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    読売KODOMO新聞のイベントやコンテストを告知します。

    書き下ろし「奇怪BOX」第3話…12歳の文学賞

     小学生限定(げんてい)の小説コンクール「12歳の文学賞」の募集が今年も始まりました。

     KODOMOページでは、2012年に大賞に輝いた西堀(にしぼり)凛華(りんか)さんと、優秀賞を獲得した仲川(なかがわ)晴斐(はるひ)くんが、中学1年生になった昨年夏に読売KODOMO新聞のために書き下ろしてくれた小説を紹介しています。

     今回は、西堀さん作「奇怪BOX」の第3話。ヤブ医者ばかりという「山川病院」のウワサを聞くと……

     ・「奇怪BOX」の過去作品はこちら 第1話「ハエトリソウ」 第2話「モンタージュ

     ・仲川くんの「知らぬが仏」はこちら(第1回 第2回 第3回 第4回

     ・審査員を務める作家のあさのあつこ先生直伝!「小説を書く6か条」はこちら

     

    奇怪BOX 第3話 山川病院
    • 絵・岡本かな子
      絵・岡本かな子
     私は大通りでつかまえたタクシーに乗り込み、目的地へと向かっていた。10分ほど経った時、遠くでかすかに救急車のサイレンが聞こえた。ふいに、今まで黙っていた運転手が声を上げ、「あっちの方だと、山川病院だな」。
     私はびくりとして、「山川病院?」と聞いた。運転手はバックミラー越しに私をのぞき、「いやね、あくまで噂なんですけれどもね、山川病院の医者ってみんなヤブ医者らしくてね。あんまり人が近寄らないんですよ。だけど、あるじゃないですか、突然の事故。この辺りの救急病院は山川病院だけなんです。何しろあの病院、軽いケガでも“無言の帰宅”になるっていうから、さっきの救急車の人も不運だな。お客さん、この辺で事故しないでくださいよ」。
     運転手は少し声を上げて笑い、再びバックミラー越しに私をのぞいた。
     その笑みが、私には恐ろしく感じた。「い、嫌だな。噂話は苦手でね……」と、軽くつぶやいたが、運転手は私の顔に絡みつくような冷淡な視線を向けていた。が、やがて表情を戻し、「もうそろそろですよ」と言った。
     それから数か月後、私は不覚にも出先で階段を踏み外してしまい、頭をいやというほど打ちつけてしまった。まもなく救急車が呼ばれ、担架に乗せられると、救急隊員の話し声がとぎれとぎれに聞こえた。
     「白木病院ですね」、「急ぎましょう」。
     早くしてくれ。急いでくれよ。私は生きたいんだ。まだやることがたくさんある。体は少しも動かず、何度となく痛みに耐えきれず気を失ったが、私は必死に目を覚ました。そんな矢先、救急車が交差点で衝突事故を起こしてしまった。事故自体は軽いものだったらしいが、この救急車の運転続行は無理らしい。それを聞いて私は、今にも意識が途切れてしまいそうだった。
     隊員は私の容態を案じ、タクシーをつかまえて「この人を救急病院へ搬送してください」と頼んだ。
     病院に着いた時、私は目を覚まして安堵した。ああ、もう大丈夫だ、これで助かる。生きるのだ。かろうじて動く目で辺りを確認するとそこには……。「山川病院」の看板と、あの時のタクシー運転手のニヤリとした顔。
     「着きましたよ、お客さん」

     次回、奇怪BOX第4話(最終話)は「肖像画」です。公開は8月14日の予定です。

     「12歳の文学賞」は、9月30日まで募集中。詳しくは公式ホームページへ。

    2014年08月07日 10時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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