【俺はググらない】「人種や宗教が違うから戦争が起こる、というのは間違い」…紛争調停官・島田久仁彦さん

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 11月29日号の「俺はググらない」では、「戦争はどうやって始まるの?」というテーマで取材をしました。

 島田久仁彦さんは、紛争調停官として世界各国で起きるもめ事を解決するために奔走してきました。その回答は……。

島田久仁彦さん
島田久仁彦さん

紛争調停官の仕事

 これまで、ユーゴスラビアやイラク、東ティモール、シエラレオネ、レバノンなどで国連の紛争調停官として調停を行ってきました。今も個人的に調停に行っているところもあります。国同士の戦争、国と非政府組織の争い、町と町の間のいざこざまでいろいろな調停を行っています。

 

 紛争の調停を行うということは、「振り上げた拳を下ろすきっかけを探す」ということなんです。互いがそもそも争いを起こして何をしようとしていたのかという目的を再認識してもらうということ。結局はちょっとしたボタンの掛け違いということが多いので、問題に利害を有していない第三者が「ちょっと待ちいな」と入っていくのが有効なんですね。

 

 その際、どっちかのサイドに立ってしまうのはダメ。あくまで中立で、「お役に立てればと思って来ました」というスタンスを崩さずに入ることが大事です。互いの言い分を聞いて、「そんなに言ってることは違わないよね」ということを導き出します。折り合わないところに集中し、共通点を冷静に見いだすわけです。

 

 実際に戦地に入って調停を行うこともありますが、最近は戦地ではなく、たとえばヨーロッパの国際空港のようなところで双方と落ち合って話をすることも多いです。後ろで轟音(ごうおん)を立ててミサイルが落ちているようなところで調停をしようとしても、落ち着いて話せないんですよね。互いに笑顔が消え、言うことも強硬になってしまいます。戦地から離れて話をするとすごく冷静に話せる、ということもあります。

 

戦争はどうやって起こるか

 戦争はどのように起こるか、という質問についてですが、まず人種や宗教が違うから戦争が起こる、というのは間違いです。民族浄化、といったような話は全て後付けです。「現状よりもう少し資源が欲しい」「1ミリでも勢力圏を広げたい」。そんなふうに他者から何かを奪うことで得をしようという時に戦争、ケンカ、争いが起きます。

 

 もう一つ、誤解、つまり「コミュニケーションの失敗」が争い事の原因になります。何か言われたことについてその趣旨を確かめないまま相手が「こう考えているに違いない」と思い込んでしまったり、言葉の定義があいまいなまま話を進めてしまったり。相手の頭の中を勝手に想像して確認せずに突き進んでしまうことでボタンの掛け違いが起こり、戻れなくなってしまい、争いが勃発するのです。

 

 たとえば「カトリックの彼らはムスリムが嫌いらしい」「ムスリムが仕事をとっている」「子だくさんのムスリムが我々の社会を覆そうとしている」といった言説を全く確かめもせずに信じてしまうことが、争いの種になります。

 

 アメリカがイラク戦争を起こした際、「イラクは大量破壊兵器を持っている」という言説を多くの人が信ぴょう性のあるものとして受け止めてしまいました。これは、2001年のニューヨークなどで起きた同時多発テロでツインタワーを攻撃され、冷静さを失っていたというアメリカの世相が背景にあったと言えるでしょう。さらに言えば、イラクのフセイン大統領(当時)は化学兵器を使用した過去があるため、「あいつならやりかねない」という推測が成り立ってしまっていたという事情もあります。

 

 特に多民族、多宗教の国家ではちょっといざこざが起こった時に尾ひれがついて喧伝(けんでん)され、負の共感を生みやすいという事情があります。「あいつのせいで…」という思いが憎しみに変わり、「スキがあれば殺してやろう」となってしまいやすいですね。

 

調停のコツ

 では、そうした中で調停官はどうやって争いをやめさせるのかというと、「そもそものスタートは何だっけ?」ということを当事者に思い出させてやるんです。「どうして相手が悪いと考えるのか」「それは確証があるのか」といった話を聞いていくと、「もしかして相手の意図は自分が想像していたこととは違うのかもしれない」と気づいてくれることがあります。

 

 「もう少し領土や資源が欲しい」というエゴから戦争が始まっている場合は、そのために払う犠牲に目を向けてもらうようにします。「これを得るために何をあきらめますか?」ということを聞くのです。たとえば身近な例で言えば、隣の家との境界線を1センチ広げたいと訴訟を起こしたとしますね。そうすると、何年も裁判をして訴訟費用を払い続け、裁判の期間中ずーっとイライラし続けるわけです。それほどの犠牲を払う価値が本当にありますか?ということを問うわけです。

 

戦争を回避するには

 戦争が起きないようにするには、自分の頭で考えることです。アメリカのトランプ大統領が国際的に批判を浴びながらも一向に支持率が下がらないのは、支持層から「初めて自分たちを理解してくれた」という感覚を持たれているからです。そうやって自分のことを理解してくれる誰かが考えて解決してくれるはずだからその人についていこう、と思ってしまうと危ないわけです。

 

 誰かが「うまくいかないのは、あいつらのせいだ」と扇動すると、「そういえばそうだ」と疑心暗鬼を呼び込むことになります。これはIS(イスラム国)の戦闘員の教育の仕方でもあります。「今、君が苦しい生活をしているのは●●のせいだ」と言われて憎悪を増幅させていくことで戦闘員ができあがるわけです。

 こうした事態に対抗するためにも、自分にとっての常識を見失わず、自分で考えることは大事ですね。

 【ほかの人の回答は・・・】

 ◇時代によって変わる暴力のスタイル…宗教学者・石川明人准教授

 ◇「この生活を守るために戦争というものに抗っていくのだという感覚」…宇野常寛さん

52462 0 お知らせ 2018/11/29 05:20:00 2018/11/29 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181128-OYT8I50018-T.jpg?type=thumbnail

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