きを誰が変えられるか

 ――藤井二冠のこれまでの将棋で、印象に残っている対局は?

 「渡辺明名人と戦った棋聖戦はいずれもすごい勝ち方でしたけど、個人的には負けた第3局が印象に残っていますね。連敗して土俵際に追い込まれた渡辺さんは、第3局に向けて研究を尽くし、それこそ90手ぐらいまで事前準備の範囲内で戦っていた。完全な渡辺さんの戦略勝ちではあるんです。けれども、藤井さんは形勢が苦しく、残り時間も大差をつけられるという厳しい状況に追い込まれているのに、とてもそういう感じには見えなかったですよね。敗れてなお強し、という印象。藤井将棋の、もう一つの強さを見せつけられた気がしました」

昨年の棋聖戦第4局で藤井聡太七段(左)にタイトルを明け渡した渡辺明棋聖=代表撮影
昨年の棋聖戦第4局で藤井聡太七段(左)にタイトルを明け渡した渡辺明棋聖=代表撮影

 ――負け将棋で強さを感じさせる、という人はめったにいないのでは?

 「最近、『藤井曲線』という言葉があるそうですね。詳しくは知らないですけど、AIの評価値で苦しい数字が出る局面が全くないまま、序盤・中盤・終盤と少しずつリードが広がっていく、みたいな」

 「でも、そればかりではやはり面白くない。他の棋士には藤井二冠を苦しめてもらいたいです。彼が劣勢になった時にどんな勝負手を繰り出してくるか。対戦相手の立場からみれば、藤井二冠の繰り出す罠を見破って、どう勝ちに結びつけていくか。そういう勝負もたくさん見てみたいです」

 ――ご自身が藤井二冠と対局した時には、どのような印象を受けましたか?

 「持ち時間が長い対局だと、昨年9月の順位戦でしょうか。とにかくよく考えるなと思いました。考えることが好きで、将棋が好き。未知の局面に入った時に、若くて手が見えるので、どんどん先が読めるんだと思うんですね。それが楽しいんだろうな、と……。私も若い頃は、気づいたら30分、1時間たっていたということもあったのですが、藤井二冠はいま、まさにそういう状態なんじゃないかと思います」

 「水面下で読むことは、必ずしもその対局で役立つとは限らないんです。けれども、そういうことの積み重ねが、後に財産になって、実力を高めることにつながっているのだと思います」

将棋と竜王戦の未来とは?

 谷川九段が語った「積み重ねる力」、そして負け将棋ですら見る者を魅了する藤井将棋――。AIが人の棋力を超えたとされる今でも将棋が絶大な人気を誇るエンターテインメントであり、芸術であり続けられるのはきっと、盤上の戦いが人間力のぶつかり合いそのものだからなのだろう。後編は、間もなく開幕する竜王戦の決勝トーナメント展望と将棋界の未来について聞く。

※注1  藤井二冠の▲4一銀 第34期竜王戦ランキング戦2組準決勝の松尾歩八段戦の終盤で放った好手。銀をただで捨てながら、後の展開を正確に読んで勝ち切った。ネット上では「神の一手」などと話題になった。

※注2  藤井二冠の△7七同飛成 第31期竜王戦ランキング戦5組決勝の石田直裕五段戦で繰り出した飛車と歩を交換する常識外の一手。後に「AI超え」の一手と評された。

プロフィル

谷川浩司 (たにがわ・こうじ)1962年生まれ、神戸市出身。14歳8か月でプロ入りし、83年6月、史上最年少の21歳2か月で名人位を獲得。97年には名人位通算5期獲得で「十七世名人」の資格を得た。終盤の圧倒的な鋭さは「光速の寄せ」と称される。著書「藤井聡太論 将棋の未来」は講談社+α新書より。税込み990円。

 ※谷川九段サイン入りの「藤井聡太論 将棋の未来」をプレゼント、詳しくは こちら

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2133003 0 竜王戦 2021/06/18 07:00:00 2021/07/08 17:09:52 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210615-OYT8I50028-T.jpg?type=thumbnail

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