【俺はググらない】心と行動・技術、両方の「全力」が必要…元プロテニスプレーヤー・松岡修造さん

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 全力のイメージが強い人と言えば、元プロテニスプレーヤーの松岡修造さん。いまは、テニスの指導を全力で行っています。

 松岡さんのアツい公式ホームページはこちら

 松岡さんの語る内容はとてもアツいのですが、語り口は実に冷静。テニスの指導者としての経験も踏まえ、「全力を出すには根性論だけではダメ」と教えてくれました。ならば、問いましょう。

 「全力とは、なんでしょうか?」

全力はどういう状態か

 松岡 周りから見てその人が全力を出しているかどうかって、正直分からないと思うんですね。分かるのは自分自身だけ。自分が苦しいときとか逃げたくなるとき、「自分が持っているものを100%出し切っているか」と自分自身に問いかけてみるんです。その答えとして「どこか逃げていた」とか「出せていない気がする」という思いがあるのであれば、全力ではないんでしょうね。

 ただ、僕が特に言いたいのは、全力と言っても、「心の全力」と「行動・技術的な全力」の二つがあるということ。たとえばテニスというスポーツで言えば、相手コートにボールを入れなきゃいけない。そういうときに力を入れてただ単に全力でラケットを振ればいいかと言うと、それは間違いですね。ボールをどのように相手コートに入れるかを全力で考える、打ち方も全力で考えるというのが、僕にとって「ベストを尽くしている」ということ。心の部分と技術的な部分、二つとも必要です。

 とにかく「やればできる!」とか「根性で頑張れ!」というだけではただの根性論で終わってしまう。これでは不十分です。だから僕は、指導するときに、「今からサービスをこの場所に打つ練習をするぞ、打ち方はこうで、考え方はこうだぞ、その中で全力を尽くせ」と教えます。ただ単に、「全力だ!」と言ってみても、それはただの根性論で、僕が思う本当の全力ではありません。

 ――全力でやれ、気合が大事だ、って言うだけではダメということですね。

 松岡 それでうまくなったり、夢が達成できるんだったら、その人に相当才能があるか、もしくはちゃんとした指導をすれば、もっとできる人なんだと思います。

 ――逆に言えば教える側がきちんと教えなきゃいけないわけですね。

 松岡 それは間違いなくそうです。何事にも基本というものがある。ただ、基本はくり返さない限り、自分のものにできない。最近は、その基本を得ようとする力を持った根気のある子どもが少なくなってきていると感じます。基本を避けて好きなようにプレーしたがる、それでうまくなれるんだったら、指導者は必要ないですよね。

 もっと言えば、正しい全力で技術も心も重なったときの成長度合いはとてつもない。子どもたちが、自分の中で全力でやっていてもうまくいかないことってたくさんあって。そういうときは多分、心の問題というよりも、技術的な問題だと思います。そのときはコーチに聞くべきですよね。方法論やアイデアをたくさん持っている人ですから。全力を出し切れない子どもたちをちゃんと導くのが指導者であり、その方法を教えてもらえば、全力を尽くせる。子どもたちは、「全力」と言ったとき、心の部分だけに目を向けがちなように思います。もちろんそれも必要ですが、技術的な視点も必要です。

 ――なかなか子どもの時ってそれに耐えられない。基本をくり返さないと全力を出せないっていうのは、とても厳しいお話をされていると感じます。

 松岡 でも、本当に成功したいのであれば、絶対避けて通れないことです。それを面白く、興味を持ってやれる方向に導くのが指導者だと思うんですよね。もちろん年齢にもよりますが、特に小さい子どもは、面白くなければ続けるのは難しいでしょう。だから面白くできる方法論、アイデアを考えていく。それが、指導者の「全力」だと思います。親や指導者が単純に「がんばれー!」と応援するだけでは、その効果は一時的なものに過ぎません。子どもたちが全力を出せるための面白い教え方や伝え方を、指導者が全力で考えることで、子どもたちは大きく変われる気がしますね。

どんな試合で全力を出せていたか

 ――松岡さんご自身が選手だったときに、「これは全力を出し切ったな」という試合を教えてください。

 松岡 勝った試合は、全力を出すとか、考えもしないと思うんですよね。むしろ、うまくいかなかったときや負けているときほど、僕の中では、全力を出していたと思います。普通は負けると、「全力を出せなかった」って言いたいですよね。それで納得できるから。でも、そういうときこそ頑張っているはずなんですよ、人は。そしてベストを尽くして負けたからこそ得られるものがあるんです。何が足りなかったんだろうという課題が見えて、その課題を修正し、人は成長していくと思います。

 だから失敗全然OK、負けるのも全然OK。ただ、全力を尽くさずに負けたり失敗したりした場合は、何も得るものがなくなってしまう。自分から逃げたとか、あきらめたといったマイナスの感情しか残らず、自分の悪いクセがどんどんついてくるから。特に子どもは、正しい全力を出せる良いクセをつけていくことが大事だと思いますね。

 ――どんな負け方をしたとき、自分は全力だったと思いますか。

 松岡 例えばマッチポイントを握ったのに勝てなかったとか、世界のトップ選手にあと1本というところまで追いつめたのに負けてしまったとか。勝利まであと一歩だった試合に負けてしまったという記憶は強烈で、ずっと心の中に残り、絶対忘れないものなんですよ。それだけ競っているんだから、全力を尽くしていないわけがない。全部出し切っているんです。それでも負けたのだから、そこには何かが足りない。

 もちろん、相手がうまかったということもあるでしょう。でも、「もしもう少し自分から攻撃していたら」とか「もう少し普段トレーニングしていたら」とか、いろんな思いがわいてくるわけですよ。その思いは、全部自分の成長や蓄えになる要素だと思います。ひとつも自分をマイナスにさせる要素はないんですよ、全力を尽くした中で出てくる反省点は

 だから僕は子どもにテニスを教える時には、「失敗したらガッツポーズ」とか、「負けた時は笑顔になろう」とかよく言います。誰も好きで失敗しているわけじゃない。全力を尽くして失敗したんだったら、ガッツポーズを作って、まずは失敗を恐れず全力を尽くせたことを喜んだ方がいい。そして、大切なのは、その失敗を反省すること。次にどのようにすれば同じ失敗をしないかを考えてみることが更なる成長につながるんです。

全力の出し方

 ――いざというときに全力を出すために心がけていることはありますか。

 松岡 一番簡単なのは、言葉です。消極的な言葉は使わない。「できない」とか「ムリ」って言いそうなときには、逆の意味の言葉を使う。「できる」、「やれる」。そうすると、「できる」って言っちゃったわけですから、できるために何か探そうとするわけですよ。不思議なことに、「できない」とか「ムリ」とか言った時点で、探す力がゼロになるんです。

 テニス選手はミスしたときも、基本は平常心でいるように見せています。もちろん心の中は平常心なわけがない。そこは全力で演技しています。全力で前向きにしようと思って演技をするんです。でも、特に子どもたちは「できない」とか「ムリ」とかマイナス表現をしてしまいがちです。そのマイナス思考を、それこそ全力でポジティブに変換して演じていく。そのクセ、技、習慣を身に付けると、全てのとらえ方が変わってくると思いますね。

 ――それは自分に言い聞かせるんですか、それとも人に言うんですか。

 松岡 それは自分にですね。できる、できる、と自分で言葉にして言うんです。すると、じゃあどうすればできるのか、って一生懸命探し始めるんですよ。特に子どもはそれで大きく変わりますね。

 たとえば「全力を尽くします!」って下を向いて言う人はあんまりいない。前向きな言葉ですから、自然と上を向くんですよ。でも「ムリです」とか「あきらめます」といったネガティブな言葉のときは下を向いてしまうんです。まず簡単にできることとして、目線を上にしておくことが、全力を出す条件でしょうね。下を見ると、自分をネガティブに持っていくマイナスの要素がたくさんうようよしている

 ――自己暗示みたいなことですか。

 松岡 それはあると思いますね。メンタルトレーニングです。ただ、自分のやり方でいいと思うんですよ。自分が前向きに全力を出せるクセとか方法は、人によって違っていいと思うんです。たとえば「右手を上に挙げるだけで全力を出せる」、そういうクセとかシステムを自分の中で作っておく。いわゆるルーチンですね。イチローさんもバットを前に持ってきて上げますよね。全力を尽くすための準備、ルーチンなんですよ。どんなに状態が良くても悪くても、必ず同じルーチンを行うのは、自分の心を整える儀式みたいなもの。そういう「全力儀式」みたいなものを自分で作り上げていくといいと思います。

 ――松岡さんはどういうルーチンをやっていたんですか。

 松岡 たとえば、手でボールを4回ついて、ラケットでも4回ついてからサーブに入る、など回数は全部決まっていました。他にも、右足でラインを踏まない、とか。ちょっと神経質なんですけどね。アスリートやトップの人になればなるほど、そういうルーチンは多くなってくると思いますね。自分らしくいられる、全力を出せるというひとつの暗示です。

 ――「ラインを踏む、踏まない」と「全力を出せるかどうか」は理屈としては関わりはないわけですよね。

 松岡 関わりはありません。けれども、自分の中では、それを踏まなかったことで、気持ちよく全力でできた、と思うわけです。こういった「全力儀式」の中に、マイナスに見えるようなものって多分ないと思うんです。自分が前向きにとらえられるようなひとつのクセをつけていくのがいいと思いますね。

 ――ボールを4回つくのは、時間を置いて平静を保つということなんですか。

 松岡 それはリズムだと思いますね、1、2、3、4っていうリズム。そのリズムで、心がゼロベース、プラマイゼロの状態に戻れるんです。勝っていても負けていても。それはすごく大事なことです。仕事でもルーチンがあると思います。たとえば、朝起きたときは、必ずトイレに最初に行くとか、人によって全然違うでしょう。このルーチンが、いつもと同じ自分でいられるように、全力を尽くせるようにしていくんですよね。

 ――逆に気がついていなくても、マイナスの暗示をかけちゃうルーチンってありますか。

 松岡 たとえば「言い訳」のような「悪いクセ」がそうですね。つらいときに「つらい」と言うのは、みんなに「しょうがないよ」って言ってもらうためのアピールです。子どものときに比べて大人になるとそれは通用しなくなっていく。自分をポジティブな方向にもっていけばいくほど、正しい全力ぐせがつくはずです。

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639203 0 お知らせ 2019/06/15 11:40:00 2019/06/20 12:37:29 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190614-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

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