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7・9注目の再戦、梶浦七段の1年はこの敗局から始まった…昨年の対羽生九段戦「観戦記」  

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 将棋の第34期竜王戦本戦準々決勝、羽生善治九段梶浦宏孝七段の対局が7月9日、東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われる。第33期竜王戦本戦準決勝と同一カード。昨期、本戦を4連勝で勝ち上がりながら、羽生九段に敗れた梶浦七段からすれば、「竜王戦ドリーム」実現に向けた再挑戦となる。

 注目の対局をより楽しむために、昨期の両者の対局を、大川慎太郎さんが担当した将棋観戦記で振り返ってみよう。

梶浦宏孝六段(右、肩書は当時)にとって、憧れの羽生善治九段との初対局だった

横歩取り 意外な戦型

 憧れの羽生善治との初対局でも、梶浦のスタイルは変わらなかった。

 8月13日午前10時に対局が始まると、先手番の梶浦は目を閉じて気息を整えた。初手はすぐに指されるのが普通だが、梶浦は時間を使う。▲2六歩と飛車先の歩を突き出したのは3分後だった。

 梶浦によると、奨励会時代からのルーティンだそうだ。「中学の頃、友人に『目を閉じて手を組み、親指同士が触れるか触れないかのギリギリの距離を保とうとすると集中力が上がるらしい』と聞いたのがきっかけです」と語った。

 梶浦にとって羽生は将棋を覚えた頃からトップ棋士で、「長時間で教われるのが本当にうれしかった」と語る。初手を指す前に高ぶる気持ちを落ち着かせていたが、対局が始まってすぐに梶浦の心は揺れ動いた。

 羽生が2手目に△3四歩と突き、横歩取りに誘導してきたからだ。「自分が先手なら相掛かりのつもりでした。羽生先生が変化するとすれば一手損角換わりだと思っていたので、横歩取りはノーマークだった」と梶浦は言う。居飛車党だから基礎的な知識と経験はもちろんあるが、本局に向けて細かく対策は練っていなかった。それでも▲5八玉と立ち、流行形を目指した。

(先)六段 梶浦宏孝 × 九段 羽生善治
▲2六歩 3 △3四歩 1
▲7六歩 1 △8四歩 3
▲2五歩 … △8五歩 …
▲7八金 … △3二金 …
▲2四歩 … △同 歩 1
▲同 飛 … △8六歩 1
▲同 歩 … △同 飛 …
▲3四飛 … △3三角 …
▲5八玉 …
5時間(△0・06分 ▲0・04分)17手

瞑想をした後、初手を指す梶浦六段。
2手目を指す羽生九段。梶浦六段を横歩取りに誘導した

狙いは端攻め

           △4二銀   5
▲3六歩  6 △4一玉   1
▲3七桂  1 △2二歩   6
▲3八銀  7 △7二銀   3
▲1六歩 21 △8二飛  18
▲1五歩 16 △8八角成 26
▲同 銀  … △3三銀   …
▲3五飛 53 △4四角  19
5時間(△1・24分 ▲1・48分)32手


 △4二銀に梶浦は▲3六歩。流行の「青野流」を採用した。1歩得のうえに飛車を3四に置いたまま攻勢をとれる。これが嫌で、横歩取りを指す棋士は一時激減した。

 羽生も「確かに青野流は優秀で、後手はその対策に苦心をしている印象があります」と語る。ひとごとのようにも聞こえるが、もちろん対策があるのだろう。最近は永瀬拓矢王座を始めとして、後手で横歩取りを指す棋士が再び増えている。

 △4一玉に▲3七桂。右桂を早く使えるのが青野流の魅力だ。対して△2二歩が最近、流行の面白い手だ。後に▲4五桂△8八角成▲同銀と進んだ時の▲7七角を警戒しているが、2筋が壁になり持ち歩も減っている。

 これを初めて指したのは、AIを使った研究が得意な大橋貴洸六段。羽生も思うところがあっての採用だろうが、梶浦は「意外だった」と語る。

 ▲3八銀△7二銀に梶浦は▲1六歩と突いた。2局ある前例は▲9六歩と▲3五飛だったが、別の手を指した。研究かと思いきや、「対局中に考えた手です。1筋を攻めるのが効果的だと思っていたんですけど……」と振り返る。△8二飛に▲1五歩と位を取り、後手は角交換をした。△3三銀▲3五飛△4四角と当てられた場面でどう指すか。

梶浦の誤算

▲8三歩 11 △同 飛  3
▲7七桂  … △3五角 13
▲同 歩  … △4四銀  2
▲3四歩 60
5時間(△1・42分 ▲2・59分)39手

 図はまだ32手目の局面だ。次に後手は△8八角成を狙っており、先手はこれを食らうとまずいのだが、防ぐのはそれほど難しくない。けれどこの次の手で形勢の針は後手側に傾いてしまった。

 梶浦は▲8三歩△同飛とつり上げてから▲7七桂と跳ねた。△8八角成は受かっているが、1歩を渡したのが余計だ。図では単に▲7七桂と跳ねれば形勢は難解だった。

 後日、梶浦は「▲8三歩はよくなかったです」と悔やんだ。「飛車を8三に移動させて、将来▲1四歩△同歩▲1二歩△同香▲5六角という筋を狙っていました。もちろんそんなに簡単には決まりませんが、含みにしておきたかったんです」

 先手の狙いは悪くなさそうだが、なぜまずかったのか。3枚の持ち歩を2枚に減らしたことで、誤算が生まれたのだ。

 本譜▲7七桂に羽生は△3五角と飛車角交換をした。▲同歩に△4四銀が好手。▲4五桂の当たりを先受けし、後に△3六歩を見せている。

 これに梶浦は▲2三歩△同歩▲2二歩と攻める予定だったが、△8九飛と打たれた際に▲8七歩と受ける1歩がないことに気づいた。8三にたたいた1歩が余計で、「歩切れになった瞬間に飛車を打たれるのをうっかりした」と梶浦は悔やむ。

 先手は長考に沈み60分で▲3四歩と突いたが、羽生の強烈な攻めを浴びる。

踏み込み

              △8七歩 64
▲同 銀  2 △同飛成  1
▲同 金  …  △7九飛  …
▲3三歩成 9 △同 金  4
▲6五桂 15 △7八飛成 5
▲6八角  1
5時間(△2・56分 ▲3・26分)49手

 図で後手が本局最大の長考に入った。羽生は熟慮に沈むと、眼鏡を外して首をぐっと下げ、畳の上を凝視することがよくある。目は閉じず、眼球は上下に行き来する。脳内の将棋盤が高速で動いているのだろう。

 64分。眼鏡をかけて顔を上げた羽生は△8七歩と打った。▲7九銀は△8九飛で悪いので、▲8七同銀。すると羽生は一閃(いっせん)、△同飛成と踏み込んだ。▲同金に△7九飛が厳しい。次の△7八飛成の王手金取りがわかっていても受けにくい。

 梶浦は▲3三歩成△同金と成り捨ててから▲6五桂と跳ねた。8七の金を取られるのは痛いが、△8七竜の瞬間に竜の位置が甘いと見て、強く攻め合いに出たのだ。

 それでも△7八飛成に▲6八角と受けるのがつらい。羽生は「それほど差がついているとは感じていなかった」と後で語ったが、下の図は後手が優勢である。8七の金を取れば角と金銀の2枚換えで駒得だし、何より竜の存在が大きい。

 非勢の梶浦は、羽生の指し回しに感銘を受けていたという。「後手はどこかで△5二玉と立て直すと思ったんですけど、羽生先生は感想戦で『手が戻るようでは』と否定的でした。形勢がよくてもラクをせずに、際どいコースを突いてくる。これが強さだと感じた」と語る。

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2180480 0 観戦記 2021/07/07 15:00:15 2021/07/08 16:55:24 梶浦宏孝六段(肩書は当時)にとって、憧れの羽生善治九段との初対局だった https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/羽生梶浦2020駒並べ2-e1625467123141.jpg?type=thumbnail

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