【俺はググらない】なぜ戦争が起こったか? どんなことがつらいか?…6人のシリア人の答え

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 11月29日号の「俺はググらない」では、「戦争はどうやって始まるの?」というテーマで取材をしました。

(記事中の写真は難民キャンプの写真であり、回答者とは関係ありません)

 中東のシリアでは、アサド政権と反体制派との内戦が泥沼化し、もうすぐ8年がたとうとしています。反体制派と言っても一枚岩ではなく、様々な考え方の組織が林立している点や、近隣のイランやトルコといった国々、ロシア、アメリカなどの大国もそれぞれの思惑から戦争に参加している点などのため、内戦は長期化しています。ただ、最近ではアサド政権側が勝利して内戦が終息するのではないかという観測が流れています。

 シリアをめぐっては、人質になっていたジャーナリストの安田純平さんが10月に解放され、帰国しました。その際にはシリアに関する報道が多くありましたが、日本ではなかなか普段からその情勢が報じられる機会が多いとは言えません。

 読売KODOMO新聞(4月26日号)では、シリア出身のパレスチナ人ピアニスト、エイハム・アハマドさんの来日公演を紹介し、内戦の構図について解説しました。アハマドさんの来日公演を実現させた団体「スタンド・ウィズ・シリア・ジャパン(SSJ)」代表の山田一竹(いっちく)さんにも取材し、5月21日付の読売新聞に掲載。その記事はこちらから読むことができます。

トルコの難民キャンプに逃れたシリア人難民(2015年3月30日撮影)
トルコの難民キャンプに逃れたシリア人難民(2015年3月30日撮影)

 これまでの取材で山田さんと関係を築いてきたことから、今回、SSJと山崎やよいさん(シリア人女性の自立支援プロジェクト「イブラ・ワ・ハイト」の発起人)の協力を得て、シリア人の男女6人に取材することができました。6人はすべてアサド政権に反対する立場をとっているため、全てイニシャルのみの公開とし、名前は伏せています。いずれもフェイスブックのメッセンジャー機能を使って質問を送り、回答をもらう形式で取材を行いました。

 質問は次の3項目です。

 

 1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

 2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

 3、この戦争が終わるには何が必要か(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)?

 

 今回のテーマである「戦争はどのように起こるのか」という問いに対し、シリアの個々の国民が答えることは難しいかもしれません。しかし、自分の生まれた国が当事者として参加した戦争を体験していない記者にとって、「敵に対してどのような思いでいるのか」を知ることは、地に足のついた記事を書くために非常に大事なことだと考え、今回取材をさせてもらいました。

 この三つの問いに対する6人の回答を掲載します。回答してくれる6人を選び、また、いただいた回答を翻訳するのは、SSJと山崎さんにお願いしました。

 戦火のむごさについて、内戦の苦しみについて、インターネット上にこの記事が日本語で掲載されることには、少なからぬ意味があるのではないかと考えています。

 

M.I.さん(女性、60歳、トルコ在住、もと大学講師)

1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

シリア人難民(トルコの難民キャンプで、 2015年3月30日撮影)
シリア人難民(トルコの難民キャンプで、 2015年3月30日撮影)

 人々は自由を求める平和デモを起こしたが、それが弾圧された。そのために武器を取らざるを得なくなり、戦争へと発展した。

 戦争は殺戮(さつりく)であり、家を崩壊させ、人々を住んでいた場所から追いやり、職を失わせ、貧困をもたらし、避難を余儀なくさせる。避難民キャンプでは雨や寒さ、嵐などの厳しい条件のもとで暮らさなければならない。

2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

 私はシリア政権を憎む。また、人々を不公正に扱い、自由を奪ういかなるグループをも憎む。

3、この戦争が終わるには何が必要か?(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)

 国際機関による人々の保護がなされ、政権や全てのグループに対して法が適用されたならば、まずは戦争終結の望ましい始まりと考える。その後、公正で自由な国民投票が行われることが必要だ。

 

M.B.さん(男性、28歳、ドイツ在住、弁護士)

1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

 ここでは、まず定義をはっきりさせなくてはいけない。「戦争」というのは、アサド政権が平和的革命に参加した市民に対して、それを弾圧するために始めたものである。

 「戦争」というものが始まる前に、これは「革命」であったことを明確にすべきだ。革命がなぜ始まったのかと問えば、ここで答えきれない無数の要因があるが、主に45年に及ぶ抑圧や独裁、「国家テロリズム」、不当な拘束と抑留、汚職、略奪、縁者びいき、教育など社会に不可欠なシステムの崩壊などである。

 アサド一家とバース党は、シリアという国全体を45年以上にわたり、搾取していた。彼らとこのシステムを排除するということのほかに希望はなかった。ゆえに、この革命は腐敗し切ったシリアに終止符を打つ最後のチャンスであり、この革命はもっと早くに起こるべきだった。

 つらいことは、もちろん罪のない市民が殺戮されていくこと。自分も含めてあまりにも多くの人が拘束され、拷問された。いまだに行方の分からない家族を思う時の感情は、言葉で言い表せない。

2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

 私を含めシリア人にとって、最も重要で巨大な敵はアサド政権になる。ただ、バッシャール(アサド大統領)だけではなく、政府軍や治安部隊、秘密警察、そしてバース党など、この政権の歯車となっている全ての政府機関が敵となる。

 ただ、シリア人にとっての敵はアサド政権だけではなく、より多くいる。例えば、ロシアやイラン、ヒズボラなどアサド政権の支援者たちだ。しかし、このような敵は、その「使用人」であるアサド政権を除外することで倒すことができる。

 私にとってバッシャールとその政権は、「死の象徴」だと感じる。私たち人間が「生きる」ということの正反対を意味する存在だ。アサド政権が存続する限り、我々シリア人は「死んだ人間」として生きなければならない。

3、この戦争が終わるには何が必要か?(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)

 戦闘面での戦争は、アサド政権が有利な形でほぼ終結を迎えている。しかしながら、これはシリア人にとっては何の意味も持たない。なぜなら、この戦争はいかなる場合でも我々シリア人が望んでいたわけではないのだから。私たちは一度たりとも戦争が欲しいだなんて要求していない。

 一方、戦闘が終結することで平和的な革命が進行されることを望んでいる。この革命は、掲げてきた最終的な目的が達成されるまで、決して止まることはない。

 アサド政権が「死」を象徴している以上、この革命は我々シリア人にとって「生きる希望」を象徴する。この革命が終わりを迎えるとすれば、それは、この悪魔のような政権が退陣した時だけなのだ。

M.S.さん(男性、34歳、シリア在住、学校支援を行っている)

1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

 自由と尊厳を求める平和デモという形で、平和的革命が起こったから。しかし、アサド政権のこれらの平和デモに対する対応は、治安部隊による武器での弾圧だった。

 つらいこと? この戦争で友人や親戚を失ったこと。アサド政権による追跡のため、学業を途中でやめなければならなかったこと。学校への繰り返される空爆により子供たちの教育ができなくなってしまったこと。何回も場所を変えての避難生活(私は23回、場所を変えた)。人々が行き場(住み家)を失ったこと。仕事ができなくなったための貧困。医師が国外に出てしまい、医療スタッフが欠如したこと。

2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

3、この戦争が終わるには何が必要か?(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)

 まずは全ての拘束者(女性や子供、男性、高齢者を含む)を解放すること。次にはバッシャール・アサドを政権の座から退陣させ、罪を問うこと。大統領だけではなく、民衆に対して戦争犯罪を犯した治安機関も同様である。第3には、国連の後援を受けた各省庁を構築し、国の行政を委ねること。

 国際社会には、犯罪政権であるアサド政権から民衆を救うための支援が求められる。またIS(イスラム過激派組織「イスラム国」)に関しても同様である。

 

S.K.さん(女性、31歳、イギリス在住)

1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

 シリア政権が平和デモを弾圧し、それがエスカレートしたことの結果だ。デモのある参加者はその後、自分や家族を守るために武器を取った。シリア政権は彼らに対し、戦車や爆弾で対応し、再び事態はエスカレートし、集団拘束と平和デモ参加者の殺戮の半年後には、武装闘争となった。

 最も凄惨(せいさん)なことは、罪のない人々が惨めな境遇に貶められる中で、戦争成金が私腹を肥やしたことである。また友人が拘束され、死ぬまで拷問を受けるのを見るのはあまりにも耐え難いなこと。拘束の理由は、政権の弾圧から逃れようとしたのを彼らが助けようとしたからである。

2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

 アサド政権は、ISや他の過激派と同様に多くの人権に反する犯罪を犯した。この中でも政権の殺戮した人々の数はずば抜けて多い。政権はシリア人を弾圧し、闘争の最初の日から、コミュニティーを分断するためのプロパガンダを行った。

3、この戦争が終わるには何が必要か?(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)

 全てのグループを裁きの場に出し、拘束者たちを解放し、コミュニティーを再びまとめるために全てのシリア人に「暫定的な正義」を与える。そして最も重要なことは、この戦争のおおもとであるアサド政権を退陣させることである。

 「暫定的な正義」とは、司法的・非司法的方法で人権侵害のレガシーを是正するためのもの。この方法には犯罪者の訴追や真理追及委員会、賠償計画、各種制度計画などが含まれる。

 

M.M.さん(男性、32歳、レバノンでシリア難民支援を行うNGOなどで勤務してきた)

1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

 50年に及ぶバッシャールとその父ハフェズの独裁政治が背後にある。もちろん直接的な理由は、2011年、政府の治安機関が、壁に政権打倒を求める落書きをした7人の子供をひどく拷問したことに遡る。これが平和的革命の活発化につながり、6か月あまりで、革命に参加した市民は政府軍による砲撃や拘束、拷問にさらされることになった。これは、平和的な手段で自由を求めるという革命から市民を逸脱させるために行われた。

2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

 シリア人の多くは、自由を侵害する独裁と過激派に反対している。殺戮の数でいえばアサド政権が群を抜いているだろうが、残念なことに国際社会は過激派にだけ注目してきた。過激派が台頭する背景にある「アサド政権による抑圧」は完全に無視してきた。そして、ヒズボラという政権を支持するテロリスト組織などが、シリアの多くの街に侵攻し包囲していても、そのことを無視し、正当化してしまっている。シリア人はそのような街から追い出されているのだ。

3、この戦争が終わるには何が必要か?(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)

 アサド政権の退陣しかない。まもなく移行期となるが、やはり正義がなされなければならないと考える。殺戮に関与した全ての責任者を裁きにかける必要がある。

 復興は、11万以上の全てのシリア人避難者たちの「生きる権利」が保証され、アサド政権や過激派のいない状況で国を再建することを意味する。

 

B.V.さん(女性、28歳、シリア出身のクルド人、ドイツ在住)

1、なぜシリアの戦争が起こったと思うか? また、今どんなことがつらいか?

シリアからトルコに逃れた難民たち(2017年9月8日)
シリアからトルコに逃れた難民たち(2017年9月8日)

 戦争の始まりを語るなら、革命が戦争に優先されて語られるべきだ。アサド一族による長期にわたって多方面に染み渡る強権的政治体制、いや、王族システムが、シリアに敷かれていた。

 父のハフェズは非常に強力な形でシリアに恐怖統治を築いた。私たちは、幼いころから「壁に耳がある」と教わった。どこにいてもアサド政権やバース党についての文句など許されなかった。口を開いた人びとは皆、消え去った。

 私たちは経済やインフラの悪化、貧困、仕事不足、政府機関の矛盾や汚職と暮らすことを強いられた。バッシャールが大統領の座に就いてからは、事態はさらに悪化した。どこにも将来の希望は感じられなかった。当時若かった私の目標は、ただ国から出るだけだった。

 諜報(ちょうほう)機関の監視も強まった。「シリア人が3人いれば、そのうちの1人は諜報機関の人間だ」ということを友人や家族とよく言い合ったが、これは決して冗談ではなかった。

 みんな、心では、このような腐敗した状況にどこかで変革を起こさなければならないと分かっていた。アラブの国々では、市民が立ち上がり、独裁政権を倒すことが2010年から続いていた。私たちにも希望が湧いた。

 私たちは路上に出て、「尊厳、人権、自由、民主主義」を訴えたが、予想通り政権の対応はあまりにも暴力的だった。しかし、私たちも抵抗を続けた。シリア人は一つになった。少数派の民族や宗派が全て一つになり、革命に参加した。政権は、反体制派の市民が多く暮らす地域に戦車で乗り込み、次々と市民を殺した。市民は、平和的なデモに参加しただけで虐殺された。これに耐えられなかった市民は自ら武器をとった。自由シリア軍もこの時期に創設された。これで戦争に突入させられた。

 過激派の台頭やISの勃興には、アサド政権が大きく関与していることは間違いない。市民はみんなそれを知っている。ただ、国際社会だけがそのことを認めたくないのだ。

2、敵であるシリア政府軍にどんな感情を抱いているか?

 アサド政権と末端の兵士は、分けて考えるべきだ。これは強調しておく。アサド政権だけに限らず、シリアで戦闘する武装集団すべてに言えることだ。彼らは、生き残るために戦闘に参加している。飢えをしのぎ、家族を養うための最後に残されている手段が兵士となることなのだ。この状況、そして政府軍による市民の殺戮、このすべての責任はバッシャールとその一族にある。

3、この戦争が終わるには何が必要か?(終わらないのではないか、というあきらめの声や、「どうすれば良いかわからない」という回答も含む)

 戦争はそう簡単に終わらないだろう。あまりにも課題が多い。まず、アサド政権は軍隊とともに退陣しなくてはならない。そして、正義がなされるべきだ。復興は、市民により始められ、市民のために行われなくてはならない。大国は、自身の利益のためのすべての武装組織への資金・武器支援を停止しなくてはならない。シリアにいるすべての外国勢力は立ち去らなくてはならない。

 しばらくは中立の停戦維持を監視する組織が必要になる。ただ、中立な組織など存在しない。すべての被害者のための正義がなされなくてはならない。そして何より、人権と個々の人間としての尊厳がすべての市民に実現しなくてはならない。

 このように、シリアの戦争を終わらせるには無数の条件が必要だ。ただ、これはすべて可能なことだということも付け加えておく。

◆取材に協力してくれた山田一竹さんのコメント

 アサド政権に有利な形で内戦は間もなく終息するでしょう。だからこそ、取材に対してシリアの人々が語った一言一言が胸に突き刺さります。この8年、彼らはただ私たちとなんら変わらない「人間」として生きたいと願い続けてきました。国際社会がシリアを見捨てる中、シリアを守り続けてきたのは、シリア人たちです。彼ら不在のまま「復興」が進むことは、なんとかして避けなければなりません。

 この企画のように彼らの声を聞く必要性はこれまで以上に高まっています。シリアで起きたことは世界が記憶しなくてはならないホロコーストや、ヒロシマ・ナガサキに匹敵する「負の遺産」です。何よりも、そこで懸命に生きたシリア人の鼓動を私たちは胸に刻まなくてはならないのです。

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55155 0 お知らせ 2018/12/20 15:00:00 2019/06/06 12:39:49 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181218-OYT8I50136-T.jpg?type=thumbnail

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