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    【俺はググらない】「この生活を守るために戦争というものに抗っていくのだという感覚」…宇野常寛さん

     11月29日号の「俺はググらない」では、「戦争はどのように起きるの」というテーマで取材をしました。

     宇野常寛さんは、日本のアニメ、マンガ、ドラマなどを分析しその潮流を論じる評論家です。宇野さんが編集した雑誌「PLANETS」最新号となるvol.10が今年10月に発行されました。

     この雑誌では「〈戦争〉と〈平和〉の現在形」として、戦争についての特集を組んでいます。この特集は宇野さん自身が「安倍晋三も憲法9条も(ほぼ)出てこない戦争特集」と解説するとおり、戦争放棄をうたった憲法9条を改正すべきか否かや、一連の平和安全法制に対する賛否といった論点は出てきません。

     現在、世界で起きている戦争の形態について論じ、戦争を起こさせないようにする「平和マーケティング」を紹介し、消極的な人でも生きづらさを感じることなく生きられる「消極性デザイン」が平和を実現できるかという思考実験を繰り広げています。

     こうした特集がなぜ今必要だったのか、そして戦争はどのように起こるととらえているのか、聞いてみました。

    • 宇野常寛さん
      宇野常寛さん

    戦争について特集した理由

     戦争や平和について語っている人は多いけれど、実際の戦争行為を減らしたり止めたりすることに関係ない次元での議論が多すぎると、ずっと思っていました。憲法9条の改正の是非をめぐる問題は、実質的に「有事の際に自衛隊をどう活用すべきか」とか、「遠い外国で、軍隊が介入しない限りもう絶対止まらないようなひどいことが起こっているときに、日本がどうすべきか」ということに対して、直接的に答える議論になっていません。どちらかというと、複雑な世の中から目をそらして、単純な「正義」を信じることで安心したい人が憲法や安全保障の問題にハマって安心したがることが多いので、現実離れした議論がすごく多い。

     憲法は誰かの人生を肯定してくれるものではなくて、国家というシステムをうまく使うためのOS、つまりプログラムのようなものです。つまり目的ではなく手段だと思うんです。そのことを、憲法を変えたい人も変えたくない人も全く分かっていない、という失望が前提としてあります。

     こうした議論が全くムダだとまでは思いません。しかし、自分自身が30歳、40歳という社会の中核にいる現役世代の1人として、もうすこし実質的な議論をしたいと思ったのです。

    経済、メディア、テクノロジー

     戦争というのは複合的な要因で起こるので、戦争が起きないように抑制しようと考える時、「この薬さえ飲めば絶対に起こらない」という決定的な処方箋はないんですね。抑制しようと思う側も様々なアプローチから対抗していかなければならないと思います。

     まず、メディアの影響というものは大きいでしょう。戦争ができる状態にもできない状態にも、社会をコントロールして持っていくことができますから。

     それに、戦争を支えるテクノロジーにも注目しています。たとえば軍用機が開発されなければ、空爆による大量虐殺というものは起こらないですね。第1次世界大戦以降の戦争で起きている、非常に大きな規模の市民の殺傷も起こらなかったはずです。もちろん、経済の問題としても考えています。

     経済、メディア、テクノロジーというこの三つは、戦争が起こり拡大する過程において果たす役割が重大なのに、相対的に注目度が低いと僕は感じていたんです。なので、今回の特集では、そういった面をピックアップすることでまずは戦争を多角的に考えてみたかったのです。それが特集の中の「平和マーケティングの可能性」や「消極性デザインで平和を実現する」といった記事に結びついています。

    なんで戦争は終わらないのか

     非常に残念なことなんですが、やっぱり人間は戦争をしたくなってしまう瞬間があるし、戦争を美しいと思ってしまう瞬間があるんですよね。坂口安吾の著作にもあるように。たとえ、それが自分を含む多くの人の人生を台無しにしてしまうものであったとしても、巨大な破壊や暴力、社会の運動によって、自分の人生や日常がガラリと変わってしまう瞬間というものを、人間は望んでしまうんですね。

     これは人間の欲望の問題なので、未来永劫(えいごう)消えることはないと思います。そうした欲望をいかに抑制していくか、あるいは他の誰も傷つけない形で発散していくかということが問われているのです。平和を作るためには、僕は人間は戦争が好きな動物であるということを直視することからしか始められないと思っています。

     こうしたことをはっきり誤解がないように主張していくのは難しいことだと思います。だからこそ、ボトムアップで平和運動を行うことが大事なのです。既存の平和運動を行っている人を見ると、自分の利権とブランディングが大事なように見えます。でも本当に大事なのは、「人死にが出ないこと」や「戦争が拡大しないこと」です。

     小規模だけど独自のビジネスモデルと独自の人脈を持っている、僕のような独立勢力が、次の時代のインターネットジャーナリズムのひな型を作れたらいいなと思っています。

     今回の特集でも、インタビューや寄稿をしてもらう相手として、インディペンデントなメディアを求めている人たちに刺さる人を集めようという考えで人選しています。右でも左でも既存のメディアしか見ていない人は、絶対このメンツに関心持たないんですよ。アンテナの高い、既存のメディアとは違う方向を求めている人の心に刺さるものを目指し、その通りにできたので、今回のPLANETSに対する手応えは大きいですね。

    長崎で過ごした幼少期

     僕の亡父は自衛官で、父親の勤務地が一時期長崎でした。4歳くらいの頃と、幼稚園の最後の半年から小4の夏まで、どっちも長崎県の大村市に住んでいました。

     そこで強烈な反戦・反核教育を受けていて、そういった中で子どもの頃から戦争について考えることはすごく多かったんですよ。歴史も好きだったので、すごく関心の高い問題でした。毎年、学校に呼んで講演してもらい、被爆者の生の声をいっぱい聞いています。こういう大量虐殺が人道的に許されて良いわけがないという、純粋な怒りみたいなものはいまだに持っています。

     でも、今の左翼とか右翼という人たちの議論が、本当の意味でこの被爆者の人たちが味わった絶望をくり返さないことにつながるとは、僕にはどうしても思えないんです。戦後日本の、肩を組んでジョン・レノンを歌うタイプの左翼運動やアメリカの核の傘に守られた一国平和主義。あるいは、憲法9条を改正すれば自分がアメリカと対等になれると思いこんでいる保守層。いずれの言っていることも、実質的な平和や核廃絶につながるとは思えないのです。

     国力が落ちている日本が、世界平和の実現にどういった役割を果たせるかというのも、難しい問題です。経済力の衰退と長期的な外交戦略の失敗によって国際的な存在感をどんどん失っていっていて、日本人だけがそのことに気づいていないというこっけいな状況に今はあると思います。

     そういった中で「唯一の被爆国・日本」というアイデンティティーを生かしつつ、もうちょっと(から)め手から様々な可能性を模索すべきなんじゃないかというのが問題意識の根底にあります。それはメディアからのアプローチがいいのかもしれないし、マーケットからのアプローチがいいのかもしれないし、様々な方法があると思っています。

    テロの時代のリアリズムから

     戦争というのは、基本的に人類がいる限り終わらないものです。戦後70年間通じて言われてきたことだけど、ここは単なる戦線の後方に過ぎないのです。観念的な話ではなく、実際にアメリカ軍の補給基地であるわけです。思いやり予算を日本は米軍にたくさん出していますしね。たまたまミサイルや弾丸が飛んでこないくらい戦場から離れているだけなんです。

     しかも、今はテロの時代なので、どこが戦場になるか誰にも分かりません。つまり、前線も後方も存在しないわけです。かつて戦争は非日常だったわけですが、テロに形を変えることで戦争は僕らの日常に入り込んでしまっている、と言えます。

     でもだからこそ、皮肉な話だけど、僕らは戦争と平和について以前、すなわち20世紀後半の時代よりも、身近に感じることができると思っています。今から30年前、テロの標的になる以前のパリやロンドンやニューヨークの人々と、現在のパリやニューヨークやロンドンの人々を比べてみてください。どちらが戦争というものを身近に感じるかというと、答えは明らかだと思うんですよね。

     そういったテロの時代のリアリティーから、平和に対して新しくボトムアップの運動が起こってくることに期待しています。これまでの既存の平和運動というのは、退屈な日常から刺激的な非日常への埋没、脱出でもあったわけですね。そうではなくて、日常で人々が生活しながら、この生活を守るために戦争というものに(あらが)っていくのだという感覚は、今の方が持ちやすいと思っています。この新しいテロの時代に、もう少し地に足のついた平和運動が生まれることに、僕は期待したいと思っています。今はまだ生まれてはいない、これからの話になると思いますが。

     あとがきにも書きましたが、今回PLANETSの特集を作っていて僕が一番壁にぶつかったのは、「戦争特集の雑誌には協力、寄稿したくない」っていう取材先がいくつかあったことです。それがどんな立場であろうとも、戦争について語ること自体を拒否するという文化が、この日本には根付いてしまっています。まずはそれを取っ払っていかないと、地に足のついた平和運動はできないでしょう。

     ※PLANETSについてはこちらから

     【ほかの人の回答は……】

     ◇「人種や宗教が違うから戦争が起こる、というのは間違い」…紛争調停官・島田久仁彦さん

     ◇時代によって変わる暴力のスタイル…宗教学者・石川明人准教授

    2018年12月05日 15時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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